「いつもポツンとひとり」の人がリーダーになって気づいたこと

その人は、仕事やプライベートでもいつもふつうに話をしているように見えました。ぶっきらぼうに話すわけでもなく、和やかに楽しそうにいつも話をしています。

ですが、例えば勤務先では業務上の仕事以外の話となると、どうも何を話したらよいのかわからなくなります。

プライベートでも、その人はあるスポーツを習いに毎週のように通っていますが、そこの仲間たちとも練習中に必要なことは話をしますが、練習が終わると途端に話すことがなくなってしまう、そんな気持ちになってしまいます。

そして、いつも気がつくとポツンとひとりっきり。周りにたくさんの人がいるのに。

それでも、スポーツは個人的な上達を楽しんでいるし、「ひとりっきり」の状態になってしまっても気にしないようにしていました。

仕事では、いわゆる雑談をすることもなく、いや、雑談することができないのかもしれませんが、業務をコツコツとこなしていました。

ある日、その人は職場であるプロジェクトのリーダーに選ばれました。そう、グループメンバー数人を率いる立場になりました。

その人は、張り切ってプロジェクトを進めていこうと思いました。

最初のうちは順調に進んでいるように思っていました。だけども、時々、妙な気持ちになってしまう自分に気がつきました。

仕事の進め方や問題への対処方法など、滞りなくメンバーたちと話し合ってきているので、プロジェクトの進捗は満足のいくはずなのですが、その満足感や達成感みたいなものをメンバーみんなと気持ちの上で共有できているかというと、そうではない、とふっと思ったのです。

みんなで一緒にプロジェクトを進めているのに、なぜか、いつもポツンとひとりっきりになっているような少し寂しい気持ちがこみあげてきていました。この気持ちはなんだろう、と。

気にしないようにしていたつもりが、少しずつ気になり始めてきました。

自分のそういった気持ちを人に打ち明けることなど過去にない、その人でしたが、とうとうある時にある人に相談してみました。

ある人は、こう尋ねてきました。「あなたは自分以外の人に興味や関心をもつことがありますか?」

その人は、「もちろん、ありますよ。」と答えようとして思いとどまってしまいました。興味や関心をもっている人って、もしかしたら自分の家族ぐらいかも。

仕事で、プロジェクトで、スポーツの習い事で、そこにいる人たちにも興味や関心をよせているかとあらためて聞かれると、それは「No!」と言わざるをえないかなと。

いやいや、もしかしたら家族でさえも、本当の意味で関心をよせていないかも、と。

そして、その人は、いろんな人たちから、こんなことを言われたことを急に思い出しました。「あなたは思いやりがないね」とか、「いつも人のことは、ほったらかしだね」とか、「もっと寄り添ってあげた方がいいんじゃない」とか。

そんなことを言われたときは、自分はそんなことはないし、思いやりもそこそこあるし、ほったらかしていないし、少しだけかもしれないけど寄り添うこともしてきたし、と心の中では思いながら、これまではあまり気にとめていませんでした。

でも、今回そのある人に「興味・関心はあるのか」と尋ねられた、その時は違ってました。

「ああ、自分は自分のことしか気にかけていなかった」急に胸が引き締められるような感覚が襲ってきました。

人に興味や関心をもつと自分の何かが変わるのだろうか。人とのかかわりが変わるのだろうか。そして、メンバーとの気持ちのつながりがもてるようになるのだろうか。

でもそうだとしても、人に興味や関心をもつというのは、どんな心持ちでいればいいのか、わからない。そもそも、人に興味や関心をもつ必要はあるのか、と頭の中ではこの理性的な部分がぐるぐると駆け巡っていました。

その人は、頭の中と心の中が全く相反する状態になってしまい、もやもやとした気持ちで過ごすことになってしまいました。

もやもやはいつまで経ってもはれることはなく。このままでは何も変わらないと思い、何かトライしてみることにしました。

人に興味や関心をもつ、ということがわかるようになるまで、まずはプロジェクトのメンバーの一人ひとりを観察することにしました。

こんな時、コミュニケーション上手な人は、一人ひとりと会話をするところからスタートするのかもしれませんが、その人にとって、それはまだハードルが高いと感じていたので、とりあえず他に自分にできるところからやってみることにしました。

メンバーは、どんな時にどんな表情になり、どんな口調になるのか。調子のよさそうな時、そうではなさそうな時。メンバー自身の意見が通った時、否定された時。メンバー同士で話をしている時、自分と話をしている時。いろんな「時」を観察してみることにしました。

そんなことを繰り返していると、いつの間にか「どうしてこの場面でそんな表情になるのだろうか」「どうしてそんな口調になるのだろうか。」「今、どんなことを考え・何を感じているのだろうか」といった、その理由が知りたくなる場面が少しずつ増えてきました。

もしかすると、この気持ちが「人に興味・関心を抱く」ことのきっかけになるのかもしれない。

そんなことを、その人は感じ始めていました。

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