妄想:6月のはじめ、日本人は大移動する

そう、これからの考えられない夏の暑さに備えて、田舎に移動します。

冬の間にこの大移動に耐えうる環境をつくります。林や森が人々の住む場所として最適になるように。リピーターの要望に少しづつ応えるように。通信環境は念入りにチェックし、リモート環境を強化していきます。そして何より、氷づくり。自然の力+自然由来のエネルギーにより作られた大量の溶けにくい氷を山や谷の氷室に貯蔵するのです。

そして、地域間競争を勝ち抜くため、今年の目玉も仕込みます。6月から8月末まで、その工夫で来年もリピーターを引き付けるのです。演芸・園芸でもよし、縁結びでもよし。昔から蛍が飛ぶ夜は縁も飛ぶ。愛しい二人がそっと手を合わせて包みます。

田舎は冬が大忙し。時間を割くことができるリピーターも手伝います。自身の夏別荘のために。田舎の人々との交流を深めます。そして、夏、ここで仕事に集中できるように整えます。地域丸ごと氷室冷房を整えるのです。

実は田舎の人々は夏も忙しい。大移動で訪れた人々には見えないところで川や浜辺や道路や危険な場所などを整備します。快適に過ごしてもらえるように草木伐採や、にわか雨で増水しても適した水の流れを維持するのです。それも、田舎の風物詩。肉体の続く限り、夏を過ごす人々のために。

毎年、梅雨明けか夏の終わりの豪雨で田舎の人々の中から作業中に亡くなる人が現れます。それもこの大移動につきもの。都会の人のために何人かは人身御供として差し出さねばなりません。太古より住み着いている神々への生贄です。そうやって、大災害を免れてきました。夏は大移動で人が増えます。だから、神々の荒ぶるところを抑えるように、その地域に古くから住んでいる人の中から神々が選んで人間界から引き抜いていくのです。

今年も、歴代の人身御供を供養するために、盆踊りが始まります。都会から避暑にやってきた人々も一緒に輪になって踊ります。そして、神々により縁結びとなったあの二人も、新しい命を授かってこの地に根を下ろし、その新しい命も大人になって、ひょっとしたら、夏の作業で神々に引き抜かれるかもしれません。

そうやって、夏の大移動は繰り返し行われていきます。神々の思うところ、荒ぶるもこの世とも思えぬ楽天も、この輪の中で生きていく。


#日経COMEMO #NIKKEI

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