2006_1202世界一周part20029

日本を棄てた人々(世界一周の旅~マレーシア④)

キャメロン・ハイランドという土地の名前を初めて見たのは地球の歩き方であった。特に興味があったわけではなかったが、KLからタイへ行く道中にあるということで、KLからバスで向かう。

到着後、サトルさんお勧めのFather's guest houseに向かうが、個室は満室だという。虫さされに悩まされていたこともあり、ここらへんで一度ドミじゃない個室に泊まろうと考えていたので、どうしたものかと思案していると、レセプションでたむろしていた東洋人っぽい顔の人から、「日本人?」と聞かれた。彼は小牧さんという60歳ぐらいの方で、理由はわからないがこのホテルのドミに長期滞在しているという。この年で何故こんな辺鄙なところで?と思ったが、此方が何も言わなくてもずっとしゃべり続けるので、聞く機会を失ってしまった。

ホテルの個室が一杯で、という話をすると、近くに住んでる日本人に泊めてもらえるかどうか話してくれるという。なんで知り合いとかいるんだ?そんな簡単に泊めてくれるのか?と半信半疑、いや、10%信90%疑ぐらいの確率で向かうと、50歳代ぐらいの田中さんという日本人男女が迎えてくれた。夫婦だと思ったが、兄妹だという。ちょっとした話をはさんだ後、自分を泊めてくれるかという話をすると、信じがたいことにOKだという。今日初めて会った大学生のバックパッカーを自分の家に泊める等、逆の立場だと信じがたい話だったが、良い機会だと思い有り難く泊まらせてもらうことにした。

とりあえず歩いて街を見たかったので荷物を置いて外に出ると、小牧さんもついてきた。この人も日本語に飢えているのだろう。自分が外務省に興味があるという話をすると、外務省は体たらくだとか、西園寺家がなんとかとか言っていたけど、話が長すぎて全く頭に入らない。唯一記憶に残っているのは、ウツボカズラの話。虫を誘い寄せて出れなくして消化液で溶かして栄養を取るという。日本では全く見たことのない植物でマジマジと見てしまう。

このおじさんを振り切る為、ご飯を食べて帰る予定であることを伝えると、ご飯迄ついてくるという。一緒にインド料理屋に行って更に演説を聞いた後、疲れて田中さん宅に帰宅。おじさんがお菓子等色々用意して下さっていた。どこの馬の骨ともわからない人間にこんなにしてもらって本当に感動する。

夜、おばさんも戻ってきて色々な話をした。彼らは日本からキャメロンに他の2人の姉妹と共に最近移住してきたという。2人の姉妹は1人の病気とその看病の為一時的に日本に戻っているが、移住理由は「日本は近い将来必ず破綻する」からだという。おじさんは、『新円切替』という本を見せてくれたが、「どんな想定をしても将来的に預金封鎖は必ず起こる」ということで、兄妹4人で移住を決意したという。その他にもフィジーなどを検討したが、Permanent Visaの価格等の理由でマレーシアにしたとのこと。

その当時は、こういう意思決定をする人がいるという事実に二重の意味で驚愕したものだ。日本経済はそんなにヤバイのかという点と、わざわざ日本を棄ててしまうのだという点。そのことをきっかけに移住を考えようという思考にはならなかったが、日本の先行きについて本気で考え始めたのはその時からだろう。そして、自分が50歳近くになったときに、例え日本が財政的に立ち行かなくなっているとしても、海外移住まで考えることができるのだろうかと考えた。当時は、おいしい日本食が食べられなくのは嫌だなとかぐらいしか思わなかったが、今はたくさんのお世話になった人がいる日本を棄てることはできないと断言できる。

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