装釘のすばらしい書物06 07

「春琴抄」
谷崎潤一郎
昭和11年6月創元社刊

四六判角背上製本。背クロスつぎ表紙。表紙はボール紙に漆塗り、表1の表題の文字は金文字にてすべて手書き。背は金箔押し。
未晒し黄ボール製の粗末な帙が付いている。見返しは和紙もみ紙。
表紙の漆は黒漆と朱漆塗りの二種類がある。装幀は谷崎本人による。(「名著復刻全集解説」より)

わたし個人としては、この「春琴抄」の装幀が最も衝撃的なもののひとつですが、「装丁探索」(大貫伸樹)によると、当時批判もおおかったようだ。背のクロスがすぐにボロボロになってしまったり、漆塗りの角が剥がれてしまって下地が見えてしまうなど、
孫引きなるが、寿岳文章は「しかし悲しいかなその美しさは工芸としての健全な正しい美しさではない。病的な歪んだ美しさである。(中略)もっと真摯に、もっと正しく、和書のよき伝統を如実に再現しなかったのであろうか。……」とある。
たしかにそう言われると至極うなずけるのだけれども、
わたしとしてはこの「病的な歪んだ美しさ」に惹かれるし、谷崎がよくいわれるように日本の古来の美というものを再現していたかというと、そうではなくて、谷崎自身は近代の人であり、近代人から見た日本の美を再解釈したのであり、装丁も「和書のよき伝統」を近代的フィルターによって奇形させたものになるのだろうと思う。まさに「大谷崎」と言える大きさである。

「新版春琴抄」
新装版 創元社 昭和九年

いくつかの批判を受けた後の再版本は、新装版と銘打っていわゆる中綴じ本に変更された。
507ページもある本を真ん中で紐で綴じた中綴じ本。週刊誌などに使用される製本方式である中綴じを採用。ページ数が多いと真ん中と外側ではみ出してしまうので(ミーリング)あまり選択されない方式。
「和書のよき伝統」と批判された事への腹いせなのかもしれない。などと勝手に思っている


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