見出し画像

【時事】PFAS汚染【OTV報道スペシャル「水どぅ宝」を観て】

概要

【予告動画】OTV報道スペシャル 『水どぅ宝』

『水どぅ宝』水先案内人・津嘉山正種さんからのメッセージ

STORY
島国の沖縄では、人々の命を支える“水は宝・水どぅ宝”。
しかし、その水に異変が起きている。

2016年、沖縄県は45万人に供給される北谷浄水場の水道水に有機フッ素化合物・PFOSが含まれていたと発表。それは人体への悪影響が指摘され、国際条約で使用が原則禁止とされた化学物質だった。

県民が不安を募らせる中、2021年8月―
米軍は日米で協議中にも関わらず、汚染物質を含む汚染水を公共下水道へと放出。理由は「従来の処理では、財政的な負担が大きい為」というものだった。PFAS(有機フッ素化合物の総称)は、胎児や子どもの成長に悪影響を与えるとされる物質。母親たちは国に直接抗議した。しかし、その後、日本政府がとった対応は母親たちが到底納得できるものではなかった。

2021年、県内各地でPFAS汚染が吹き出した。
金武町でも水道水に国の基準値を超える汚染物質が含まれていたことが発覚。汚染が確認された取水源が米軍基地のフェンス沿いであることなどから沖縄県や町は「汚染源は基地内である蓋然性が高い」として立ち入り調査を求めるも…、調査は実現していない。
壁となっているのは「日米地位協定」。

日米地位協定で蔑ろにされているのは、沖縄だけはなかった。東京の横田基地、青森県の三沢基地でも基地内の水が汚染されている事実が明るみに出ている。人々が口にする水道水に影響はないのか!?

2021年12月―
普天間基地に隣接する小学校のグラウンドに向かって伸びる排水管から、汚染水が流されていた恐れがあることをフリージャーナリストのジョン・ミッチェルさんが突き止めた。
「子どもたちの健康に影響はないのか、調べてほしい―」
県民の声は日増しに大きくなり、この春、汚染に抗議する初の県民集会が開かれた。子どもたちを守るため立ち上がった人々の姿を追った。

沖縄の水汚染は、見て見ぬ振りが出来ないところまで来ている。番組の水先案内人は、沖縄県出身の名優・津嘉山正種さん(78)。戦後の収容所暮らしから立ち上がった津嘉山さんは、そのまま本土復帰50年の生き証人。

その目に映る本土復帰50年の「沖縄の現在地」を描き出す。

OTV報道スペシャル 水どぅ宝 HP より引用

OTV報道スペシャル「水どぅ宝」を観て

 とてもよく調査された、かなり良質なドキュメンタリーだと感じた。沖縄を中心としてPFASの問題がどのような経過をたどってきたのかが分かりやすく映像化されていたのと同時に、水質汚染関連の映画や事例の紹介もあり、このドキュメンタリーを入口にしてPFAS問題について学び始められるような「教科書」のようなドキュメンタリーだと思った。

 特徴的だったのが、データとして数字を多用していたこと。例えばアメリカのPFASの基準値は70ng/L(日本はもう少し低くて暫定基準値が50ng/L)で、これは25mプールに塩を2~3粒入れた程度の濃度というような説明の仕方がされていたが、いかに水の汚染が簡単に起きるのかが非常に分かりやすく説明されていたと思う。

 日本ではPFASに対して水道水中のPFOSとPFOAの暫定目標値を合計で50ng/L以下とする案を2020年2月に厚生労働省の水質基準逐次改正検討会が了承したが、有害性が次第に分かってきた他の有機フッ素化合物は規制対象となっていなかった。(PFASには、PFOSとPFOA以外にもPFHxSやGenXなど多くの化学物質が含まれており、これらの人工化学物質群を総称してPFASと呼んでいる。下に図解あり。)

 その後、2021年4月、特にPFOAとその塩が化学物質審査規制法(化審法)の第一種特定化学物質に指定され製造・輸入が原則禁止されることになったが「PFOA関連物質」は含まれていなかったり汚染地域住民の血液検査や疫学調査が行われていない点も課題としては残っている。

 PFASの問題については、そもそも「何それ?」という反応をする人は多いと思うし、なかなか正確な情報を手に入れるのが難しいのも現状だ。そうした中でこのように情報をまとめ、データを示して解説をしてくれる映像資料は個人的にも非常にありがたかった。

PFASとは何か

 PFAS は per- and polyfluoroalkyl substances(読み方は「パー・アンド・ポリフルオロアルキルサブスタンシズ」)の略称で、PFOS、PFOA、PFHxS、GenXなどの人工化学物質群を総称したものだ。日本語では「パーフルオロアルキル化合物、ポリフルオロアルキル化合物及びこれらの塩類」とも訳される。

PFASは特定の人工化学物質群の総称

 PFASは約4,700種類の化学物質群の総称だが、そのPFASの中でも特に代表的なものが PFOS(パーフルオロオクタンスルホン酸)と PFOA(パーフルオロオクタン酸)だ。

 PFASは非常に安定した性質を持っており、自然環境では容易に分解しない。土壌や水に留まり続ける様子から「Forever Chemicals(永久に残る化学物質)」とも呼ばれているが、その中でもPFOSとPFOAは炭素原子が8個ついているタイプ(長鎖PFAC)で、特に寿命が長いという特徴がある。そのため消費者向けの製品で広く使用されてきた。

PFOS構造式(出典:DOWAエコジャーナル

 しかしPFASには生物蓄積する可能性があるということが分かり、1970年代後半になると人への健康被害、特に生殖毒性や発がん性などの問題を引き起こすことが知られるようになった。一説によると、アメリカの成人人口の95%以上に検出可能なレベルのPFASが存在しているとさえ言われている。

 日本では2020年にようやく水道水中のPFOSとPFOAについて暫定目標値を設けるなどの対策が講じられてきたが、沖縄県内の米軍嘉手納基地やキャンプ・ハンセン周辺の水源から高濃度のPFASが検出されている問題では、沖縄県側が米軍基地内への立ち入り調査をできないなどの問題が未だに山積みだ。

 この水を取り巻く問題では、そもそもPFOSやPFOAがどんなものなのか、そしてそれらを取り巻く環境についての自己決定権がどのくらい認められているのかという点を自分たち一人ひとりがちゃんと知り、理解することが大切だと思う。

基地問題(≠基地)に反対するということ

 PFOSやPFOAを取り巻く環境についての自己決定権がどのくらい認められているのかという視点は、イコール基地問題をどう解決していくかという視点に繋がると思う。

 ここで気をつけたいことは「基地問題に反対すること」と「基地に反対すること」を混同しないようにすること。基地という存在への賛否は安全保障の問題なども絡んでくるため、人によって大きく価値観が違うが、冷静に考えてみれば「基地問題」に「賛成」する人は一人もいないはずだ。むしろ基地自体には「賛成」の人のほうが、基地の存在そのものを揺るがしかねない基地問題には「反対」するだろう。

 もし基地問題に賛成、もしくは容認する人がいるとしたら、それはおそらく、この問題に無関心な人たちだと思う。無関心でいるから、米軍基地内でいくら水や土地が汚染されても、またその水が自分たちの生活用水に流れ込んできていても何も言わず、むしろ声をあげている人たちを「どうせ県外から来た活動家、プロ市民だろ」などと言って攻撃してしまうのだと感じる。使い古された言い回しだが、結局のところ、無関心は権力の暴走を止めることができないだけでなく、むしろ権力の最も強力な味方になってしまう、ということだ。

 ちなみに日米地位協定で定められたルールの中には、基地を返還する際に汚染された土地を元の状態に戻さないといけないというルールは実は存在しない。つまり米軍は土地を汚すだけ汚したとしても後始末の責任がなく、米軍の行動に対してストッパーとなるものが全くない状態になってしまっている。もちろん日米地位協定内で定められていたとしてもそれを米軍が守るという保証は一切ないのだが…。

 ここがかなり重要なポイントで、例えば保育園や小学校に米軍戦闘機から危険物が落ちてくる事故や騒音の問題なども、そもそも米軍側が日米地位協定の運用ルールを守っていれば、ここまでは酷くはなっていないはずだ。一番の問題は米軍が日米地位協定で定められたルールすら守っていないために多くの基地問題が起きているということ。

 普天間基地の辺野古移設についても、反対している人たちの意見はこういう部分を指摘していて「ルールを守らないのであればいくら場所を移転しても根本的な解決にはならない。ルールを守る気がないなら、もう沖縄から出て行ってくれ」という意見なども多く耳にする。

 こういう構造的な視点がないと、「単に結論ありきで反対しているだけでしょ」とか「中国からのスパイでしょ」とか「お金もらってやっているんでしょ」というようなデマやフェイクニュース、短絡的な批判に流されてしまうだけだと思う。

 基地問題の本質とは何か、『水どぅ宝』はそうした視点も学ばせてくれる、非常に良質なドキュメンタリーだったと思う。一人でも多くの人に観てもらいたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?