そいつは音を立ててやってくる

家の近くにあるファミレスも、コンタクトを買った帰りに寄ったファミレスにもあのロボットはいた。席にやってきてピザをテーブルに置くと「ご注文ありがとニャン」と言い残して去っていく。もしくは頭にあるボタンを押して戻ってもらう。この流れがファミレスの当たり前になり始めた。

昔付き合ってた人のすきなところのひとつが、店員さんへの態度だった。
並んで呼ばれた時の小さくて少し焦り気味な「あ、はい」とか。注文した時、商品を持ってきてくれた時に2、3回小刻みに頭を下げるところとか。頭を下げながら「ありがとうございます」と言ってたところとか。
思い返してみると、多分いちいち小緊張していたんだと思う。本人には言わなかったけど、序盤は色々テンパるタイプだと感じていた。でも、毎回ちゃんと緊張してるところが素敵だった。そんなところがすきだった。

店員さん側だったこともあった。
ドーナツ屋で接客業をしていた時、コーヒーを持って席を回っていた。学生だったからか、それとも場所的な問題なのか、幸い怒鳴られることはなかった（忘れただけかもしれないけど、それならそれでいい）
逆にいい人のことはよく覚えている。その人は毎朝、コーヒーとドーナツを注文していた。ドーナツの種類も同じものだった。席について本を読み、合間でコーヒーを飲み、ドーナツを食べていた。おかわりを勧めたら「お願いします」と目を合わせて一礼して、注ぎ終わると「ありがとうございます」と一礼してくれた。バイトでも社員さんでも同じ声のトーンだった。今でもその方は、お客さんのお手本として私の中に残っている。

配膳ロボットが増えた。
付き合ってた人はロボット相手でもちょっと焦るのだろうか。素敵なお客さんのあの人はロボット相手でも一礼するのか。
私はロボットがきた時の音に毎回びっくりして、頼んだ商品をとるのに緊張を覚え、自分で戻らない場合はどうすればいいんだって焦っている。