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アップデートされた「周期記録」の記事を書いてみて考えた、身体現象としての月経

マイナビニュースとMac Fanで、iOS 16でアップデートされた「周期記録」の記事を書かせていただきました。Appleのヘルス担当バイスプレジデント、サンバル・デサイ博士にメールインタビューする機会をいただき、それを元にした内容です。

とはいえ、基礎体温とか排卵予測ってなんのこと? と思われる方も多いことから、その辺の概略にわりと紙幅を割いた形になっています。製品発表会で機能の説明は聞いたがよくわからん、という人類の半数の方々にもご参考いただければ幸いです。

私自身も正直そのあたりの理解はフワッとしていたので、改めて学び直し、9月のアップデート以降2ヶ月強にわたって実際に使用した上で執筆した次第です。実際に使ってみるお、かなりいろいろな発見があったんですよね。上記の記事にはあまり個人的な感想を入れませんでしたので、自分用メモも兼ねてここで書いておこうと思います。

「周期記録」のうれしいところ

iPhoneをお持ちの女性なら、サードパーティ製の月経管理アプリをお使いの方が比較的多いのではないかと思います。現在使っていない方は、何でもいいので使うことをお勧めします。自分の体内で起きていることの見える化はQOLをけっこう左右します。

月経管理は長年使うほどデータが蓄積され、別アプリへ移行しにくくなります。国内でメジャーな「ルナルナ」はスマホ誕生のはるか前、2000年にサービスをスタートしていますから、20年来のユーザーがいるわけです。私は「Period Tracker」というアプリを使っており、最古のデータは2009年です。海外製でUIは微妙なのですが、当時はあまり選択肢がなく、途中で新しいアプリが出ても結局乗り換えるのが面倒で使い続けていました。

そして、Appleが「ヘルスケア」に「周期記録」機能を追加したのが2019年。完全に後発です。私は仕事柄ハウツー記事のためにしばらく使ってみましたが、UIに馴染めず、結局当時は使い続けるには至りませんでした。

それが、今回Apple Watch の新モデルで使える「手首皮膚温」機能と併用することでその印象が変わりました(「手首皮膚温」についてはマイナビニュースの記事をご覧ください)。

UIが月経周期の理解を助けている

私がこれまで使っていた月経管理アプリは、メイン画面がカレンダーでした。日付をタップし、月経開始・終了や体調などを入力する仕組みです。それに対してAppleの「周期記録」のメイン画面は、楕円が横に並び続ける謎のUIです。これでは周期の全体像を把握しにくいと思っていました。

しかし、基礎体温と月経・卵胞期・黄体期のサイクルを理解すると、このUIがそれを正しく認識するのに役立つことがわかります。

つまり、こういうことですね。

基礎体温の基本的な変動と、「周期記録」の履歴表示。
実際には低温期・高温期の違いはこんなにハッキリとは出ないことの方が多いです

私はこれまで、とにかく先々の月経期間を把握することを一番の目的にアプリを使っていましたが、基礎体温サイクル全体を見る視点を持つとこんなに身体の理解度が変わるのか、という点は大きな発見でした。基礎体温と同等の指標となる「手首皮膚温」をApple Watchで計測していたからわかったことでもあります。

Apple Watch Series 8を使用中の女性の方は、「周期記録」を使うかどうかはともかく、「手首皮膚温」機能は使っておいて損はないと思います。

予測がかなり正確

実際に「手首皮膚温」を計測したところ、あまりハッキリと高温期・低温期が出ていなかったので、これでは予測しにくいのかな…と思っていたのですが、月経開始日は10月・11月ともに正しく予測されました。ということは、過去の排卵日推測も概ね正しかったと考えられます。

他の月経管理アプリもAI搭載などで精度は高くなっていると思いますが、「周期記録」の場合は「手首皮膚温」などのデータに基づいているところに安心感があります。

余計なものがない

この点はかなりユーザー体験を左右するものだと、2ヶ月以上使ってみて実感しました。とにかくシンプル。ユーザーが使うのは月経期間や症状の入力(タップ)だけ。今日の体調予測や気持ちに寄り添う言葉、お役立ち(?)情報・読み物の配信等はなく、何より広告が一切ありません。

それらを必要とする方ももちろんいらっしゃると思いますが、私は何かと情報過多な生活ゆえにこうした実用アプリは本当に実用だけにとどめてもらえるほうがうれしいです。あと、ピンクとかハートとかの要素が散りばめられていないのも個人的には安心します。

ヘルスケアアプリの中で、健康に関わる情報として、また多数あるデータの中の一つとして、他の情報と平等に扱われているわけです。

この分野へのAppleの参入が遅かったのは良いことではありませんが、月経を別扱いせず、ヘルスケアの一部に組み込んだのは良いことだったと思います。性欲とか愛情とかはまた別の話として、月経はもっと普通に身体の現象として扱われていい事柄だと思うので。

「周期記録」のイマイチなところ

ここまで書いておいてなんですが、やっぱり誰にでもすぐに勧められる感じでもないなーと思うポイントもありました。

UIがわかりにくい

先ほど述べたように、私にとっても「周期記録」は謎UIでした。すでに使い慣れたアプリがある人に無理に乗り換えを勧めるのは難しいと思います。結局、カレンダー型の方が仕事・生活のスケジュール管理と付き合わせやすいですからね。特に「手首皮膚温」対応のApple Watchをお使いでない場合は、乗り換えコストに見合う利点はそこまでないかもしれません。

日本語がわかりにくい

ヘルスケアアプリの方針なのか、科学的に正しいことが優先されているのか、理由は不明ですが、UI上の用語が感覚と一致しません。例えば「症状」のチェック項目だと、「腹部仙痛」とか「痤瘡」ってどんな症状? 「腰痛」と「骨盤痛」ってどこで判別する?とか。あと「点状出血」は英語だと「Spotting」なのですが、これって“点”ではなく“期間”の意味でのSpot=不正出血のことだろうな、とか。

こうした部分で敬遠してしまう人って結構いるのではないでしょうか。WWDCではUXライティングのセッションも実施しているAppleさんのことですから、日本語ローカライゼーションもぜひがんばっていただきたいです。

アプリとして認識しにくい

一番はこれですかね…。Apple Watchには単独で「周期記録」アプリのアイコンがあるのですが、iPhoneだと「ヘルスケア」→「ブラウズ」タブ→「周期記録」と掘っていかないと閲覧すらできません(「よく使う項目」に登録すれば1階層浅くなるけど)。「ヘルスケア」自体が一般的にはよくわからんアプリの部類に入ると思うので、積極的に使うにはハードルが高いし、月経管理に使うことを自発的に気付くには結構なリテラシーが必要ですし、「周期記録」という名前からして月経管理だと伝わらない場合もあるんじゃないかと思います。

そもそも「ヘルスケア」そのものが、あまり入力で使うことを前提とした設計になってないと思うので(Apple Watchとかその他のアプリとデータ連携が中心)、その意味では「周期記録’だけ全く使い方が違うんですよね。ヘルスケア情報の一つとしてフラットに扱ってくれているのはいいのですが、使い方が違う機能たちといっしょくたなっていることの矛盾……。ヘルスケア連携対応のサードパーティ製アプリを使うのが正解なんですかね…。


今回、自分でちゃんと「周期記録」を使ってみたことで、良さもよくわかりましたが、同時にこれを人に勧めることの難しさも実感しました。私自身、乗り換えのハードルが高いことはよくわかるので無理に人に勧めることはしません。ただ、(繰り返しになりますが)手首皮膚温を使える方はぜひ一度使ってみていただきたいと思います。

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