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書籍紹介 「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?」 山口 周

「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?」山口 周
という本を手に取ってみたのは、以前読んだ「世界のエリートはなぜ、「この基本」を大事にするのか?」が面白く、その続編(たくさん出ていますが)かと思ったせいでした。しかしよく見ると作者は違います。内容を読んでいくと、これは便乗商法でもオマージュでもなく、アンチテーゼではないのかと思うようになりました。そして内容も腑に落ちるものが多かったので、紹介させて頂きたいと思いました。

まず作者が主張するのは、経営は「サイエンス」「クラフト」「アート」のバランスが大切だが、この三者が主張を戦わせると
「アート」は非常に立場が苦しいということです。なぜならば、「サイエンス」「クラフト」「アート」が主張を戦わせると、
「アカウンタビリティ」を持てない「アート」が必ず負けるからです。

アカウンタビリティは言語化できる、または再現できることであり、「サイエンス」の要諦です。
「クラフト」とは経験知と言い換えて良いと思いますが(昔はこうした、あれで成功した、というヤツです)
「クラフト」もまたアカウンタビリティを持ちます。
「アート」は、なぜか分からないけどいい感じ、のように言語化できない側面があります(そうじゃないのもあるでしょ、とは思いましたが)

一見すると、「サイエンス」「クラフト」に頼ることこそが、経営的には正解のように見えますが、著者はここに「アート」が加わらなければうまくいかないと言います。

1)(作者の研究によれば)画期的なイノベーションが起こる過程では、しばしば「論理と理性」を超越するような意思決定が行われている
2)「デザイン」と「経営」には本質的な共通点があり、それは「エッセンスをすくいとって、後は切り捨てる」ということ
3)言語化できることは、全てコピーできるとすると、コピーできないところ(ストーリーや世界観)で戦うべき
4)IT業界のような変化が激しい世界において、現行の法律に立脚してグレーゾーンで荒稼ぎする手法は非常に危険であり、美意識に代表される規範に則って(自律的に)行動すべき

などがその理由です。

面白いのは、脳を損傷して感受性や情動が減退した患者で、社会的な意思決定の能力が著しく無くなるケースが多くみられたと言う報告(仮説)です。
意思決定には、論理的な思考や判断以外に、美意識のようなものが影響しているのではないか、というものです。

その他にもオーム真理教とコンサルタント会社、新興ベンチャーの類似性など、おっと思うような持論も展開されます。

”2002年に戦略コンサルティングの会社に転職し、昇進や評価のシステムに関する説明を入社時研修で受けた際に、すぐに「この組織はオウムの仕組みとそっくりだな」と感じたことを、よく覚えています。”

とありますが、一歩間違えると「とんでもサイエンス」などと揶揄されかねないので心配になる程です(笑)
このあたりは現在の情報だけでは判断しかねるところもあるのですが、本書にもあるように、話(システム)を鵜呑みにせずに自分で俯瞰し吟味できる力をもって、判断しないといけないな、などと思います。

最初に書いた「世界のエリートはなぜ、「この基本」を大事にするのか?」はゴールドマン・サックス、マッキンゼー、ハーバード・ビジネス・スクールで得た基本の話なんで、まさにアンチテーゼ(宣戦布告?)ですね。

最後の方ですが、マツダの「魂動」デザインを例にして、「デザイン思考のアプローチの真逆」が必要ではないかという話も興味深いです。
著者はデザイン思考はデザインとありますが、これは問題解決の手法であって、創造ではないと断じます。
マツダのゴールは、問題解決ではなく、「感動の提供」です。
自分も「魂動」デザインはなんかいいな、と思っていたので、ナルホド感ありました。

全体の感想ですが、今まであまり考えなかった視点から、経営や創造、倫理や社会を論じる良本であり、ちょっと人にも勧めてみたいと思いました。

以上です。

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