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【作曲者による】伊賀拓郎【ライナーノーツ】

今回、3曲好きなように作って良いと委嘱を受けました。好きに、と言われましても…普段、なんとなくでも曲の方向性のオーダーを貰って楽曲を書いている身としては、「じゃあ好きにやってちょうだい」といきなりほっぽり出されると急に心細くなるものです。

さてどうしようかな。
そうですねー、例えば…
この世の中には自分の好きな作曲家や曲がたくさんあります。しかし、クラシック界の大作曲家とされる彼らは既に鬼籍に入った先輩方。とても素敵な曲を残していますが、そんな彼らの曲がこれ以上増える事はありません。
じゃあそんな大好きな作曲家の語法を真似て、彼らっぽい曲を作ってこの世に彼らっぽい曲が増えたら俺が嬉しいのでそうしましょう。

霧と小雨の夜 - Foggy and Drizzly Night


というわけでこの曲はドビュッシーがテーマです。
そしてタイトルにある通り、霧がかった小雨の降る夜。
石畳の通りに人影はほとんどなく、
たまに傘を刺した黒い影が目につくくらい。
そんな様子を小窓から眺めながら、
スコッチを1人傾けつつ物思いに耽る…

というイメージで作ってみました。
霧深い上にスコッチだとフランスじゃなくてイギリスかもしれません。

寒い国からの旅行者 - A Traveler from Cold Country

「ジャズっぽさ」を目指してジャズっぽいフレーズをただ譜面化しても、カッコよく演奏するのはなかなか難易度が高いんですよね。
まぁその理由や他諸々については長くなるので省きますが、
その点カプースチンはやはり素敵です。
クラシカルなアプローチやグルーブ感、解釈のまま演奏しても、楽曲の持つコード感、展開、フレーズの妙によって、ジャズともクラシックともつかない、唯一無二の音楽性を感じれます。

という事でもちろんこの曲はカプースチンです。
正確には、「伊賀の記憶の中にあるカプースチンのイメージの残像を伊賀フィルターを通して出力したもの」です。しっかりとカプースチンを分析し、再現したというわけではないので悪しからず。

飛び跳ねるように変わっていくフレーズやコードの移り変わりによる色彩の変化を楽しんでいただければ幸いです。

演奏難易度は結構高いです。
木村さんとはかれこれ20年近い付き合いになりますが、彼はできない事は何も無いので、何を書いても良いんです。
曲を作るにあたってこんなに楽でかつ楽しい事はありません。
何書いても弾いてくれます。

ついでにピアノも結構難易度高いです。

子守唄 - Lullaby

制作も三曲目に入りもはや見境がなくなってきた私は、ラヴェルのイメージに寄ろうと思ったら無意識にフレーズまでラヴェルに寄りすぎて、木村さんにNGを喰らいました。ごめん。という事でちょっとだけ修正を施しましたが、もちろんまだまだ全然ラヴェルな曲です。

霧と小雨の夜が、その雨の様子や夜の重い空気、風景を見つめる情景の曲なら、それと違いこちらは、木漏れ日の中で母が子に歌を聞かせているその歌自体、その心情の曲です。三曲の中では1番個人的な視線や心の動き、内面といったものを感じてもらえる曲になっているかなと思います。

が、もちろんここに書いてある事など関係なく、聞き手や弾き手次第で何でも自由に感じていいのが音楽ですけどね!せっかくのライナーノーツって事で解釈の一つを書いてみた次第です。しゃらくせえ。えへへ。

という事で、この時代に於いて新作を作る意義や哲学など微塵も感じさせないただただ趣味に走った三曲ですが
お楽しみいただければ幸いです。


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