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世界には映画が溢れている(MUBI Libraryのすすめ)

 ギャーーーーー!!! 昨日からとんでもないサービスが始まって世界中の映画ファンが大変なことになっています。オンライン配信サービスMUBIが「Library」という機能を始め、そのラインナップがすごいことになっているからです。

 MUBIは世界中のアート系映画や過去の名作映画に特化した定額配信サービス。毎日1本ずつ作品が追加されますが30日経つと1本ずつ消えていき、常時30本の映画が観られるようになっています。価格は720円/月か5,800円/年で簡単に申し込めます。日本ではここでしか観られない映画も多くあり映画好きにとってはありがたいサービスです。

 この「30日で観られなくなる」というのがMUBIの特徴だったのですが、なんと今回「Library」で過去の配信作の多くが常時観られるようになりました! すごい!これはすごすぎる! 早速ラインナップをチェックして興奮している人が多数観測されています。

 ただひとつ問題なのが英語字幕しかないこと。これは辛いです。私も英語字幕で観るのは気力と体力が必要でしんどいです。英語が2割理解できれば内容の8割は理解できると誰かが言っていたのを信じるしかありません。でもポン・ジュノも言っていたじゃないですか。「1インチの字幕という壁を越えることができれば世界中の素晴らしい映画と出会うことができます」と。というわけでMUBIのLibraryから字幕の苦労が少ない短編映画のおすすめを紹介していきます。

「Asparagus」(スーザン・ピット、1979)

 フェミニズム・アートの先駆として名高いスーザン・ピットによる18分の短編アニメーション。字幕がないし短いので最初に観るにはいいのではないでしょうか。桃井かおりが「誰もこの映画を分析しないでね」と語ったようにただただ圧倒的な画のパワーに魅了されます。日本でもファンが多く昨年亡くなったときは追悼上映が行われました。

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 2016年に『アメリ』などと併映されていたときのユジク阿佐ヶ谷さん恒例の黒板アート。

②「Meshes of the Afternoon(マヤ・デレン&アレクサンダー・ハミッド、1943)

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 今なお多くの映画に影響を与え続けるマヤ・デレン。26歳のときに製作してカンヌ国際映画祭で実験部門のグランプリに輝いた代表作です。あまりに美しくて目眩がしますね。こちらも14分なのですぐに観られます。

「Boro In The Box」(ベルトラン・マンディコ、2011)

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 ポーランドの映画監督ヴァレリアン・ボロフチクになりきってなぜかずっと箱をかぶっている奇妙な短編映画です。ベルトラン・マンディコ監督は若くしてファンタジックホラー路線を完全に突き詰めて2018年カイエ・デュ・シネマベストテンの1位に選ばれるほどの逸材になりました。『シンプルメン』のエリナ・レーヴェンソンと私生活上のパートナーでもあり共に来日もしました。この映画について昔分析したツイートを引用したかったのですがアカウントが凍結されました。許せん。

「The Fall」(ジョナサン・グレイザー、2019)

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 『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』が絶賛されたジョナサン・グレイザー監督による最新短編(7分)。タイトルどおり「落ちる」をテーマにしたワンシチュエーションスリラーです。音楽は「アレハンドロ・ランデス『猿 Monos』」というnoteでも詳しく書いたミカ・レヴィ。挑発的で不穏な空気を醸成しています。

「Ashes」(アピチャッポン・ウィーラセタクン、2012)

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 アピチャッポン・ウィーラセタクンは配給システムに乗って映画館で流される「映画」と美術市場で売買される「映像作品」を垣根なく製作する作家です。もともとMUBIとのコラボレーション企画として発案され、トイカメラのLomo社の35mm手回しフィルムLomoKinoで撮った作品です。東京都写真美術館で2016年に開かれた個展でも上映されました。ティルダ・スウィントンが一瞬映っています。

「Atlantiques」(マティ・ディオプ、2009)

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 セネガル系のルーツを持つマティ・ディオプは女優としても活動しながらアフリカ系移民についていくつかの作品を発表してきました。本作はキャンプファイアを囲む男たちの会話劇から背後の状況、彼らがこれから挑もうとしていることとその危険を想像させます。この短編と同名の『アトランティクス』が2019年のカンヌで初長編にしてグランプリを受賞しました(Netflixにあります)。これも昔ツイートしたのにアカウントが凍結されました。許せん。

 長編映画も行こうと思うのですが、とにかく観てほしい映画がたくさんありすぎるので一気に並べていきます。

『地獄の黙示録』
『ペルソナ』
『気狂いピエロ』
『大人は判ってくれない』
『赤い砂漠』
『シャレード』
『オルメイヤーの阿房宮』 (2010年代ベスト100に入れました)
『ジョン・フロム』 (これも入れました!)
『私たちの好きな八月』 (ミゲル・ゴメスいいですよね…)
『殺人に関する短いフィルム』
『愛に関する短いフィルム』 (キェシロフスキ)
『ユマニテ』 (人生ベスト級に好き!!! 映画史を塗り替えた)
『クリシャ』 (顔圧がすごい)
・『アップストリーム・カラー』(名高いカルト映画)
『長江哀歌』 (金獅子賞受賞作)
『憎しみ』 (最近ルッソ兄弟が推薦してました)
『サウスランド・テイルズ』 (ロック様主演のカンヌコンペ作)
『リトアニアへの旅の追憶』 (ジョナス・メカスの日記映画の傑作)
『トニー・マネロ』 (私がチリ映画にハマったきっかけ。パブロ・ララインの「ピノチェト3部作」第1部)
『上海異人娼館 チャイナ・ドール』 (寺山修司)
『儚き道』 (ベルリン派のアンゲラ・シャーネレクが4本入っています)
『ゴーストタウン・アンソロジー』(去年のTIFFで評判でした)
『フィクサー』 (これも2016年のTIFFで上映したルーマニア映画)
『インディア・ソング』 (難解難解と言われていますがそんなことないです)

 ここからは日本で上映されたことのない映画です。

「The Daughters of Fire」 (ラテンアメリカのクィア映画リストで紹介したとにかく度肝を抜かれるL映画)
「It Felt Like Love」 (大好き!!)
「Unrelated」  (ジョアンナ・ホッグのデビュー作。トムヒが出てる)
「Dance Party USA」 (アーロン・カッツ! マンブルコア!)
「Together」 (このnoteで紹介したメキシコのニコラス・ペレダ)
「Dog Lady」  (今注目のアルゼンチンニューウェーブ)
「I Travel Because I Have to, I Come Back Because I Love You」(再三推しているカリン・アイヌーのロードムービー)
「The Second Game」(チャウシェスク政権の秘密警察vs国軍チームのサッカーの審判を殺害予告されながら務めた実話)

 まだまだたくさんの映画があります。ぜんぶ観たい……。

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