民法答案の書き方

第1回 「請求が認められるか」

 請求が認められるか否かは、請求権の存否によって判断される。

民法答案の骨格となる三段論法
大前提:「請求権が存在する→請求が認められる」かつ「請求権が存在しない→請求は認められない」
*請求権競合の場合は、必要十分条件ではなくなる。
小前提:請求権が存在/不存在
結論:請求が認められる/認められない。

(実際に書く)答案の型
1 Xの請求の根拠は、〜請求権である。
2(請求権の存否)
3 よって、Xの請求は、認められる/認められない。

「請求権が認められる」と言うときと、「請求が認められる」と言うときでは、「認められる」の意味内容が異なることに注意してほしい。

第2回 請求権の内容

請求権=債権・物権的請求権

*債権の定義
 伝統的通説は、債権を「特定の者に一定の給付を請求する権利」と定義する。この請求力を中心とした定義を採用する場合には、債権=請求権となる。
 他方、給付保持力を中心として債権を定義する有力説があり、この立場によると、債権≠請求権となる(remedy アプローチ)。
 試験対策上、後者の立場を理解する必要はないが、一部の基本書では後者の立場を前提に説明がされていることがあるので注意してほしい。

第3回 請求権の存否の判断方法

 請求権の存否は、以下の手順で判断する。
権利の発生の有無

権利の消滅の有無

権利行使の阻止の有無

 請求権の存否を判断するにあたっては、権利は変動しうるため、判断の「基準時」が重要となる。

例えば、
4/1の時点で権利が発生した(=同時点では権利が存在していた)と認められるとしても、
5/1の時点で権利が消滅したとすれば、同時点以降、権利は存在しないこととなるから、
権利の存否判断の基準時が6/1であるとすれば、権利は不存在であると判断されることになる。

*「阻止」について
 履行期が未到来の場合、同時履行の抗弁権が行使された場合、対抗要件が具備されていない場合など、「権利は存在するが、行使できない状態」を阻止という。
 請求権が阻止されている場合には「請求権は存在するが、請求は認められない」こととなるため、「阻止」は、上記1で示した民法答案の大前提(=「請求権が存在するならば、請求は認められる」)に対する例外に位置付けられる、
 このような例外は、「権利の存否」という二元論に「権利行使の要件」という第3ファクターを導入したことによって生じたものであると考えられる。
 では、なぜ「権利行使の要件」を認める必要があったのか。
 これを考えるにあたっては、請負契約に基づく報酬支払請求権の要件に関する議論が参考になる。すなわち、「仕事の完成」を権利の発生要件と捉える立場と、権利の行使要件と捉える立場があり、後者が有力である。その理由については、「仕事の完成」を権利の発生要件と解すると、「契約成立後、仕事の完成前に報酬請求権の債権譲渡や差押えがあった場合」に「まだ権利は発生しておらず、債権の譲渡や差押えの対象にすることはできないと考えられ」不都合であるからだとされる(大島本・上巻401頁参照)。そして、このような考慮は、そもそも「権利行使の要件」という概念形成段階においても行われたものと考えられる。
 これに対し、上記1債権の定義で紹介したremedy アプローチでは債権と請求権とが区別されるため、「債権は存在するが、請求権は存在しない」状態が承認される。この立場によれば「阻止」という例外を認める必要はないことになる。

第4回 要件事実について

 権利の発生・消滅・阻止(とその障害)を「法律効果」として、その条件、すなわち「法律要件」を示したのが民法である。
 このような「権利変動」を軸とした民法の理解を「要件事実」という。

*権利変動の「障害」について
 法律行為の無効など、法律効果の発生を妨げる法律効果をいう。
 例えば、売買契約が取り消された場合、同契約が遡及的に無効となる結果、同契約に基づく代金債権は発生しなかったことになる。これを「発生障害」の法律効果として、「発生」とは区別する。
 このように権利変動の「障害」も独立した法律効果であるが、民法答案においては、例えば「発生」と「発生障害」とを分けて検討する必要はない。
 なぜならば、法律効果のレベルでは「発生・発生障害・発生障害障害…」と区別されるが、権利変動のレベルでは、これらはすべて権利の「発生」に関するものであり、この意味で権利変動と法律効果は、厳密には区別される。そして、民法の答案では実体的な権利変動の有無に焦点を当てて論じるべきだからである。

 民事実務の学習が進んでいる人は、「要件事実」と聞くと「請求原因・抗弁・再抗弁…」の分類を連想するだろう。しかし、これは要件事実的な解釈の結果に過ぎない。

 例えば、代金支払請求訴訟において、「弁済期の合意」が抗弁とされ、「弁済期の到来」が再抗弁とされるのは、
 実体法上、「弁済期の合意」が権利阻止原因事実であり、「弁済期の到来」が権利阻止障害原因事実であると解釈される結果である。
 すなわち、債権の阻止は、債務者(給付訴訟ならば被告)に有利な法律効果であり、かつ、債権の発生(=請求原因)を前提とするものであるから、「弁済期の合意」が抗弁事実になるのであるし、
 債権の阻止障害は、債権者(給付訴訟ならば原告)に有利な法律効果であり、かつ、権利の阻止(=抗弁)を前提とするものであるから、「弁済期の到来」が再抗弁事実となるのである。

*債務不存在確認訴訟の要件事実について
 例えば、代金債権の債務不存在確認訴訟の場合、請求原因は確認の利益を基礎づける事実であり、「売買契約の締結」は抗弁事実となり、同時履行の抗弁などは再抗弁事実となる。
(もっとも、通常は「確認の利益を基礎づける事実」として、権利の消滅原因事実や阻止原因事実を顕れるため、せり上がりが生じる。)
 このように請求原因・抗弁・再抗弁…の振り分けが給付訴訟と異なるのは、給付訴訟と債務不存在確認訴訟とでは、原被告が逆転していることが原因である(給付訴訟では債権者が原告、債務者が被告となるのに対し、債務不存在確認訴訟では債務者が原告、債権者が被告となる)。
 先の例で言うと、「売買契約の締結」は代金債権の発生原因であるところ、債権の発生は債権者にとって有利な法律効果である。そうすると、同事実の主張立証責任は、給付訴訟では原告が負うのに対し、債務不存在確認訴訟では被告が負うことになる。
 そのため、「売買契約の締結=請求原因事実」などと暗記をしても意味がなく、実体法上の法律効果(権利の発生・消滅・阻止及びその障害)から演繹的に理解する必要がある。

第5回 裁判官による権利の認識過程

 第1回〜第4回までの内容は、裁判官の視点から説明することもできる。
 すなわち、民事訴訟において、裁判官は、訴訟物たる権利の存否判断を行う。しかし、権利は抽象的観念的存在であるため、直接認識することができない。
 そこで、裁判官は、証拠から事実を認定し、事実から権利変動を認識する。このようにして、裁判官は、権利変動の結果状態である権利の存否を認識することができるのである。

 このような裁判官の権利認識過程を理解することは、特に既判力の作用を理解する上で重要となる。

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