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下って上って下ってエキレ エキゾースト視聴会

写真は「投票」

 2024/05/05(日) こどもの日
 早苗月、二十四節気「立夏」を迎えたのこの日、私は愛車ニャンスタ丸と共に岡崎市の山道を走っていた。田んぼは水張り。泥の上に空を写し地上に雲。初夏を迎えた風景は旺盛に成長する予感に満ち、目に青葉。緑黄は粘性を思わす色濃さに変わり始め、青い春という絵面。適度に曲がりくねる道路は私からシリアスを抜き、好い顔にさせる。
 車は山麓の谷間に入り、山肌に映す色濃くなった影は憂色ゆうしょく。山影ればこの先を思い渋っ面に。ここから一ヶ月もすれば不快な梅雨が始まり、人から優しさや理性を欠乏させる真夏に傾くわけだ。草木薫るとろみつく匂いは不快感に加勢し、「ぐったりとするわ。アホ……」ぐにゅりと愚衷ぐちゅうを口にすると、間髪入れず背後から私を抜き去る自動二輪車。沈床する我が頬を打つかのように直列四気筒の甲高い音を浴びせる。
「てめえ!」突然前に割り込まれた用の大根台詞を唱え、アクセルをベタ踏むが、解っちゃいるが追いつけず、雲泥の差に「カラカラカラっ」とした乾いた笑い声を出す。谷間に木霊する排気音は駆け足で遠のき、二つ、三つカーブを曲がるともう居ない。「あいつも行くのかな」と、この先の自分を重ね、一人山道を走っていた。
 道中電波障害から地図案内サービスが止まることもあったが、こんなこともあろうかと、助手席背後に忍ばせた杖を取り出す。森で貰った棕櫚しゅろが巻きつく木の枝。これを交差点毎に転がし、示す方へ車を進めていくと……直ぐだった。
「キョウセイ自動車学校 もう直ぐココ!」川向こうに目的地の看板が見える。
「ではよいよ」と、橋を渡ると快適な山道から一転。激烈に狭い道幅に、天を仰ぐ急勾配がタッグを組む暗澹たるビジュアル。
「またかよ……」に続けぼそりとFワードを漏らせば、ぐにゅり衷心ちゅうしんから昨日が蘇る。

 2024/05/04(土) みどりの日
「三河湾スカイライン」の道路事情を知るべく現地実走後、来た道を戻ることは思想信条を理由に、私の中の選択肢には無かった。地図アプリケーションを立ち上げ、付近のキャンプ場を取り敢えずの目的に設定。すると地図案内アプリケーションは、伝説のホテルとスカイランの狭間に敷設された脇道に「行け行け」と案内を始める。
「思ったとおりだ。では」ということで「工事中」の立て看板前でぐるり回頭。案内された脇道に進むと、SF映画のワープ時の映像、あんな感じに途端にコスモが狭まり、伝説が始まった。
「三河湾スカイラン」は人の手から離れ自然に戻り始まっていたように感じたが、奥の脇道に比べればどっこい快適。道幅は軽自動車で一杯一杯の片側崖車線。斜面も谷間も緑に包まれ、至近距離からむせ返る草木の香りを浴びさせられ、トイレなし。風呂無し。ガードレールなし。
 山に激突すればファイヤーパターンに車は包まれ。谷に傾けばもんどり打って横転か、縦系の死のロール。凡ミスでお盆は前倒し、嫌な予兆を誘発させるビジュアルが前後左右に炸裂。こんな道を車で走れというのは馬鹿の極み。散策や自転車ならば楽しそうではあるが……。事実、抜群に不信感を発揮する一人徒歩下山中の女性とすれ違ったが、気を抜けば転落BBQ故、運転に全力傾倒。彼女を慮る余裕はない。
「きゃあああ。うわ、なにこれ。近い。近い。怖い怖い。怖い怖い」地声は数段オクターブ高まりて、独言は止むことを知らず、額は濡れ、手に汗握り、ハンドルはびちゃびちゃに。願いは一つ「対向車が来ませんように!」を強く思うと、通じた。悪い方に。
 くの字に谷間を曲がると、上り来るミニバンと鉢合わし、出会いのタイミングは最悪。不慣れな道。ノーガードレール。ハードコア。私から余裕というものは欠乏し「譲って欲しい。脇道があるならばそこに留まっていて欲しい」と、睨み合いが勃発。念ずるば通じる。思いは通じた。ミニバンは後退し始め、私はそれを見守るのだが……転落することを思わせる嫌な感じの下手くそのそれで、我がハートに搭載した事故予報衛星「事故ダス」は緊急アラートで真っ赤に輝く。胸に手を充て「落ち着け」相手とハートを宥めるが、そんなもんは伝わるわけもなく、対向車は出所不明のバックステップを刻み、バックしては停車を繰り返す挙動は不審。
「おい、こりゃダメだろ……」 人は自分より駄目そうな相手を見ると冷静になるらしく「ここは一丁やってやろう」ポエトリーリーディング「怖いの怖いのとんでいけ」ハイキー担当を辞め、酒焼けした凄腕のブルースマンに方向性を変える。しかし、急拵えで顎髭も生え揃わなければ、声も酒焼けしゃがれず、斜面を滑らかな仕草で駆け上るドライビングテクニックも持ち合わせていなかった。
「いいか、これは仕草祭りだ。飽くまでも下手糞な感じを出すために、こうやってなめらかでない仕草を演じているんだ」と、がなりビープ音を刻む事故ダスを宥めるが、ドクンドクンは止まらない。マジ怖ええええ。
 髭と揉み上げを一体成型化された所謂逆さ絵の方が居られますが、道路もそんな感じで、崖なのか地なのか草木ぼうぼう皆目判然つかず、道路と自然の点差は「人1−10自」という配分。人が制御出来る範囲は大変狭く、道幅も相変わらず狭小。
☆人は、人工物チームの略。自は自然チームの略。

「ぐおーん。ぐおーん」と、アクセルと車の動きをちぐとはぐさせる劇中にこ死闘中に、先ほどすれ違った一人下山中の女性が追いつき、不審者を取り扱い見る立場はここで逆転。
「ドラ0 - 1女性」と、此方が握っていた優位性は逆さ絵に転ずる。
☆ドラは、ドライバーの略。女性は思い悩む女性の略。

「ぐおーん。ぐおーん」と、車の動きは事故の予兆に満ち、彼女は露骨に距離を取る。その表情は怯えていたが「俺も怖えんだよ。馬鹿野郎」と、涙目バック。汗という汗は吹き出し、Tシャツ脇の下は色濃く染まり、もう限界だ。
「ぐおーん。ぐおーん」と、車内をびしょびょにしつつ、息も絶え絶え100m程後退した先に遊びの土地が! そこに車を停め深く息を吸う。静寂。鳥どもが鳴いていた。
「にしても……一体どんな奴だ。ったく!」正義は我にあり。デスロードを上り来るアホがどんな面かと遊放置にて腕組み待ち構える。そろりそろりと登攀し、此方に近づき運転席窓ガラスを全開。そして深々とこうべを垂れ「あたしのせいで貴方は全て失ってしまった。本当にごめんなさい。本当に……」悲壮の表情で詫びている。そのビジュアルは漬物を作らせたら名人ですという風体のばばあ。
 心臓を取り出し「このビートを聞け! ボケ!」と、真っ赤にグロイ右心房と、事故ダスを見せつけてやりたくもあったが、あの顔を目にし、それ以上の責苦を出来ようか……。出来ることといえば、せいぜい男前風手のひらの掲げ。ポーカーフェイスの決め顔くらいである。だもんで、その二つを組み合わせ叩き込むのだが、これが、罠だった。
 そのアホはすれ違いざまにべったら漬けを此方に投げつけ、我がまつ毛前に付着させる。「塩飴だ。バカ」の捨て台詞をトドメの一撃に叩き込み、スキール音と共に斜面を駆け上がり、ばばあは消えていった。
 暫くの間、遊放置にて鶯の囀りを耳にし、「よし……」と、一声。10代の頃の俺を思い出し、以降破壊衝動。怖いものなしのドラテクで木々を薙ぎ倒していくと、直ぐだった。

・ザ☆下山
 神社の駐車場に車を駐め、一応の目的地にしていたキャンプ場に折角なので写真を撮りに行く。
「何故?」 自分でもそこは判らないがマジックワード「ご縁」で、衷心の巾着袋を閉じようと思う。まだやれっつうなら、神社の参拝後からカラスのマンマークが入った話を出来るけど、要る?

 2024/05/05(日) こどもの日
「NO!」 眼前には再び険峻よこんにちは。昨日より路面は鋭角であるのだが……。教えて欲しい、何故私は二日続けて狭小急勾配の道路を前にするのか。ここは出来たら迂回したいが、土地勘は無く、別のルートがあったとしてもはたしてそれは現代っ子向けに整えられたそれなのかは判ったものではない。地図上の道路と実情は全然違うということを前日に体験したばかりだ。更にこの後の別の予定を思うと、私が私を囃し立てた。
「万事目的地一歩手前でこうしたことに直面するとは……」あと少しの所で希望を砕かれることは枚挙に問わず、幾つも経験して来た。
「波状だわ。猿の赤ちゃん」そうした声はまだ聞こえないが、こういう時の神仏頼り。そうだ「南無三」を御言葉に車を進めるが、早速難所の坂は見た目を裏切らない急勾配。2速でもニャンスタ丸は加速出来ない。こんなのは初めてだ。背中に嫌な汗がじっとっとし、服が肌に付着する不快感を伝え始める。
「ぐおおおおおん」と、エンジンは唸るが音と速度は似つかわしくない。
「昨日の坂は今日も坂。俺とお前でDieゴロゴロゴロ」っと、即興のアカペラで事故ダスを宥めるのだが、歌詞には死の匂いが混入し、転落し大きく死ぬ未来が頭の中にへばりつき、失せることはなかった。
「ええい……鬱陶しい」ドクンドクンと脈拍は高まり、ハンドルはウェッティー。「……っ。もう、くそう」と、向ける苛立ちは頭の中に。
「対向車が来ませんように!」カラオケ歌手を止め、素直な気持ちを思うのだが、前日から学んだ「念ずるば思いは通じる」を教訓に「真っ向。どんと来い」と願いを変え、地回りの土地に根付いた嫌がらせの精霊を加護に出来るかと策謀巡らせるが、いや、違う。こうした二者一択の思考に囚われることが負けだ。義理もいわれもない。だいたいそういう場合はなんだかんだで悪い方向に傾くものだと踏み、どちらにもどちらでも無い場に心を置き、衷情ちゅうじょうを無に。崖っぷち思考から脱却することに成功した。すると効果は的面。結局対向車がやって来た。じゃあダメじゃんと思う諸君、何故にスピリチュアルの文脈を事実とし、そこに溺れておられますかな?
 現実はこうだ。「今日はバイクで来た」というそれで、支障は全くなく、怪しい挙動を感知したライダーは此方に道を譲り、男前風てのひらを掲げ、事なきを得る。ライダーは辛苦を知っているものだ。こうした窮地に他人に優しい割合が高い。
 にしても勾配はキツイ。「進まねえ」と、笑ってはいると……直ぐだった。

・キョウセイ自動車学校 現着

 時間は丁度昼時、休みどきということで試乗走行は小休止。到着前に既にぐったりとした私も暫し休みを要し、コース脇に腰を降ろすと眼前にDUCATI Diavel V4を右前にMultistradaを左前に仰ぎ見る位置。その奥ではKAWASAKI Z H2 SEのアクセルを開けたり閉じたりされている方が。排気音は特撮ヒーロー「仮面ライダー」オープニングテーマ曲前のアレのようで、他車両からもそうした音が聞こえてくる。モーターヘッド愛好家の徒は、各々嬉々に破顔し、あたかも昨日免許を取った子供のようである。勿論彼らの気持ちは大変判る!
 眼前のDUCATIは見た目と裏腹に紳士的な音だったことは意外だ。Multistradaは見た目通りの腰高で跨らなくとも判る。地に足着かないことが。そんなことを想像していると、販売店店員さんから声をかけられる。バイク熱を高めるため前日にバイクショップに足を運び、対応された方だ。(その後、私は三河湾スカイラインに向かい、奥の脇道で泣くことになる)
「もう、乗られましたか?」に「いや、今日は……」「……何か(あったんでしょうか)?」「だって、(ZX-4RRが)売ってないし」 私の声に店員さんは背をのけぞらせ「なーるほど」を強調する。私の心は未だ登攀中故、金がないことを伝え忘れる程に疲れ切っていた。
「それよりも、ここに来る道。何んですかあれ。泣いた。あれ以外ってないんですか?」「ない……っすねえ……」とのこと。駐車場にはマイクロバスもあった。ということはあれを運転してここまで来た人が居るのか……。運転する場面を想像すると……。
「ぐったりとする……。帰りのことを思うと」の声に苦笑いを見せる店員。 
「ここまで(バイクを)積載して登るの大変でしょ?」 眼前のDUCATIとKAWASAKIを見ながら口にする。
「1速でも全っく。進まないですね」店員さんは笑いながら答え、私は「(でしょう)ねえ!」と強く相槌を打つ。
「去年は試乗会前日に雨が降って」という声に「……ああ」と、私は背を仰け反らせる。どれ程のことかがありありと想像出来た。そこからは二、三世間話を交わし、その後コース側に縦一列に並ぶは、そう、KAWASAKIだ。
「前が、25R?」「ええ」「後ろが、4R?」「ですね」 コンポーネントを共通化した両車両は側から見ても違いは判らないが、真後ろに回るとリアタイヤの太さから判別出来る。
 まじまじと観察し両車の違いを吟味する。至る所に試乗会主催のトリックスター製品が取り付けられ、今年のモーターサイクルショー以来の再開。
 各々、自動二輪車を床間の掛け軸のように鑑賞。挨拶なくとも自然とバイク談義が始まる。鯱張った名刺交換などはなく、人見知りもこうした媒介を通じると、然程苦はなく話が弾む。
 我がボナンザブラザーズ「25R」「4RR」に跨り破顔する人々を目にし「本当はそれ、俺のなんだけどね」と、空想上のマウントを思えば心穏やか。嫉妬ばかりでは心を焦がす。それと……既に名前は決めてあるんだ。「甘露駄々茶丸(かんろだだちゃまる)」 だだちゃは「おやじ」を意味する方言とのことで、どこのだだちゃが開発設計生産試験をしたかは知らないが、小粒で色濃く旨い車両にピッタリな名。 
そんなこと(空想)をしていると(かなり得意)午後の試乗会が始まり、ここにやって来た主目的に腰を据え、耳を欹てた。
 これまでトリックスター社の動画チャンネルを拝聴し、排気音を見てきたが、音楽のライブとアルバムでは同じ楽曲でも違うように、写真で見る美術作品と実物が違うように、自らの目と耳、肌で排気音を感じたい。
 NINJA ZX-25RRとNINJA ZX-4RRの排気音を捉えやすいように、やや斜め後方に着座位置を変え傾聴。
 まず「アイドリング音」 全く問題ない。エンジンに火を入れた直後から煩くてはご近所が気になり、早朝深夜に随に乗り、写真を撮りにというわけにはいかないが、この音なら問題ないだろう。
 次に「エンジン常用回転数での音」 前走車に追随し試走する姿から、実際の道路上で、交通の流れに即した場合を想像することが出来た。この常用域での排気音は周囲を不快な思いにさせることはないだろう。至って大人しく、これでいちゃもんつけてくる者は難癖つける切っ掛けか、自動二輪車に憎しみを元々持っている方ではないだろうか。
 次に「ピーク音」を聞きたいのだが……。紳士的ライダーの試乗が続き、中々そうした機会に恵まれることはなかったが、「おっ」と思わさせる生意気香るライダーが現れた。名も知らぬ彼はスタート前から活のよさそうな挙動を取り、私は彼に着目を置いた。あたかも新人スカウトマンのような気分だ。
 彼は期待通りの動きを見せてくれた。一時減速し、前走者と距離を置き、アクセル全開! するとこれまでの音から表情を変え、排気エンドからは稲光が迸り、地上から空へ逆上するストリーマーらしい音を排気させる。
「ふふ、らしくなって来たな」 ロベルト・にこは顎手を摩り「あれ前走る人、嫌だろうな」と思うのだが、にまにまと笑みを溢し拝聴し続けた。

 フルエキゾーストの総評。良い。人里離れた魔殿に住むならばバットモービルだろうが、地鳴りのような排気音でも誰も気にしないであろう。しかし、そんな環境はまずない。その点これはアイドリングから常用回転まで紳士的な音。アクセルをガヴァっと開ければ音を変え、所有欲を満たす。また素材置換による重量軽減効果もあり、私の理想的な物だ。モーターサイクルショーでメーカー担当者へ直接伝えたが、イカヅチのショートタイプフルエキゾーストの製品化にも期待している。

 バイクメーカーや販売店主催の試乗会はあるが、アフターパーツメーカ主催というのは珍しい。アフターパーツ共同主催、試乗会というのも面白そうだ。
 時間はよいところに突入。ではそろそろということで、私は次なる目的地に向け腰を上げたその去り際、コース前に張られたテントの光景に腰を抜かす。そこには車両毎に各々のヘルメットを置き、試乗待ちの順列と、頭部を保護していたのだが、今までこんな光景は見たことがなく、首塚を思うが、縁起が悪いので想像先を変えた。
「これはアイドルのコンサートだ。推しの排気音ライブを耳にしに来たというのは」 握手券ならぬ乗車券。会えるアイドルならぬ跨がれるアイドル。卑猥な感じが拡がったが、私の頭はデスロード二日目、下りを思うと沈んでいた。

 下ってみると意外とすんなりと行く。どうやら慣れたようだ。

・ザ☆下山
「うわー楽し〜♪」素敵な舗装道を設計開発施工しただだちゃんに感謝を思い、にこにこ笑顔で快走。次なる目的地へ向かったのだった。

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