なめらかでないしぐさ祭り
写真は「どっこい活きてマシーン (Steel Alive)」
潘 逸舟 作『埃から生まれた糸の盆踊り』 2023年再編を撮影
場所:林帯芯工場
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2023/10/26 初稿
2023/10/27 加筆修正
2023/11/02 加筆修正
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『国際芸術祭あいち2022』 芸術のお祭りから約一年後、「西尾市で現代美術が跋扈している」蟄居するここ月極庵に危険な知らせが届いた。関係筋から入手した会報表紙には屋根上に巨大な犬、平面的な立体物が。
「このままでは天井が抜けてしまう。なんて凶悪なんだ」 前衛取締官である私の気を引きずられ続き、釣りあげられる魚かのように現地潜入調査へ向かった。ツーリスト風首からぶら下げカメラは周囲の警戒を解き、芋蔓式に危険な前衛を撮影。本件はその報告書である。が、良い機会ですのでまずは私と西尾市の所縁についてを書かせていただき〼。
それは2023年の夏の盛りを迎えた夜に始まる。珍しく唸り震える携帯電話をむんずと掴み「もしもし」以降の会話は文章構成上を一身上の理由に「西尾祇園祭の出店を手伝って欲しい」へ繋ぎ、年中乾季である我が社の財布は常にひび割れ、これは渡りの船。
「あいあい。さー」常夏の沖縄に似たイントネーションでこれを受託。早速キャラクター設定に勤しもう。
「いいか、俺は、背中に桜の大門と吹雪を掘り込んだ、濡れタオルの使い手だ。え、江戸一番の濡れタオルの使い手だ」 徳は低いが自尊は殿様級の吾輩を三日間のテキ屋業に向け、私は私に演技指導のスイッチを入れていく。
「俺は……。いや、違う。あっ、あっしは。駄目に、駄目になっちゃった。マイク 1 2 あっあっあああ。ま、まっす……まっつ ぐ。まっつぐ」小京都、西尾市に向け江戸下町言葉の獲得に、マイクとチェックが木魂する。「ガピーーーー」 グランジ的ハウリングも木魂ね☆
2023年7月中旬 D Day
DはDでも気温がDangerのそれ。「おい、何だこのアホみてえな暑さわ」暑暑の高温に多湿の確定コンボを添えて。フランス帰りの創作和食料理屋メニューみてな外気は「気合い」と「根性」では到底太刀打ち出来ない難易度「日本」の夏は、世界中のゲーマー達を絶望の淵に追いやり、「春」と「秋」の島までをも荒し、路面は差し詰め鉄板焼き場。もしくは仮想的焼き場だ「VFX!」
「これは危ない。日中の飲酒は命に関わるから抑えよう」熱中症0 死亡0 あの世送りにならない、ないない運動を目指し、車内内々に話を進め、着々と車は現場に向け動き続き、我々は祭事を賑々しく飾る出店を組み立てに行った。
・西尾祇園祭 現着
出店設営場所は幸にも日陰を獲得。道向かいのお店はソーラレイの直撃のそれ。店子の若い女子は関西ダービで熱くなり過ぎた野球ファン「おおん!」のアレに似た顰めっ面を見せ続ける。その眉間にはパグ犬の複雑な迷路に寄せた有機立体物が立ち上がり続く。
「おい見てみろよ、あれ。ブス可愛いじゃねえか」暑く蒸す夏はルッキズムの構造体をも溶解し、彼女らがこのままでは不憫でならず、昼日中、野球に勤しむプロの方々や、携帯電話の着信履歴に爪痕というか、スイカを破砕させかねぬ凄まじい着信連打痕を残す、本物だけが持つ地雷系のビジュアル「隈取り」 それを道向こうの彼女ら、マブイ女さん達へ塗したいという老婆心が……蜃気楼のように、私の心内を揺らがせるのだった。
「暑かろう暑かろう……」 しかし、テキ屋業にクソ真面目に勤しむ私の小脇は銀の菓子箱、即席レジ箱を抱え、尚且つですね、私は、私の靴つま先をくじ引き勝負に熱くなったキッズどもに踏まれていますし、自慢の奇声も浴びさせられるなど、「うわ、声が高い」 ボクシングならばレフリーから注意を受けるその所作は下剋上的パワー系ハラスメント。
「お前らは知らないだろう。祭りという祝祭の熱波を」 何波も受け続け、にんともかんとも忍従の強要下に置かれ続いていたのだ。
「くそう、何が老婆心だ。何が夏だ……。おい、キッズども! おめえらお金は大事だぞ。もうその辺にしとけ。あと、さっきから近けえ。距離感を忘れんな」 子供を騙すのはちょろいのだが、それは気が引ける。小さなお客様を盛り上げつつ、同時に自省を小さな勝負師どもに促し、ブレーキとブレーキ 「だから踏んでるんだって、俺のつま先を」 膨れ上がるストリートキッズどもの狂乱統制に激烈に多忙。動きたくとも今は身動きが取れない状況下である。
ソーラレイとパグ犬。白兵戦を私へ試みる子供勝負師どもらの狭間で、我が心は引き裂かれ「もはやこれまでか」と、その時、タープと呼ばれるお洒落な日除が道向こうに設営される。当たりっぱなしだった道向こうに影が射す。
「はい、2等!」「うお! 1等!」 道向こうが安泰してしまえば後はこっちの稼業に専念するだけさ。出店は大人気でお客さん多すぎ。引きの強いキッズが当たりを引く毎に、店前ボルテージは路面温度を超え、「あと、だから近けんだよ。近けえ」 それに伴い散発する白兵戦を抑えこむ。
接客と子供らの消費と距離感を良い塩梅で抑制し続けていると、気付けば陽は傾き、夕暮れに呼応するが如く「おつかれ〜」の労い言葉が我々店子に向けられる。出店代表のご友人や、店舗経営者のご友邦、変わる代わる訪れてはマリオカートにて路面に置かれるバナナが如く、我々の出店机上には「ハタチ以上から遊んでね」 アダルト マリオカート向け生ビールの置き配が届く。
『きのぴお西尾本町サーキット』の攻略定説なのか迂闊にも私は不勉強ゆえ判りかねますが、兎に角そうした配給が届く毎に礼を述べ、置かれたビールをお抹茶器を廻すかのように、くるりと一度。立ち替わり入れ替わり、都度都度ポロリとビールが届いては回し努めておりました。あ、あとそのあとは飲みましたね。
「あれは……どなたで?」 問い先は複数人。お酒も回ってきたのでメンドいし、私は数えるのを辞め、客弄りを時折発揮。「おい、お前のそのTシャツかっこいいな。好きなのか?」「うん」と、頷くお洒落な坊主は小学5年生辺りか。しかし、嘘コケ。なんでSDPもう聞いてんだよ。お父さんか、お母さんがファンであろうことを容易に推察致しますが、そこにはもう色んなことがメンドいし、「おう」と、応対するのはこれもお酒の影響でしょうね。
そうした渦中、お客さんから渡される一万円札とは、宇宙定数のような複雑さに傾き、お釣りの算出はマジ難解。ちょい前に数を数えることを辞めていたことも相まり、雰囲気でお札を幾つか渡し、小銭は指で数える現場力で乗り越えます。
「近けえんだよ。近けえ。距離感」 油断すると接近戦を仕掛けるキッズども。私のつま先へのダメージ加工がなだらかに続くものの、なんだかんだで祭りの山場を無事越え、帰路。路。
「暑いからもうやだ。つま先踏まれるし、明日もう行かない」 持参したタオルは汗と涙で濡れそぼり、車内泣きを入れるが、結果三日間の祭り全てに立ち会い、泣く子もくじを引くのが西尾祇園祭。そした数ヶ月前の夏を思い起こしていると、直ぐだった。
☆熱くなると距離感はあれでしたが、今の若い子らは礼儀正しく、可愛かったですね。昨今世界で活躍する若い日本人の活躍も含めてこれからの奴らに期待☆
『なめらかでないしぐさ 現代美術 in 西尾市』
西尾市図書館駐車場に車を止め、本展最北端である会場に歩き向かう。まずは端辺を落とし、そこから薙ぎ取るように南下。会場を梯子するという方針で駒を進めて行く。
・林帯芯工場 現着
潘 逸舟 (1987-)
『埃から生まれた糸の盆踊り』
2022年 2023年再製作
ヴィデオ /インスタレーション
「緑町公園沿いが入り口なので、其方へ向かって欲しい」とのこと。ぐるりと回り込み、会場入り口を潜るといきなり当たりを引いたようだ。
国際芸術祭あいち2022年 愛知芸術文化センター会場にて本作を目にしたが、この度場所を1918(大正7)年創業、林帯芯工場に変え、再編。元々此方で作品を作り、撮影したのが『埃から生まれた糸の盆踊り』であり、謂わば産まれた場所に鮭が戻ってくるかのように本工場に帰着。
「ファクトリーFX!」 工内ずらりと並んだ織り機。機械油の香りは鼻腔を挿し、子供の頃から見てきた近所の光景である。町工場経営者の子供の家は工場と家屋が繋がり、作業場を通る際に見聞きした操業音と、その匂いは自ずと記憶を思い起こさせる。
建築物やその構造を舞台美術として置き換えた場合、環境の作り込みを「リアル」と呼ばれる言葉で表されるのかと思うのだが、物で持つ強みというのをまじまじと理解させられた。
座り込み、工内の写真を撮っていると、遠くの方から「社長が居ますので」「さっき裏に居て話を」など、関係者の声を耳にする。一区切りがつき背後から意味ありげな気配をひしひしと感じ、振り向くとそこには。
「こ……これは」
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