見出し画像

『文化』の気流 水木しげるの世界の妖怪博 ザ☆リトルワールド

写真は「しげると世界」

−−−−−−変更履歴−−−−−−
2023/10/12 初稿
2023/10/18 追記修正
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

”ぼくが最もおどろいたのは、『妖怪さん』が世界中にいるということだ。
 特に電気のないところには夜になるとしぜんに妖怪の世界になる。
 日本なんかとちがって、妖怪だらけの世界は目に見えないけれど、
 とてもいい感じでたのしい。
 水木しげる「世界の妖怪大百科」”

 2023/10/06(金)
 零細企業というか、妖怪輪入道の呪いか何かの影響だろうか、売り上げが無である零企業たる我が社は常に火の車であり、お得な情報を得るということは経費圧縮という次元ではない。死活問題である。そうした折に『リトルワールドきっぷ』という移動手段と入館券がタッグを組み、更にキャッシュクーポンもあり〼。ほいで民族衣装かスイーツ引き換え券どちらかを選べるという裁量権も付帯し、おみくじ引ける券も付くというこの切符とは、出会うべくして出会う出会いであり、三つ続けて「出会い」と表記し、これで行中に合計四つ放り込んだことになる。そういったものだった。
 本件は魑魅魍魎が可視化されたこの時代にこそ「本物の妖怪だあああ」と、愛知県は犬山市のテーマパーク、リトルワールド、企画展『世界の妖怪博』へ伺った吾輩の旅日記である。

・チケット売り場 現着
「これで俺も世界進出だぜ。WWW.COM」 ここで成功のチケットを買いさえすれば、世界中の女。金のネックレス。車体全長が異様に長いが天井は低い自動車。こうした物が我が手のものに。頭の中で拡張していく成功絵図を描いていると……。
「何時のお日にちになさいますか?」唐突なるチケット売り場店舗員からの問いが、夢想至る私を現実に着底させた。
「ああ、えっと……」 リトルワールドきっぷを買えばある程度の期間制限はあれど、瑞に晴れの日と感じたら「あ、行こかな。一寸リトルに行こか」と、旅立てるものだと思っていたのだが、店員は「締め切りを決めろ」のような、実社会的なことを求めてきやがる。
「現地の下調べもしたいし、日曜とか月曜とか、間にワンクッション置きたいな」ということを伝えると「ああ……日曜、月曜祝日はどちらも、ああ雨っすね」 店員はワンテンポ置き、空模様を口に。
「それは困る!」 私は雨が嫌いだ。雨の中、野外博物館を闊歩してでも見聞を広げたい。そのようなストイック フィールド ワーカー歴史学者ではない。しかしこれ以上日を改めれるかというと、今後の予定は概ね年末までぎゅう詰めで、それは誰彼からの依頼に基づくものではなく、側から見れば暇扱いになるのだろうが……。
「違う!」 私のいきばった声に店員はギョッとし「いや、違うんです」と私は弁明を重ね、項垂れる。困ったなあ……。時間が、余裕がない。が、お天気相手、自然相手には勝てないし……。崩し的に翌日、三連休中唯一の晴れ模様である「土曜日。君に決めた!」と、お日にちを指定。準備日期間が欲しかったが仕方ない。今夜は忙しくなるぜ。
 帰宅後、妖怪博及びリトルワールドについての調査、計画の策定と整理。以下やりたいことを記載。尚、極秘情報ですのでお取り扱いにご注意願います。
 −極秘−
・水木しげるの妖怪博 最優先事項
・野外ダイニング沖縄の味めんそーれ 沖縄そばを狙う
・世界でおみくじ 台湾 プータン タイ 三すくみから一つ選びましょう
・バッファロー狩り弓矢ゲーム 的に当てるとインディアンハットがもらえるらしい。かなり気を引かれる
・民族衣装かスイーツ引換券 現地にて判断
 以上、シンプル明瞭。あとは現地で(シャターを)切った張った(ステッカーなど)で敵感に対応していくだけだ。この数時間でここまで調査し、計画立案出来た自分を誇りに思い、少し酒を飲み、そして寝た。

2023/10/07(土)
・最寄駅 現着
 ガヴァ起きて身支度。ほいで出立。駅のホームにて「あ、しまった本持ってくるの忘れた」頭の中を思わずして口にし、隣で電車を待つ女性、表情を無としていた彼女に驚きという感情を呼び戻す。すると程なくして電車がやって来ましたね。乗車しましょう。着座。隣に女性がやって来ました。着座。鏡代わりにスマートフォンのフロントカメラを使う彼女の化粧姿に「成程。テックノロジー」と、声を漏らします。

・知立駅 現着
 この駅には苦い思い出がある。水木しげるの妖怪百鬼夜行展へ向かう際、電車に不慣れな私は、鉄道愛好家を隠すことなく、むしろ積極的に周囲へ表すご家族の後塵に付け、電車を待っていたところまんまと騙され、電車を乗り逃す。失敗から私は学んだ。苦手とする人いっぱい並ぶ列に尾ければ、乗車に難儀することはないだろうと。程なくして特別に速い奴が駅ホームにやって来ましたね。狙い通りだぜ! 特別な男には特別な電車が似合う。乗車。
「うわ、すげ混んでます」これは座れそうにありません。車内にて「立って……立ってんねん」しつつ、周囲を観察すると女性のスマートフォン画面が否でも応でも目に入り、その動きはこんな感じでした。
「スクロール。スクロールスクロール」「スワップスワップ」 アプリケーションを切り替え 「センド ザ☆メッセージ」 以下これらの繰り返し全てが瞬足。
「こりゃ多動性のようなもんじゃないか」 凄まじい速度でアプリを切り替え、合間に友人との高速文字コミュニケーション。ほいでまたSNSを閲覧し、画面には爪や女優が映し出され、次に可愛い顔の男性モデルを映し出し、特撮ヒーロー(桃太郎のアレ)の中身の方の写真、様々な部位を拡大し、愛でる。
「なるほど、対象は違えど私が毎夜毎夜やってることと似たようなものだ」
☆メモ:男女は似ている

 電車は結構な速さで進んで行く。ある駅に着くと「ほいでよお!」と、デカ目の声で電話しながら初老男性がリングイン。昭和レスラー系のファイトスタイルにド肝を抜かれる。が、どうやら足が不自由らしく、杖を突いておられる。車内はごった返し、吊り革掴む余裕なし。先達これでは不自由だろうと、私はもたれかかられる空間を創生すべく、混雑する中座席間の通路を一歩二歩と奥へ奥へと動き始めると「いいよいいよ兄ちゃん」と、旦那のデカ目の声。
「あ、いいっすよ」と、ずいずい奥へ動きながら思うことは「兄ちゃんと呼ばれること」である。これへの自尊的な抵抗はないが、先達だけでなく「こいつ多分年下だろうな」と思う相手からも歳下に扱われることがあり、実年齢は十二分におっさんな身としては、やや後ろ髪を引かれる。馴染みの市民プールでは「いや、もう四〇しじゅっすから」と、照れ訂正すると「何言ってんの、まだまだ若い」と、そりゃ60歳や80歳からしたらそうなのだろうが、私はその中には予測値と一致しなかった解を強引なドリブルで突破しかけている爺もいると睨んでおります。
 空間を譲った後、着座している周囲の乗客を睨み殺さんとするお爺さんの眼力は凄まじく、いや、先輩気持ちは判りますが、怖すぎます。
 次の駅に着くと近くの席が空き「あ、どうぞ」と、先輩に譲る。あの強圧な眼力からは電子レンジ以上の怪光線が放たれかねず、このままでは皆さんこんがりされてしまいましょう。お座りくだされお座りくだされ。すると、「ありがとう!」 期待を裏切らないデカ目の声が車内に木霊する。
 あ、通路を挟んで対岸の席が一つ空いてますね。一寸ここまでの色々をメモに記けたいので「いいっすか?」通路側に着座する男性に声をかけ、奥、窓際に着座。急ぎメモ開始。
”☆メモ:男女は似ている”などを著述。後に読み返し判る程度にメモをつけ終え、ひと段落。イヤホン着用し、音楽と車窓を愛でながら、異性のことをエロく夢想することにした。
「タタン。タタン」レール上を滑走する音。それに合わせるように窓枠を指で弾き、頭の中を字面にするならば、人柄がやや値下がるようなことを思っていると、驚嘆が私を襲う。先ほど席を譲ったちゃん爺と、タッグパートナーちゃん婆が目的駅に到達したらしく、下車間際に礼を伝えてこられた。イヤホンを着用していてもその声は勿論でかく、桃色しい色事想像中の私を例えるならば、ヴァイナル本を読み耽っていたら、声をかけられた時にように、肝をうんと冷やす。慌てふためくように「あどぉどう、ああ、どうも」と、しどろもどろの声。言語が駄目になったているので、挨拶代わりに片手を上げ、先達両夫婦に別れを告げる。
 電車は進む。名古屋駅を過ぎると途端に建築物の高さは低く、牧歌的な風景に切り替わってり、しばし風景と音楽と、まあそういう感じのことを考え、楽しんでいると……直ぐだった。

・犬山駅 現着
 ここからはバス。車内は潤沢な乗客数。高齢夫婦はマスク姿でお得切符を握りしめ、若いカップルもちらほら。圧倒的多数派は親子連れ。膝の上に男児を乗せ、車内に書かれたバス料金区分を読み上げる父親は、幼児と小人、大人についてを我が子へ説明している。
「モンキーパーク」を経由し「リトルワールド」を終着とする路線ゆえ、乗客の表情は概ね破顔し、非日常へ向かう高揚感に包まれていた。
 キッズどもはパークの接近に伴いボルテージは熱伝導。到着前から「もう僕は降りる」と、父親の膝の上から車内平場にダイブし、それを羽交締めにする父。後方からは「エイエイオー!」と、野球帽を被ったキッズの激奨、自らへの喝入れが飛び交っている。私はそうした人々を観察し、どう書き表し、ここに居ない人へ伝えるかとメモに綴り、バス走る。
「俺の全財産を賭けてもいい。ふふ、あいつらが帰る頃には電池が切れたように伸びていることを」 周囲が盛り上がっていくほど、それに反して俺は冷静に沈着していく。昔からそうだ。そうしたバトルコンピューターたる俺のCPUを熱くさせる立像が車窓に飛び込んで来ました。
「おお! 太郎!?」 疑問が湧いたら? そう、こういう時にインターネットの便利さが火を吹くぜ。検索チェキ。あ、やっぱそうですね。どうやらモンキーパークにも岡本太郎作品があるそうです。
 通路側に着座する俺は遮二無二バス窓越し太陽の塔をスマートフォンで撮影。しかし、塔は遠く、また窓際に座る中年女性のやや困惑した空気が写真をガタガタに。

 モンキーパークを経由し、小さな世界へ向けてバス走る。その道なりは良い道判定の最上位「バイクで走りたい」を口にしたくなる塩梅で、まあ実際にそう口にしてしまったんだけど、そうした思いをねぐらせ始めると、別毎で私の気を強く引く立て看板が目に飛び込んで来た。
「桃太郎……神社。だ と……ふふ、誘って来やがる」
 そんなことを思っていると直ぐだった。

・リトルワールド 現着
『こわいのこわいの飛んできたー!』世界の妖怪博広告ではそのように謳われていたが、私は電車とバスで来た。
「え、こんなに人が来てはるの?」 秋の三連休に秋晴れも重なり、入国審査を受ける人々は列をなす。事前に切符を買っていた私は審査員から「ゲートへ向かえ」と促され、元寿司職人という感もする老齢男性チケットもぎり員から「若い女性二名とお前はひと組か?」のような探りを入れられる。そのの目頭は一瞬であるが、卑猥な動きを見せたような気もしましたね。
「えっ、なんで?」と思うのは彼女らも同じだったようで、こちらを振り返り、私は値踏みされるが如く上から下に動く四つの目と合う。
 じゃあここいらで私の出立をいきましょう。髪型は団子髪。上半身は世界の妖怪達へ「へへ。俺もだぜ。ブラザー&シスター」ということで天狗のTシャツをセレクト。実際には使えないんだけど妖術使いらしさをアピール。その上からはアーミージャケットを羽織り、右襟元には12使徒の使い手、悪魔くんのピンバッチを奢る。(特に宗教的な意味はありません) 左胸には七色の一角獣ワッペン付き☆ ボトムスは読者からすれば不本意であろうが、地球気候変化への抗議を兼ね全ズボンをセレクト。9月30日までエアコンを使うほどに夏のボケがしつこく続きましたが、翌日10月1日になった途端、突如気温は下がり「暑いか寒いしかねえのかよ」ということで、私もいつまでも半ズボンを履いてられないんだ。
 読者の皆さんには判って欲しい。私の様相に足りないのは、半ズボンではなくて、爽やかさと、社会性くらいだろう。そういう感じの公園に居ると、やはり父兄の緊張度を高めるであろうストリート系で攻めた。
 彼女らの目に少し照れたので、鼻と上唇の間を指でズキュズキュやる。
「へへ。ジャズ」 そんなありようだからか、グルーピングに巻き込まれた彼女らは迷惑そうな渋い面を見せ、2+1の会合は私としては理想的なのですが、「ボンボヤージュ……」出会いと別れはIT化した現在のように、素早いよ。
 世の中思うようには行かないものだ。いつまでもしょげてはいられませんので「ザ☆ワールド!」 スタンド使いがスタンド使いに引き寄せられるように、妖怪好きはしげるに引き寄せられ、一直線に世界の妖怪博へ船縁を向け、船は進む。

・世界の妖怪博 現着
「パ……」 企画展入り口に『鼻の穴を調べる死霊』なる妖怪が。おい、これ! 電車で席譲った爺さんの先祖かなんかか。あの時席譲ってなかれば乗客死んでた 「ワー……」
 驚嘆の後、しばし沈黙。何故なら心内に天狗の知らせが「ビビビッ」と来ていた、ためである。何が来はったんかというと「妖怪とは目に見えないものであり、それは謂わば『気配』である」あ、間違えた。
 正しくはですね、私は今年の二月に鼻の手術をしたんです。切っ掛けはmotoGPライダー達がレース前に鼻に貼るテーピング姿を目にし、真似てみたところ「おい! なんだこれ?!」 私はこれまで約四〇年の間、高地トレーニングでもしてはったんか? エアロダイナミクスの劇的になる向上。それに伴い、執筆や思考力は大いに増した。気がする。
 しかし、この鼻テーピングには難どころがあり、着用した部位が異様に痒くなる。2時間もするとその痒みはエアロダイナミクスの恩恵を上回り、思考の収奪に傾く。これを医師に相談すると「一度検査してみましょう」とのことで、検査をすればしたで、また別ごとが起きる。検査機が叩き出す関数グラフ曲線は、トップガンの戦闘機乗りでなければその急上昇に伴う重力に耐えれないような極めて直上線に近い上昇率のそれで、「こんなグラフ見たことない」と、鼻腔検査のド肝を抜き、言わしめるほどであった。
「掘りましょう」と、結果を見て医師。掘削作業に至り、術後以降、嘘のように世の中の空気を吸ってますが、空気を読むのがムズイことに変わりなく、ルビ降って欲しい。
 術後の新型にこのロールアウトまでを駆け足で進めましたので、ここいらでじゃあやりましょう。以下はいつものナンバーを、リトルワールド、水木プロに送ります。
「シュゴオオーーッ JOJO! きさま! 見ているなッ!」
 午後後後後ォォオオオオから特別上映されるアニメ映画を鑑賞すべく、企画展内に設られた臨時映画館へ向かった。

・特別上映映画会場 現着
 映画『ゲゲゲの鬼太郎 妖怪大戦争』 1886年
 監督:葛西 治かさい おさむ

「こ……これは」

ここから先は

3,120字

¥ 300

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

バイクを買うぞ!