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堕天使は誰だ?

「堕天使って誰だと思う?」

と彼女が聞いてきた。
返答に困る。
サタンだとかルシフェルって答えるのが正解なのだろうか。
耽美系アーティストの名でもだせばいいのか。

カフェのテーブルの上には彼女が撮ったという写真が並べられている。
上半身裸の長髪でワイルド系な男の写真、数枚だ。
写真の男は革パンツを穿き、ポーズを決め挑発的な視線をこちらへ送ってくる。

あぁ、俺にはわからない世界観だ。
今はちょっと耽美な音楽に被れているものの、子供の頃は内向的かつ、うんこ鼻くそで大笑いしてた層だ。
しかも若干、そこから抜け出せていない節もある。

俺には思春期に盗んだバイクで走り出した経験も要素も無い。
飲酒、喫煙も無い。
仲間達と絆を確認した経験も無い。
耽美的な音楽は好きだが、俺の根本には耽美な要素など無い。
恋人がいたことも無い。年齢=童貞だ。
そうさ、俺は中学高校という人生の一番輝かしい時期を男子校で過ごしたという、違った意味での暗黒の住民さ…

と卑屈の底へと落ちていこうとした時だ。
何気なく眺めていた写真の男の乳輪が眼に入ってきた。
気にするなと思えば思うほど男の乳輪が気になって仕方がない。
写真の男の乳輪がティアドロップのサングラスの形に見えてきたのだ。
しかも若干大きめの乳輪…
モノクロの写真のせいなのか、乳輪が黒っぽく写ってるせいで余計にティアドロップのサングラスのレンズのように見えてくる。
これが本物のサングラスなら何でもないのだが、どうしても俺の眼を引き付けてくる。
嫌なのにそこへ視線が集中してしまうのだ。
乳輪の主張が激しい。激しくて仕方がない。

そうだ。[堕天使は彼女だ]
こっちを見ているのにどこか遠い未来を見ているような感情に乏しい眼差しで、人を困惑させるような作品を見せ、それ以上に人を困惑させる問いを投げかけてくる彼女こそが堕天使だろう。
彼女を納得させる答えを返したら、悪魔と契約成立するのかもしれない。
逆に彼女が納得出来ない返答をした時、俺の理解を超えた何かが起こるかもしれない。

氷で薄まったカフェオレのストローを弄ぶ。
俺は何も言わず、何事も無かったかのように時間の流れに身を任せることにした。

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