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蓬莱と見つかったPaul Smithの手袋

2021年の最終日は最悪だった。

仕事は大晦日まで。事務所の皆さんに年末の挨拶を済ませ、駐車場に向かう。しばらくは出勤しないということで、自宅に持ち帰るものも多かった。いつものカバンに加え、傘に作業着にそして…蓬莱!外に出たらしようと思っていた手袋も、手がふさがってしまい、結局それも手に抱えながら駐車場まで歩き、車に乗り込んだ…はずだった。

発進してしばらく経ち、車内に手袋がないことに気づく。戻るか?とも思ったが、未だ事務所残っている社員もいるだろう。しばしのお別れの挨拶を済ませた以上、ちょっと戻りづらい。もしかしたら手にしたつもりだったが机の上に置きっぱなしになっているかもしれないし、タイムカードで打刻をする際に一時的にそばに置いたかもしれない。

まあ、明日も事務所はやっているから、電話で確認してみるか。

結局、翌朝に事務所に電話で確認するも、机の上にも見当たらない、とのこと。

ポール・スミスのグレーと黒の手袋。もう、かれこれ7,8年になるかな。1年の半分のシーズンにしか使わないが、お気に入りだった。

スタート当初からつまづくことになった2022年であった…はずだった。

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さて、話は12月30日に遡る。

朝、出勤するやいなやクライアントの社長からミッションが与えられた。

蓬莱を探して欲しい。

ホウライ?最初は漢字さえ浮かばなかった。そして、漢字を確認したところで、全く無意味だった。47年の人生で、そんなもの巡り合ったこともない。なんか、かぐや姫の求めた宝物の中に、「蓬莱のなんとか」ってあったよな…くらいである。

色々聞くと、なるほど。実は、頻繁に目にしていたものであることがわかった。それは、事務所の神棚。そこにぶら下がっているのが蓬莱であった。

蓬莱とは、能登地方で正月の縁起物として神棚に飾られるものです。毎年年末にこれを取り替えて新年を迎えるという風習があります。
奉書に、「福寿」や「繁栄」などの 文字とおめでたい七福神や干支などを切り絵したものです。
蓬莱は、もともとは農作物のお供えで、米や小豆・銀杏などを幾何学模様に盛ったものを指していました。しかし、豊作だけでなく人々の願いが多様化し、食べ物などのように形で表せない願いを紙で表現するようになったと言われています。

蓬莱屋ECサイト

社長の話では、要は、年が変わるから、新しいものに替えたいと。いつもであれば、送ってくれる職人さん?がいるらしいが、今になっても送ってこず。言われてみたら、もう今回で最後、みたいなことを去年は言っていたっけな…、とのこと。社長も、色々と調べてみたが、なかなか入手が困難のようだ。

まあ、具体的に対象がわかれば、こちらのもの。徹底的にググる。一軒目は百貨店。話はサクサクと進むが、郵送をお願いしたら、渋られる。だったら、お近くでお願いされては?とのこと。いやいや、これは能登地域に固有のものじゃないの?どうも話が噛み合わないな、と思ったら、蓬莱にはホリとヌリがあって、ここはホリは扱っていない、とのこと。ヌリは、彫らないで墨で塗っただけのものと思われ、それなら別に蓬莱じゃなくてもいいでしょ、といった感じだ。これでは、ミッションもコンプリートしないので、次を探す。

次に見つかったのが、このサイト。

大変、わかりやすい。本当は干支が入ったもの、という社長からのリクエストであったが、商品としてないから我慢してもらうとして、商品の一覧の中から選んでもらう。あとは、手続きはこちらで。蓬莱屋さんは大変丁寧な対応で、当日発送して、翌日(大晦日)には届くようにします、とのこと。素晴らしい!

翌日、商品が届いた。あらためて実物を見て「キレイだな」と思った。白い和紙を彫って、赤い紙に重ねたら文字や絵が浮かび上がってくる、というシンプルなものだが、それがいい。

そもそも、自分の生まれは富山県の旧井波町。彫刻の街だ。小学校、中学校と通学のたびに、彫刻家さんが獅子頭や欄間を彫っている横を通ってきたのである。そううことが日常だった街だ。そのような環境で育ってきたせいか、この蓬莱にも、それを扱っている蓬莱屋さんにも、深いシンパシーも覚えたのであった。もちろん、こういう文化を大事にする社長に対してもだ。

結局、この後、リタイアされたかと思った職人さんから連絡があり「今年も送っておいたから」とのこと。結果的に、蓬莱が余ってしまう事態になってしまった。

「これ、こちらでいただいてもいいですか?」

社長にお願いし、購入させてもらったのは「自分で見つけてきたから」ということもあったかもしれないが「井波っ子の血が騒いだから」ということもあったんだろうと思う。

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実際に購入した蓬莱

自宅に帰って、広げてみる。いやー、いい。いい買い物をした。

別に、こういう縁起物って、今まで関心はなかったけど、なんなんだろうな。上記理由の他にも、クライアントの社長がもしかしたらそうであるように、こういう文化を大事にしていかなければいけない、ということを考える年齢になってきたのかもしれない。いや、年齢じゃないか。やはり、自身で起業した、ってこともあるんじゃないかな。商いってことに対する考え方が、起業前後でガラッと変わったような気がする。ここらへんは、どこかで整理できたらまとめてみたいテーマだ。

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さて、2022年の元日に話は戻る。

新しい年を迎えた。今年も正月三が日はお休みのスーパーも多く、とはいえ、今年も一人金沢で迎える正月である。3日間、何も食べないわけにもいかない。

調べてみると、お正月も営業しているスーパーがあった。選択の余地がない。そこに行くか。ん?会社の方向だな。まあ、事務所への挨拶も兼ねて、ダメ元で行ってみるか。

前日の2021年最後の日に停めていた同じ場所に、2022年最初の日に車を停める。昨晩と逆に、駐車場から事務所に。足元に目を凝らしながら。

ん?なんか、黒いものが。そう、手袋が片方、車の轍の中に。案の定、ちょっと離れた場所にはもう片方の手袋も。

奇跡!本来、休み明けの出勤日は1月4日。その頃には、雪も降ったりやんだりで、とてもじゃないが見当たらなかったであろう。

そして、思った。

これ、蓬莱の力じゃない?

安直だな、おい。まあ、その因果関係はともかく、少なくとも、年末に柄になく日本の文化、風習っぽいものに目覚めたこと、年始に大事にしていた手袋が見つかり、最悪のスタートだった2022年がリカバーできたことは事実だ。

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まあ、あと問題は、自宅に神棚がないってことだな。

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