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根深すぎる問題でしょ、企業のイノベーションって 【世界標準の経営理論8:知の探索・知の深化】

「企業の目的は、『顧客の創造』である」

とは、書籍「マネジメント」の中にドラッカーの名言の一つであり、社会人になってから最も衝撃を受けた言葉であったが、その後に続く、

「企業の基本的な機能は『イノベーション』と『マーケティング』である」

という一節も、会社の論理に良い感じで染まり始めた30歳前くらいの時、同じく大きな衝撃を受けて、目が醒めるような思いをした記憶がある。

考えてみれば当たり前のことだが、企業は顧客にサービスを提供する見返りとしてお金を頂き、そのお金によって企業活動を継続させている。

変化する顧客ニーズを洞察・把握し続け(マーケティング)、サービスを開発・改善し続ける(イノベーション)の2つのみが、その企業の基本機能ということは、本当にその通りだと思う。

しかし、私もドラッカーのこの言葉に出会うまでは、目の前の業務を処理することが「仕事」だと思っていたが、この言葉に出会ってからは、先人がイノベーションとマーケティングを積み重ねてきてくれた盤石な地盤の上に乗っからせて給料を頂いている、ということを認識して仕事に当たることができてきた。

そして、社会環境が大きく変化して、先人が築き上げた事業をそのまま続けているだけでは厳しくなることが明らかなった今、自分を含む今の世代がイノベーションとマーケティングをしなければいけない。

しかし今まさに、「会社がイノベーションを起こす」、ということの難しさに直面している。

今回の「知の探索・知の深化の理論」は、現代の経営学研究の中でイノベーションを説明する「最重要な理論」とされている。

【読解】知の探索・知の深化の理論

ごくごく端的に解説するために、まず「イノベーションの父」であるジョセフ・シュンペーターの「新結合」を紹介する。

”新しい知とは、常に『既存の知』と『既存の知』の『新しい組み合わせ』で生まれる”

世の中で生まれている多くのイノベーションは、ゼロから生まれたわけではなく、何かの知と知を組み合わせたものである。

例えば、トヨタの生産システム「かんばん方式」が米国のスーパーマーケットからヒントを得たこと。ヤマト運輸の宅配ビジネスが吉野家の牛丼ビジネスから学んだ話。また、TSUTAYAのレンタルビジネスが、消費者金融から学んだこと、など。

そして、「知の組み合わせ」を考える上で大事なのは、人間には「認知の限界」があり、目の前の狭い部分しか見えない、ということの理解である。

そのため、上記のようなこれまで生まれてきた「新しい知=イノベーション」は、会社が抱えている「目の前の知」と、会社からは「離れた遠くの知」(=知の探索)が組み合わせで生まれてきたことがわかる。

したがって、人・組織が新しい知を生み出すために必要なことは、「自分の現在の認知の範囲外にある「知を探索」し、それを今の自分の持っている知と新しく組み合わせること」

この「人間の認知」への基礎的な理解が出発点となる。

【読解】イノベーションを阻む「コンピテンシートラップ」

言われてみれば当たり前と思うような話だが、ではなぜ、多くの企業がイノベーションを生み続けられていないのかが疑問に思うところだ。

しかし、その理由も明確にわかっている。

なぜなら、(遠くの知を探し続ける)「知の探索」は、実際にその行動を続けるのが難しいからだ。
第1に、知の探索は自分の認知の外に出ることだから、経済的、人的、時間的にコストがかかる。
第2に、知の探索は新しい知と知を組み合わせることだから、不確実性が高い。新しい知と知の組み合わせの多くは、失敗に終わってしまう。

そうすると、必然の原理として何が起きるかというと、すでに収益・利益を着実に上げている効率の良い既存事業(=知の深化)に資源配分も傾いていく。

これは短期的な収益性を高める上では有効なのだが、一方でここまで述べた理由で、長い目で見た企業の「知の探索」を損なわせ、結果として中長期的なイノベーションが枯渇していくのだ。まさに自己破壊である。この状況を、「コンピテンシー・トラップ」と呼ぶ。

このように、理論的には、もしくは経験則的にも「イノベーションが生まれない理由」は明らかなのだ。

【読解】両利きの経営

「知の探索・知の深化の理論」を理解する上で最も重要なことは、知の探索と深化のバランスである。この2つを高いレベルでバランスを取りながら経営をすることを「両利きの経営(ambidexterity)」と呼ぶ。

言うは易しで、どのようにバランスを取って両立していくか、という実践的なことが大変気になるが、世界中の企業研究を通じて、そのポイントは明らかになってきている。ちなみにこの本は必読本だと思う。

当然、リスクの高い知の探索ばかりしていては会社が潰れる。一方で、「知の探索」に対しても一定程度の投資を継続できるかが重要ということになり、その理論から言えるのは、日本の多くの企業は知の深化に偏りすぎているから、ということになる。

【読解】いかにイノベーションを起こすべきか

本書では日本企業にあった知の探索をはじめとした実践例が触れられている。詳細は本書をお読みいただくとして、そのエッセンスは、

・CVC投資するだけでなく、社内の人材を社外に出して直接、知の探索をさせる。なぜなら、日本の特徴は、大企業にこそ眠った優秀な人材がいるから。

・「知の探索」の出島組織を作り、「知の深化」組織とかつ人材、場所、ルール、評価制度などを異なるものにして、その上で、経営者はその同等に重視する。

・個人の中に多様性(イントラパーソナル・ダイバーシティ)を持たせて、個人の中で「知の探索・深化」出来るようにする。

「イントラパーソナル・ダイバーシティ」(個人内多様性)という概念は私もとても好きで納得感があるのだが、近年の研究では、イントラパーソナル・ダイバーシティが高い人の方がパフォーマスが高い、こともわかっているようだ。

また、本書では、そうした人をよく見ると「全く異なる業界の間を移籍した経験がある」という特徴も指摘もされている。

つまり、同じ組織や環境の中だけにいるとイントラパーソナル・ダイバーシティは育まれない、ということが言えるかもしれない(焦)。

「両利きの経営」 成功の4つの要素

イノベーションを起こし続けるための「知の探索・知の深化の理論」だが、その実践する上での重要ポイントは「両利きの経営」であることは既に触れた。

では、両利きの経営をするためのポイントは何か。

すでに紹介した書籍「両利きの経営」では、世界中の企業の研究を通して至った結論として、以下を4つの要素を説明してる。

重要なものから順に挙げている。

①探索と深化が必要であることを正当化する明確な戦略的意図。探索組織が競争優位を築くために利用可能な組織能力や資産を明確にすることも含まれる。
②新しいベンチャー※の育成と資金供給に経営者が関与し、監督し、その芽を摘もうとしている人々から保護すること。
③ベンチャーが独自に組織構造面で調整が図れるように、深化組織から十分な距離を置くとともに、深化組織が持つ資産や組織能力を活用するのに必要な組織的インターフェースを注意深く設計すること。
④探索組織、深化組織に跨る共通のアイデンティティをもたらすビジョン、価値観、文化

※「ベンチャー」というのは、いわゆる外部のスタートアップ企業というより、探索組織の中の事業を指していると考えられる。

また、続いて以下のように触れている。

この全てを組み合わせることが、両利き組織をうまく設計するために必要な要素だと私たちは考えている。取り組みが順調に進まない場合、どうも一つ以上の要素が欠けているように思われるのだ。

。。。

オライリー先生、タッシュマン先生、、、

いやいやいやいや、レベル高すぎでしょ。。

どうやらこれは根深い問題だ

今、まさにリアルタイムで読んでいるのはこちらの本だ。

著者である経営共創基盤の冨山さんは、書籍「両利きの経営」の中でも解説されており、この本の中でも「両利きの経営」の重要性を、ひたすら強調している。

そしてこの本の中では、DX(デジタルトランスフォーメーション)を進めるには、会社を根こそぎ変える、CX(コーポレート・トランスフォーメーション)無くして、DXなんかは進まない、と喝破している。

その理由を、ご本人の経験を通してみた、日本産業界の過去の歴史を紐解く形で語られている。そして、どうすれば日本企業がイノベーションを通して復活できるかも具体的に書かれている。

その上で、今日本企業が取り組んでいる、オープンイノベーション、DX、●●とかの取り組みの大半は「ごっこ」にしか見えないという。

これらの書籍などを読んだり、日々の仕事を振り返ると、中々どうして、思考停止するには十分な「根深すぎる問題」である。

この問題の難しさを感じるのは、(企業によって多少の差こそあれ)多分10年くらいは、なんだかんだそこまで危機感持って改革しなくても大丈夫ということだろうか。

私の年齢でいうと、40歳台の10年間。

フラットに、冷静に考えても痺れる10年だ。



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