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夕方、コンビニのフランクフルト 【なん好き#4】

世の中美味しいものはたくさんある。おしゃれなカフェで飲む一杯700円のコーヒーも、お腹いっぱいにはならないけど一口100円はする料理も、現地だったら半額以下で食べられる異国の料理も、それはそれで美味しいからお金を払う。

しかし、色んなものに目移りしているあいだ、普段は息を潜めるようにして背後でじっとしている食べ物が突然発光しだす。振り返るとそこには、子供の頃に好きだった安くて美味いものたちが手を振っているのだ。「私たちをお忘れでないですか?」と言って。

そのうちのひとつがフランクフルトである。実はもう随分長いこと食べていなかった。子供の頃は、車で家族と遠出をするとき、コンビニやサービスエリアに寄って買い、車の中で食べた。または学校の放課後、自転車で友達と帰る途中のコンビニで買って、コンビニの前で自転車に跨がりながら食べた。

ところで、私が田舎者だからだろうか。子供のときに好きだった食べ物を思い浮かべると、コンビニもセットで浮かぶ。都内のように子供でも買い食いできるような店はほとんどなく、家と学校以外で何か食べたり飲んだりするものは大体コンビニで買っていた。

話は戻るが、またコンビニでフランクフルトを買うようになったのは、ある動画がきっかけだった。それがこれである。

K-POPグループBTSのメンバーのVと、Vと親交の深い俳優のキム・ミンジェが一緒に遊ぶ様子を撮った韓国の番組である。その番組の途中、夜にふたりが漢江に行き、コンビニで色々と食べ物を買って公園のベンチで食べるシーンがあるのだが、そこでラーメンをすすりながら一緒に食べるのが、フランクフルトであった(36:56〜)。

若くても芸能人のふたりは、年上の私よりも普段から洗練された美味しいものを食しているだろう。そのふたりが、冬の寒さで白い息を吐きながら、コンビニのレンジで温めたフランクフルトをはぐっとかじって「やっぱこれだよね〜」と言い合う様子を見て、「ああ、私もあの頃みたいに、コンビニでフランクフルト買っておやつに食べたい!」と無性に思ってしまったのだ。

そう思ったが早く、動画を観終わった後すぐさま自宅近くのコンビニに行き、フランクフルトだけを買った。本当は川沿いとか公園とかコンビニ前とかで食べたいが、さすがにそれは恥ずかしく(大人になりたくない)、うきうきを隠しつつ帰宅。トースターにアルミホイルを敷いて焼き、ケチャップとマスタードを一緒に出せるやつ(これも久しぶり)をフランクフルトにびやーっとかけ、その懐かしい見た目にうっとりとした後、ぱくっと一口頬張った。

ん〜〜〜〜〜!!

美味い。とにかく美味い。知ってる味。懐かしい味。あっという間に食べきり、後には串がいっぽん残った。


あとがき。
フランクフルトとの再会後、何度か同じようにコンビニで買って食べているが、今日もまた買いに行き、レジで「フランクフルトひとつください」と言うと、店員さんに「はい?」と聞き返されてしまった。もう一度同じことを言うも、レジにぶらさがる透明のシート越で耳をかたむけられてしまう。思わず名札を見ると日本人ではなかった。店員さんの端正な顔が困ったように歪む。私はケースの前に移動し、「これです」とフランクフルトを指差した。やっと通じてお会計。ひょっとしてこれをフランクフルトと呼ぶのは日本人だけなのだろうか……と考えながら家に帰った。

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