言うんじゃねえ!
数年前に得意先のゴルフコンペに行った。
そのゴルフコンペの組分けは得意先の社員1名に対し、そこに出入りする業者の営業マン3名という構成でその3名はある意味日常では競合する会社の3名でもあった。
そうは言ったもののゴルフとなれば特にいがみ合うこともなく、和気あいあいとしたムードでコンペは行われた。
その中でS社の山田さん(仮名)はこの日に向けて十数万するドライバーを購入してきており僕らにラウンド前からその性能を自慢していた。
第一ホールから池越えのホールで山田さんはトップバッターだった。
ついに十数万のドライバーがベールを脱ぐ。僕らは固唾を飲んでその一打を見守った。
大きく振りかぶった山田さんのドライバーは大きく弧を描いてボールに当たったかに見えたが飛んで行ったのはボールではなくボールより大きな物体だった。その物体はドライバーのヘッドだった。
山田さんは力みすぎて第一打で新品ドライバーを折ったのだ。
折れたヘッドは数十ヤード飛び、池ポチャした。自慢というフリから池ポチャというオチまで完璧だった。皆、笑いをこらえるのに必死だった。
山田さんは「あちゃー」という表情をした後、意外にも大笑いした。
どうやら保険に入っているようでほぼ満額補償されるとのことだった。それならということで僕らも大笑いした。ヘッドは池にプカプカ浮いていた。
18ホールが終わり懇親会が行われた。僕らの組のテーブルはその時もヘッドが池ポチャした話で大盛り上がりだった。
そこに得意先の所長が「楽しんでますか?」といった感じであいさつに来た。僕らの組の一人が笑いながら「あ、所長、実は山田さんの新品のドライバーが・・・」と言った瞬間、今まであれだけ温厚だった山田さんがブチ切れて「言うんじゃねえ!」と怒鳴った。
場がシーンとした。
僕は「え?今さら気にしてたの?」と思ったが、どうやら山田さんは営業マンとして絶好の持ちネタを他人にしかも競合する他社営業マンに奪われたくなかったようだった。一息つくと意気揚々とドライバーのヘッドがプカプカ浮くまでの話をしていた。
しかし一度ぶち壊しになったその場はみんなが作り笑いをする場となっていた。
僕はそこまで込みでいいものを見たと思っていた。
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