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BOOWYにまつわる噂のエトセトラ Vol.15-① ~解散諸説(2)「山下久美子のツアーに布袋寅泰がBOOWYの4分の3を連れていこうとしたことが原因で解散」説に対する私見①~

【噂の解釈あれこれ】

解散理由に関する噂のうち非常によく知られているものの一つ。
解散を望んでいた布袋氏が(当時)の山下久美子氏のツアー氷室氏以外のメンバー全員を連れて行こうとした。それを高橋氏からそれを告げられた氷室氏が怒り、BOOWYが解散することが確実となったというもの。

この噂については、「1人だけ除け者にして他のメンバー全員を自分の妻の仕事に連れて行こうとする布袋氏の行動はバンドの一員としてあり得ない。解散するのも当然」という意見が主流であるように思う。

一方で、「解散はこの時点でもう既に決まっていた。だから布袋氏の行動が解散原因ではない」という意見もある。

また、布袋氏の信奉者による「山下久美子というボーカルがいるのに、ボーカルの氷室を連れて行けるわけがない。それで解散したのなら布袋の行動が悪いのではなく、そんな当然のことに怒る氷室が悪い」等の布袋氏の行動を擁護する意見もある。

なかには布袋氏の盲目的信奉者からの「高橋氏が氷室氏に告げ口しなければよかっただけ。だから解散の原因は告げ口した高橋氏だ」というトンデモ意見も。(高橋氏が氷室氏にあることないことを吹き込んだのならともかく。単に事実を告げたのであれば、どう考えても悪いのはそんな行動を取った布袋氏の方でしょうに…。)

また、BOOWYのメンバーの関係やバンドのサクセスストーリーを少年漫画的「友情・努力・勝利」的に捉えている方々は「解散後、一時期(91年~92年頃)氷室氏と布袋氏の交流復活していた。もしこの時の布袋氏の行動に氷室氏が怒っていれば交流などしなかったはず。氷室氏が怒っていないのだからこれが解散の原因であるはずがない」と主張されたりもしている。

【噂の発生源】

この噂がどうして生まれたのか。
噂の発生源についてははっきりしている。
BOOWYのメンバーであった高橋まこと氏が書いた自伝「スネア」のこの一節である。

解散の2文字が具体性を帯びてきて、それについての話し合いを土屋を含めてメンバーと話し合ったのは、「BOOWY ROCK 'N ROLL CIRCUS TOUR」の最終日日本武道館でのライブが終わった後、打ち上げ会場となった表参道にあるブルーミン・バーでのことだった。
土屋の上司である糟谷プロデューサーにもきちんと報告をしなければならないということで、土屋が俺たちに招集をかけて、解散に向けての動きとその確認が為された。
俺はその時、ベロベロに酔っ払っていた。記憶がおぼろげになるような酒の酔い方は基本的にしないはずの俺が、この日の話し合いの記憶に関しては曖昧なままだ。それはもしかしたら、解散という現実から目を背けたかったのだろう。
ただひとつ記憶が明瞭なのは、話し合いが終わった後に憮然無言のまま立ち去った氷室の後ろ姿だ。
その後ろ姿は、怒りに打ち震えていたようにも見えたし、どこか力なく寂しげでもあった。
(中略)
これは個人的な意見だが、長野の夜のミーティングはあったものの布袋以外は本当に解散することなど誰も現実的に考えていなかったのではないかと思う。氷室も解散したいなんて微塵も思わなかったはずだ。
松井も同行した久美ちゃんのツアーに、実は俺も誘われていた。久美ちゃんのプロデューサーがわざわざ俺一人を呼び出して言うには、「まこっちゃんにドラムを叩いてほしいと布袋が言っている」ということだった。それではBOOWYの4分の3がツアーに参加することになってしまう。
まるで氷室を除け者にしているようで、いくらなんでもまずい。
それで、俺は氷室に直接事情を伝えることにした。そうしたら、即「来月解散しよう」という話になった。
氷室はこの4人でのBOOWYでいたかった。布袋はBOOWY以外での活動の成果を持ち帰るんだと話していたが、この時点ではもう意味合いが違ってしまっていた。
そんな経緯があって、氷室は「もう知るか」とばかりに単身ロンドンへ飛んで行ってしまった。(※1 P139-141)

上記文中の「長野の夜のミーティング」というのは、高橋氏によると、「長野でのライブが終わった後、ワシントンホテルの最上階にあったバーラウンジで、4人で解散について話し合った」とされる「俺たちが初めて『解散』を意識した」日を指している。

その時の様子を高橋氏はこう描写している。

話を切り出したのは、布袋だった。
「このシステムに乗ってあと1、2年はバンドをやり続けるだろうけど、それぞれが自分自身のことを考えながら、やがて一本立ちできるような方向へ進んだほうがいいんじゃないかな?」
そう布袋は言い放った。(※1 P139)

なお、「スネア」では1985年9月から始まった「BOOWY'S BE AMBITIOUS」ツアーの長野公演の時と書かれていたが、同ツアーには長野でライブが開催されていないため、オフィシャルブック「BOOWY B to Y」に書かれていたとおり、「ROCK 'N ROLL CIRCUS」ツアーの長野公演での出来事と判断する。
ただし、「JUST A HERO TOUR」や「BOOWY'S BE AMBITIOUS」ツアーの頃に解散めいた話が持ち上がっていた可能性まで否定するものではない。あくまでも、きちんとメンバーが集まって話し合ったのが「ROCK 'N ROLL CIRCUS」ツアーの長野公演だと考えている。

さて。
問題は高橋氏が自伝に書いたこの話が本当なのか、である。

BOOWYは氷室氏を除く3人が自伝を書いている。しかし布袋氏及び松井氏は、山下久美子氏のこのツアーに2人が参加した経緯について、一切触れていない
それどころか両氏の公式サイトの活動記録には、BOOWY解散『』に山下氏のツアーに参加したこと自体記載されていない。
ちなみに、解散『』は「山下久美子コンサートツアーに参加」ときちんと記載されている。

……えーと。黒歴史?

というような冗談はさておき、BOOWYが伝説的バンドのような括りで語られている現在、BOOWYのメンバーであったことを最大限利活用したお仕事をなさっているお二人にとってみれば、バンド活動中にお二人が山下氏のツアーに参加した件について、できることならあまり触れてほしくない出来事なのかもしれない。
自伝などでは山下氏のツアーに参加したことは軽く触れられている(但しそれでバンド内が揉めたというような話は書かれていない)ので、隠すとまではいかなくても、解散の原因とも噂されている出来事を活動実績として一般人に積極的に広報したいことではないのだろう。

おかげで資料探しに苦労したけれども!!
BOOWYや氷室氏、布袋氏の活動歴が詳細に(出鱈目も多いが)残っているのは、決して普通ではないことを痛感した。

布袋氏と松井氏が山下氏のツアーに参加した件について、氷室氏は言及していない。
ただ、他のメンバー3人が山下氏のサポートをした件(高橋氏はツアーへは不参加だが、山下氏のアルバム「1986」には布袋氏とともに松井氏、高橋氏の両氏もゲスト参加している)についてはきちんと覚えているようで、ソロ活動25周年記念で出版された「氷室京介ぴあ」のインタビューではこのように語っている。

バンドっていうのは多かれ少なかれ、お互い良かれと思ってやったことが伝わらなかったり、ギクシャクした関係ってどのバンドも当たり前にあるものなんだけど、良かれと思っているお互いのアイデンティティを提示する部分でそれが却下されていく瞬間とかさ、そういうことってあるよね。例えば久美ちゃん(山下久美子)のバンドをまこっちゃんと布袋と松井でやっていたときもあって、山下久美子とBOOWYの違いっていうのは、ビートだと思うのね。バックがBOOWYのメンバーでやっていても俺の歌が入らないと山下久美子の歌になり、俺の歌が乱入してくるとBOOWYになるっていうのが、俺の持論ですね。(※2 P18)

よって、解散の原因と噂される山下氏のツアーに2人が参加した件について語っているのは高橋氏のみ。とはいえ高橋氏はいつも(BOOWYに関しては)そんなにブレた発言はしない。

また、LAST GIGS直後に行われたインタビューにおいて、布袋氏が「1224後ロンドンに行き、帰国したら自分が悪者にされていた。『山下久美子とバンドを組むらしい』と全く根も葉もないが多くて辛かった」と零している。確かに布袋氏は山下氏と「バンド」は組まなかったが、布袋氏がBOOWYの楽器隊全員を山下氏のバックバンドとして連れて行こうとしていたのであれば、これがタネとなって噂が芽吹いたとも考えられる。(※3 P20)

さらにプロ書評家・プロインタビュアーの吉田豪氏が「布袋氏が自伝で「解散理由は墓まで持って行く」と書いていたのに、高橋氏が自伝に「布袋氏と松井氏が参加する山下氏のツアーに俺も誘われて~」と普通に解散理由を書いていて驚いた。そんな書評を書いたら、後にBOOWYスタッフから『そうなんですよ』という連絡をもらった」とラジオで語ったこともある。

では、この出来事が事実だとして、この布袋氏の行動が本当にBOOWYを解散に至らしめたのか
当事者達のインタビュー等から当時の状況経緯を振り返りつつ、考えていきたいと思う。


解散諸説(2)「山下久美子のツアーに布袋寅泰がBOOWYの4分の3を連れていこうとしたのが原因で解散」説に対する私見②に続く。

※「出典・参考資料」は「解散諸説(2)『山下久美子のツアーに布袋寅泰がBOOWYの4分の3を連れていこうとしたのが原因で解散』説に対する私見④」の最後にまとめて掲載する。


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