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極上のコーンバター

小学二年生のころ、スイミングスクールに通っていた。

毎週日曜日、ショッピングセンターの3階。

我が家は共働きで、私はいつもおばあちゃんの家で過ごしていた。

平日、仕事を終えたお母さんは、おばあちゃんの家に私を迎えに来てから家に帰る。そしてすぐに食事の支度や家事を大急ぎでこなす。あっという間に寝る時間。

私は小学生になっても甘えんぼで、お母さんにくっついていたくて仕方がなかった。遊んで欲しくて仕方がなかった。でもお母さんには時間がなかった。

日曜日のスイミングスクールは、お母さんと並んで自転車をこいで行った。

スイミングは好きだけどしんどくて、辛い。

自分の番が来るまではコースの端で水に浸かったまま小休憩。観覧スペースを見上げてお母さんがちゃんと自分を見てくれているかをチェックする。

ハードな練習を終えて、体は爽快感と疲労感で満たされていた。

スイミングの後は、毎回必ず1階に入っているテナントに寄って、コーンバターを注文する。

チープな円柱形の紙の容器にプラスチックの蓋がされた300円のコーンバターだ。

喉はカラカラ。お腹もペコペコ。

お母さんは私だけを見て微笑んでいる。

スイミング上がりにお母さんと食べるコーンバターは極上品だった。


大人になっても、あのコーンバターの味が忘れられない。

あの味を求めて、色んなお店でコーンバターを注文した。

違う。

これも違う。

そして気付いた。

あのコーンバターは、あの日あの時限りの本物の極上品だったのだ。


【完】


※実話を小説風に書きました。

カッピーさんの投稿で知り、こちらのイベントに参加させていただきました。今日までらしいです!


 #文脈メシ妄想選手権




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