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伊香保温泉で遇った人

久し振りに伊香保温泉に来た。

石段の少し上った所で、10年近く前に、同じ宿に泊まった女性の姿を見た。あの時は母娘二人と思われる二人連れで、表情に哀しさが見えていた。

伊香保温泉は、むかしは年に5回や6回は来ていたが、最近は石段がきつく感じられて、かなりご無沙汰気味になってた。

石段を避けて、裏道をノンビリと歩くのが良い。観光で来られてる人達は、石段が有名なので、はやり石段は混んでる。

余り知られていない、無料駐車場があり、そこから伊香保の源泉に入った。

ちょうど良い時間になり、宿の駐車場に移り、石段側に回った。

その時に幸せそうに石段を登っている若い夫婦と、両手を引かれて石段を飛ぶように上がる幼い子供の、三人を見た。その優しさに満ちた笑顔で子供に話しかけてるお母さんは、むかし見た母娘の、あの若い女性だった。

部屋に案内され、伊香保のあの濃い茶色の湯に浸かり、本当に久し振りに伊香保温泉の「黄金お湯」を楽しんだ。

湯に浸かり、ほてった身体を外からの涼しい風にあたりながら、初めてあの女性と遇った時のことを、また思い浮かべた。

あの時の二人は、きっと結婚を控えて、母親と娘の思い出を作るために来たのかもしれない。何となく哀しく思えたのは、母と娘の母子家庭で、二人は助け合いながら生きてきたのだろう。その娘が嫁ぐことになり、母と別れて暮らさなければならない、そんな親を思い遣る娘の優しい、寂しさを感じたのかもしれない。

夕食を済ませて、もう一度風呂に入り、外が静かになった頃合いをみて、夜の石段を散歩した。

女性は、結婚をして子供をもうけると顔が変わってしまう。愁いを感じる伏し目がちな、静かな話し方をしていたのに、いぜん見た時はか弱そうな体つきなのに、子供の手を引いてる時の顔は以前と変わって力強く、明るい笑顔をしていた。

面長で、愁いを帯びた一重の目と、食事中にちらりと見えた喉のホクロと、物静かな話し方は、いつまでも伊香保の湯と共に忘れられない思い出となっていた。

次の目的地へ行く前に、伊香保神社に行った。あの親子三人にとって、伊香保温泉がいつまでも楽しい思い出として残り、そして若いお母さんはいつまでもいつまでも、夫婦が仲良く平穏の生活が続き、最期を迎えるまで一緒に暮らせますようにと、勝手ながら祈った。

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