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白鷺の思い出

数年前、冠動脈狭窄でステントを入れ、心臓リハビリとして散歩を始めた。春の少し寒い時期で、白鷺の親子らしき4羽が、いつも川原の中州に来ていた。少し細い弱そうな1羽だけが、何となく仲間はずれにされていた。いつも1羽で石の上に乗って、川の流れをジッと眺めていた。他の3羽のように水に入ることもなく、ただ眺めていた。

そんな仲間はずれにされていた白鷺にも友達がいて、青鷺の2羽とか3羽とかが、少し離れて一緒に移動していた。1年間は青鷺といつも一緒に来ていたのに、翌年から白鷺も青鷺も来なくなった。

また白鷺が戻ってきたようで、6羽くらいが群になっていた。あれは除け者にされていた白鷺の家族なのかだろうか。そうなら良いのだが。最近の白鷺は人の近くに寄ってこないようだ。近づいて写真を撮ろうとすると、こちらを向きもしないで、一斉に飛び立ってしまう。


何となくの記憶なので、幼稚園に入る前くらいだと思う。その頃の白鷺は人が近付いても驚かずに、今よりもユッタリとしていた。そして目がすごく恐い鳥でもあった。

乾いた田んぼにシロツメグサが一斉に生い茂って、やがて白い花を咲かせ、ネエ達とレンゲの花で首飾りを作って遊んだ。花が田んぼ全体に咲く頃になると、田起こしをして水を張り、充分に水を含んだ頃合いをみて、馬に大きな馬鍬を牽かせて代掻きをする。田に水を張ると、白鷺たちが寄ってくるようになる。

代掻きをして水の下の土が平らになる頃には、小さな魚や様々な水生昆虫などが一杯集まってくる。田の中を歩くとヌルヌルした感触で、土に足を取られて歩きにくい。田の中を歩いて遊んでると、棒のような物を踏んだ。それがユックリと足の裏をくすぐるように動き、水面から蛇が頭を出してこちらを向く。動けずにジッとしてると、頭を水に入れ、またユックリと足の下を抜けていった。

子供だと白鷺もバカにするのか、寄って行っても逃げもせず、水の中の虫を狙っていた。直ぐ横に行っても逃げずにいたので、首を下にしたときに背中を触った。つやつやと綺麗だったのに、触ると油が付いているのような、変な感触だった。触られた白鷺が頭を上げると、急に背丈が伸びて大きくなり、ジッと見詰められると真ん丸で恐い目をしてる。

少しずつ離れた所まで歩いて行き、また水の中を突いている。水の中から虫を捕まえて、白鷺の方に投げてやっても、無視をして見向きもしない。足を取られながら寄っていくと、気付かないふりをしてまた離れていく。また寄っていくと、今度はスッと首を伸ばして睨みつける。脅すように、全く動かずに丸い恐い目でジッと見ている。

苗の背丈が伸びても、水の有るうちは何羽もの白鷺が来ていた。畦には枝豆が植えられていた。枝豆はアズキを取るだけではなく、肥料のために植えていたようだ。枝豆の根に塊が付いていて、それが田の肥料になると聞いた。根に付く瘤状の物は、根粒菌といって窒素分らしい。小学校の理科の時間に、根に瘤の有ることを知っていたのは一人だけで、褒められた思い出もある。

畦の所には虫やカエルが寄るらしく、鷺は何羽も集まって並んでいた。もう少しで触れるくらいまで近付くと、「クヮー」と大きな鳴き声で脅してくる。「グッグッグ」と細かく鳴いて、寄るな向こうへ行けと怒ってるようにも見える。嘴を上下に動かしながら鳴くと、あの目つきだから恐くて離れながら涙が出てしまう。

田に水を張る前には、貯水用なのか溜池があり、ドジョウもたくさんいた。白鷺は池が深いためか、溜池には来なかった。細い水路で小川から水を引いてて、ドジョウの他にウナギを捕まえたこともあった。細くて短い子供のウナギは、ジイと一緒に少し離れた川に行って逃がしてやった。当時はウナギはいつでも捕まえられるので、小さなウナギは逃がしてやった。ウナギを逃がした川にも、鴨や白鷺はたくさん集まっていた。魚が多くて、今でもいるのだが、1mを超えるような鯉が何匹も泳いでいる。


白鷺の家族を見てると、遠い昔を思い出す。マメオと同じ様な模様のキジトラの猫と、大きくて優しい白い犬と、放し飼いされた意地悪なニワトリ達と庭や田畑で遊んだ思い出、あの時が一番幸せだったのかもしれない。



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