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翻訳書ができるまでの道のりを編集者の立場から教えていただきました

JAT(日本翻訳者協会)・出版翻訳分科会(JATBOOK)主催で行われた、書籍編集者で翻訳者の上原弘二(a.k.a. 西尾義人)氏によるウェビナーに参加しました。
 
「1冊の本が出来上がるまで――編集者から見た翻訳という仕事」というテーマで、大変興味深いお話を聞くことができました。
 
まずは上原氏からのクイズです。日本には出版社がいくつあるでしょう? 
 
答えはなんと、約3000社。最大手は従業員数約1000人を擁する講談社、また以前共訳書を出版してくださった早川書房は100人ほどだそうです。有名な出版社でも意外とコンパクトなんですね。
 
また、従業員が数名ほどの出版社が大半だそうですが、そういった規模の小さな出版社がどんな本を出しているのか、調べてみるのもおもしろそうですね。きっと各社こだわりがあるはずなので、自分が訳したいジャンルを取り扱っている会社と出会えるかもしれません。
 
テーマは「1冊の本が出来上がるまで」ということで、本作りの全工程を一通り説明してくださいました。
【企画編】では、企画検討→編集会議→版権取得→訳者選定→翻訳依頼→訳稿受領というプロセスで進み、【制作編】では原稿整理→入稿作業→校正作業→制作業務→見本出来→無事刊行というプロセスで進みます。
 
私たちとしては、一番気になるのはやはり企画検討~編集会議のあたりです。
企画の段階では、海外の書評誌やamazonのレビューをチェックする、また、一般人には難易度高めですが、ロンドンやフランクフルトで行われるブックフェアに買い付けに行く、などの方法があるということです。
 
編集会議では何が話し合われているか。これは翻訳者がレジュメを作るために常に念頭に置く必要があります。
・テーマが時代に合っているか?(あまり時代を先取りしすぎていると企画が通りづらい)
・著者はどんな人か?(大学教授など硬めの肩書があるほうが信頼できる)
・類書にはどんなものがあるか?(上原氏は、類書が何冊も出ているものより、新しいほうがおもしろいとおっしゃっていました。私もそう思いますが、出版社によるのかなと思いました。)
 
次に版権取得。これは資本力が勝負を決める!とのことで、身もふたもない話ですが、権利を争ったときに高く買ってくれる出版社が勝つのは仕方ないですね。ちなみに、参加者からの質問への答えとしてですが、出版してから3、4年経った少し古めの本は新作に比べて安く版権が買えるそうですので、狙い目かもしれません。
 
心配なのが、「この本おもしろい! 訳したい!」と思った本の版権が取られていないかということ。せっかくレジュメを書いても、すでに版権が取られていたというのは翻訳者につきものの悲しい話です。そこであらかじめ調べる方法を伝授いただきました。
・原作の出版社のサイトを見てみる。
・つながりのある編集者にたのんで調べてもらう。
・原作の出版社や著者に直接聞いてみる。
 
ということでした。
 
他にも、普段なかなか知ることのできない出版翻訳の裏側を、翻訳者でもあり編集者でもある方から聞けるというのは大変貴重な機会でした。お話もとてもおもしろく、あっという間に時間がすぎてしまい、結局30分延長して、おそらくすべての質問に答えてくださいました。
 
この記事のまとめとして、特に印象に残ったことは以下の2点です。
・なにはともあれ、「売れそうな本」を発掘することが大事。いくら自分ではおもしろいと思っても、売れそうにないものは、やっぱり企画は通らないんですね。日本での出版が途中で止まってしまった、個人的にとても好きなシリーズがあるのですが、止まってしまった理由が「売れないから」では、もうどうしようもないみたいです(涙)。
 
・上原氏が編集者として仕事を頼みたい翻訳者は「楽しそうに翻訳している」人。翻訳という仕事を心から楽しんでいる人と仕事がしたいという趣旨のことをおっしゃっていたのが、印象的でした。特に60代の女性翻訳者にそういう魅力的な方々が多いとのことで、なんだか勇気がわいてきます。
本当にあっと言う間の2時間で、もっとお話しが聞きたかったです。
 
文責:岡田ウェンディ
 

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