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人生、綴ってみた 【結婚・後編】 #27

 人間の感情は厄介だ

 旦那のことが好きだった
 一生を共に生きていく
 誰よりも誰よりも大切に想い
 心の底から好きだった
 まさか、その分が恨みとなろうとは

「騙してまで
 結婚したのが最大の間違いだった」
 最後の最後に言われた言葉

 人を騙した側が
 騙された側の人間に言い放つ

 その瞬間から
 とことん
 私は恨みに支配された

 人を恨むことはパワーがいる

 誰も恨みたくはないのに
 恨んでしまう

 旦那を恨みたくないのに
 許したくない自分がいる

 あれから
 二年経っても三年経っても
 しつこいぐらいに恨みが消えない

 こんなに人を恨むなんて
 自分はおかしいんじゃないかと思う
 こんな自分がつくづく嫌だ

 ボロボロになっていく私を見た、
 近所の診療所の先生が話を聞いてくれた

 そして、優しく言った

「ほとんどの人はね、
 自分がおかしいとは思わないんだよ。
 誰かを悪者にしておけば、
 そっちの方が楽なんだから。

 自分がおかしいと思う人は
 高尚な人間なんだと
 私は思うよ。

 人を恨むことは、誰にだってあること。
 恨みたくないけど、恨んでしまう。
 とても人間らしい感情だよ。
 おかしくない。
 全然、おかしくないんだよ。

 気持ちが楽になる薬だってある。
 薬の力を借りたっていいのだから、
 これ以上の無理はしない方がいい」

 年配の人が言う言葉は
 本当に重みがある

 私は診察室でポロポロ涙をこぼした

 あんなに悩み苦しんだのが嘘のように
 心が軽くなっていくのを感じた

 人に恨みを持つ私はおかしくない

 嫌な自分を受け入れて
 認めてあげたら
 恨みは消えていくのかもしれない

 今夜こそは眠れますように
 願いながら呑んでいたお酒は
 その頃から
 自然と断つようになっていた
 一升瓶にぼんやりと映る自分の姿が
 少しずつ老いていく
 故郷を離れて友達がいない私には
 そんなことすら寂しかった

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