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人生、綴ってみた 【独身編】 #4

 生まれて初めて経験する喪失感

 数日後
 父に電話があった
「今回はご縁がなかったとお伝えください」
 度重なる不採用の連絡

 伝えた瞬間
 体重八十五キロもある父が
 私に馬乗りになった
 身動きとれない私に
 何度も何度も殴りかかり
 気が済むと

 そのまま階段を降りていこうとした

 私はそんな父の姿を後ろから見ていて
「こんな奴、死んでしまえばいい」
 そう思うと同時に
 父の背中をおもいっきり押していた

 階段の上で
 父の体はエビのようにのけぞって
 両手が何度も空を舞い
 スローモーションの映像のようだった
 不思議なくらいゆっくりと
 私はそれを眺めていた

 父は、手すりにつかまり
 階段から落ちることはなかった

 もうここにはいられない

 実家を出た
 アパートを借りた
 これでもう
 あの鬼に怯えることはない
 憎しみが抑えきれず
 自分を殺したいとか
 鬼を殺そうなどと思わないはずだ
 私は心の底からホッとしていた

 それからしばらくして
 父が精神病院に入院したと聞いた

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