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すべてのアートはセルフポートレート

この巨大な松ぼっくり。宇都宮大学名物らしい。
妻が拾ったものが家にあったので練習に描いてみた。

巨大な松ぼっくり

やめときゃよかった。複雑すぎる。全然描けねえ。
脳内でぼやきながらも根気よく試行錯誤していると、やがて見るべきポイント、抑えるべきポイントというのがだんだんわかってきてそれなりの形がつかめてくるものだ。

普段の目というのは漫然と見ているだけで本当には見ていない。
「こういうものだよね、知ってるよ」というバイアスを通して見ているからだ。
絵に描こうとしてじっと見つめていると、ある時点でゲシュタルト崩壊が起こって、まるで生まれて初めて見るかのような目に切り替わる。
そうなって初めて、<本当に見ること>が始まる。


それにしても、この松ぼっくりのヒダヒダ。
規則的でもあり不規則でもあり、数もやたら多い。
なんとか正確にスケッチしてやろうと躍起になってみるが、幻惑的な幾何学模様の迷路に目線が迷い込んでしまい、何段目の何列目のヒダを描いているのか一瞬の間に見失う。どうにもうまくいかん。

こうなってくるとアーティストはいよいよ選択を迫られる。
忍耐力の限界にチャレンジするか、それっぽく整えてヨシとするか。
何を残して、何を捨てるか。
正直か、うそつきか。

「3次元を2次元に写そうってこと自体がそもそも虚構の始まりだよね」などと言い訳がましく自分を説得し、適当なところでやめたのが本作である。

なので、この絵は松ぼっくりの絵というよりは、葛藤の痕跡といった方が正確であり、意図せずアーティストの性格や人間性が表出している点でセルフポートレートともいえる。

まあそもそもアートなんて全部うそっぱちなんだけどね。
だけど僕を捕らえて離さなかった深淵で美しい嘘。
うそつきどもが。


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