2023/12/16 メリーゴーランド

『荻窪メリーゴーランド』(著:木下龍也 鈴木晴香)を読んだ。


ちょっと凄い体験だったな……と思う。とあるカップルの物語が短歌で紡がれていくという作品で、男女それぞれの視点から描かれている。このパート分けもシーンや心情によって交互だったり片方がずっと続いたりしていて素晴らしい演出だった。幸せなシーンでは自分もこんな風に過ごしたいと心から思えたし、緊迫したシーンでは短歌だけなのに空気感が一気に変わり緊張感があった。

私はこの本を読んでこんな記事を思い出していた。

これもとあるカップルの物語だが、こちらはしりとりで作られている。

短歌にせよしりとりにせよ、かなりの制限があるなかで物語を紡いで作品にしていくその技術力と表現力には感嘆するほかない。さらに前述の通りにパート分けのタイミングや間隔でストーリーの緩急を描写する演出。本当に普通の小説の読後感と変わらない、もしかしたらそれ以上の充実感と衝撃、そして感動だった。

短歌ではしばしば連作という形式がとられる。複数の歌をいくつかまとめて1つの作品とする形式だ。公募などでもよく見られる。こうした連作ではまとまりのあるテーマでそれぞれが作られていることが多いが、直接的な続きのようなものではないパターンがほとんどだと思う。一方『荻窪メリーゴーランド』では会話のように相手や自分の言動を受けて次の歌が詠まれるので本当に物語として成立している。むしろ最初から完成された物語を一度切り分けて短歌にしてから再び繋ぎ合わせたかのようだ。恋愛映画をコマ送りにして再編集したような。

とはいえかなり技量を問われる難しい制作だったと思う。ストーリーの流れがどの程度決まっていたのかは分からないがここまで自然に物語として成立させるのは表現や言葉選びが見事だったというほかない。私も同じような短歌や単語だけでストーリーを紡いでいく作品に挑戦してみたいと思った。

今年の最後に良い作品に出会えてめちゃくちゃ嬉しいな……やっぱり短歌が好きだと改めて実感した良作です。小説が苦手な方でも短歌なのですぐ読めると思います。最初のリンクから試し読みもできるので是非読んでみてください!!!!!


五七五七七だけのはずなのに果ては見えない 今になっても
先人が千年前から洗練し先頭はまだ戦国に立ち

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