プロジェクトファイナンスと関連法
学生の方も読んでくれてると聞いたので、少し基礎的な話もしてみようと思います。
投資に絡む各法律について、恥ずかしながら私は投資職に就く30手前まで全然把握しておらず、苦手意識もあって放置していました。
仕事で使う・使わないに拘らず、時間のある学生の内に一度でも触れておけば良かったなぁと思うので、金融系に興味ある人は放置せずに簡単な本からで良いので目を通しておく事をお勧めします。最初の内は内容を100%理解できなくても、後で「こういう事書いてあったかも」と思い出せる程度でも構わないと思います。実務で繰り返し触れていく内に重要な事項は自然と記憶に残るので。
金融系と聞くと金商法とかを連想するかもしれないが、まず第一に触れておくべきは民法や会社法と考えています。特に民法は「契約」に関する基礎となり、また日常生活でも知っていると便利なので一度は目を通すと良いと思います。
今回は民法の契約に関する話。
尚、私は法律の専門家ではないので、記載する内容はあくまでも実務家視点で私が理解している内容となります。法の正確な解釈とは異なる部分が多分にあると思いますが、間違いがあればこれを見た専門家の方から正しいコメントを頂ける事を期待して書いてみようと思います。
要物契約と諾成契約
契約とは「一定の当事者間において締結される法律上の拘束力を持つ合意」であり、一方が申込を行って他方が承諾することによって成立します。但し、効力を発する際の要件によって2つのタイプに分かれます。
物の受け渡しが行われることによって成立する「要物契約」と、当事者間の合意のみ(口頭合意を含む。)で成立する「諾成契約」です。
片務契約と双務契約
契約の種類として片務契約と双務契約というものがあります。片方のみが義務(債務)を負うものを片務契約、双方が義務(債務)を負うものを双務契約といいます。
双務契約の代表例としては売買契約があります。物の売買契約の契約は一方が対象物を引き渡す義務を負い、もう一方が対価を支払う義務を負うので双務契約となります。
片務契約の代表例としては贈与や使用貸借、(金銭)消費貸借があります。金銭消費貸借契約を例にとると、貸す側が金銭を貸し付けることによって契約が成立し(要物契約)、後は借りた側が金銭を返す義務を負うだけとなります。
諾成的金銭消費貸借契約
上記を基にすると、プロジェクトファイナンスやLBOローン等のローン契約の基礎となる金銭消費貸借契約は要物契約であり片務契約なので、本来は貸付人に「貸す義務」というものはありません。
金銭を貸した時点で契約が成立する(要物契約)ので、「貸す義務」というものが存在しようがないのです。但し、実務上は住宅ローンも然り、書面で「借ります / 貸します」という合意を行い、融資を行うということが行われています。
プロジェクトファイナンスやLBOローン等大掛かりな融資契約になるほど、借入人側で準備することも多く、借入人側が全て準備を整えても貸付が実行されないということがあっては非合理であり不公平である為、これまでの実務においては書面で以て「貸付人の要求する前提条件(Condition Precedent、CPといい、条件を満たすことで効力を発する条件のことを停止条件ともいう。)を借入人が充足した場合には金〇〇円を貸します」という形で規定し、諾成的双務契約の体を成して行われてきました。この点について、2020年4月1日施行の改正民法では以下の通り、書面でする場合に限り諾成的消費貸借契約が効力を持つと明文化されました。(第587条の2)
長年もやもやしながら実務を行ってきた人もいるかもしれませんが、今回明文化されたことでその不安も解消されたことと思います。明文化されたことで、(書面でない)口頭での貸し借りの契約は無効である、ということもまた明確になったので、重要な交渉においては書面で約することがより重要となります。
上記の一例のように契約とその背景となる法律を理解することで契約に対する理解も深まり、主体的に契約交渉をリードすることができるようになると思うので、冒頭で触れたように各法律について最低限の部分は触れておくとよいと思います。
契約の交渉も最終的にはリーガルアドバイザーである弁護士の先生方に確認してもらいコメントをもらって協議していきますが、依頼する側(投資のプリンシパル側)の理解が浅いとその分余計に時間もかかりチャージが増えてしまうので、効率的に業務を進め無駄なコストをかけないようにするという意味でも契約に関する基礎知識は身につけた方が良いと考えています。
ちなみに、効率的に協議を行うというのは銀行側にも必要な意識と考えています。通常契約交渉の際に銀行側で起用する弁護士の費用は、最終的に借入人負担となります。その為、銀行側が弁護士の先生に丸投げで非効率的な業務を行っていると、銀行側の弁護士費用の金額が最終的に借入人側の弁護士費用の倍近くの金額となることもあり、そうなると借入人側からしたらそこの銀行にはもう頼みたくないなという気持ちになります。(あそこは合理的な会話ができない、非効率的だ、等と考えて…)
また、弁護士等の専門家に業務を依頼する時に金額に上限を要求する人も時折見かけますが(特に商社の人とか)、これは「自分は効率的にできる自信がない」と自ら言っているようなものであると私は考えています。例えば見積もりで1,000万円と言われても、実際にはかかった工数に基づくタイムチャージで請求されるので、効率的に行えるのであれば上限等設定しなくても見積金額以内にしっかりと抑えられるのです。
金額に上限を要求し、見積もり以上の工数をかけて作業を指示する依頼人に対しては、次回以降専門家側も警戒して高めの見積もりを提示することにつながるので、継続的に取引を行う可能性があるのであれば、自身が効率的に動いて、上限設定等しなくともコストをコントロールできるようになるのが担当者として求められる能力であると思います。
最後に話が脱線しましたが、民法、会社法、破産法、会社更生法などはプロジェクトファイナンスやLBOローンとも関連が深いので、一度は浅く広く触れておくことをお勧めします。
別の機会に実務を通して学んだ点等書いてみたいと思います。
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