日本文学科体力向上計画
もこのエネルギーの源は、自信だ。圧倒的な自己への愛と信頼だ。最近はすっかり忘れていたけれど、この間思い出した。俺は昔からできる奴だったし、これからもできる奴だし。
なんでいきなり思い出したかって、それはスキー合宿のおかげ。うちの大学には、身体運動IIcという授業がある。4日間スキーをするだけで単位がもらえる、お得な授業。それに参加してきて、めっきり自信をつけて帰ってきたって話。
まずスキー合宿の概要を書くと、秋頃に履修希望調査があり、応募した人が参加できるタイプの授業で、今回の参加者は14人くらい。3年生5人、2年生9人。文学部4人、理学部3人、家政学部3人、人間社会学部4人と、いい感じにバラけていた。場所は長野県の菅平高原にお邪魔し、仲間たちと4日間そこで過ごす。部屋は学年と学科で決められていて、一部屋2〜3人。
私は小3以来2回目のスキー。今回私がスキー合宿に参加した理由は、シュッシュっとかっこよく滑れるようになりたかったからだ。小3の頃、私がハの字でおずおず滑っている時に、大人は急な傾斜をものともせず颯爽と滑り降りていた。憧れた。あんな風に滑りたいと思った。あのシュッシュという、板をハの字ではなく平行にしてかっこよく滑る滑り方は、パラレルというらしい。絶対できるようになってやる。今回私は、パラレルをマスターする!という目標を立てて合宿に臨んだ。
先生からは、ブランクがかなりあるから最初は無理せず初心者クラスに行こう、と言われた。初日、初心者クラスで私は滑り方と止まり方を教わった……が、つまらなかった!小3以来2回目のスキーとはいえ、体は完全に滑り方を覚えていた。ええいこんなところで練習していては合宿中にパラレルをマスターするのに間に合わない!と思っていたところ、中級クラスの先生がやってきて、この中に中級クラスに行きたい人はいませんか〜と言うので、すぐについていった。そして10年以上ぶりにリフトに乗り、いきなり坂を滑り降りたのである。……親譲りではないが無鉄砲で子供の頃から意外と得をしている。
初日いきなりゲレンデを滑り降りて、私は自分の中にふつふつと自信が湧いてくるのを感じた。そういえば私、運動が得意だった。小学生の頃からダンスと体育教室に通っていて、中学ではバレー部。高校で放送をやったあと、大学で日本文学科に入ったことで、なんとなく昔から自分はスポーツから離れた人間だと思い込んでしまっていた。
2日目、先生にひたすら指導してもらいながら滑る。こうやって滑ってみて、と言われる。できる。その時できなくても、次やる、できる。怖がらずに挑戦するから、上手くなる。1回目より2回目、2回目より3回目に、確実にいい滑りができている。私、覚えが早いな、と我ながら思った。パラレルをマスターしたい!という強い思いがあるから、先生のアドバイスを素直に聞ける。多少怖くても足を前に出せる。未知の動きに挑戦できる。これだ、これだったと思った。私は、こうだった。こうやって、なんでも吸収して、挑戦して、成長してきた。いつから人の話をちゃんと聞けなくなったんだっけ。
3日目、今日も今日とてスキー。スキー以外の話をすると、宿は快適だった。大浴場は私好みの熱めのお湯だった。ご飯の量がめちゃくちゃ多かった。全部食べた。早寝早起きで自己肯定感はマックスになっている。体の調子は小学生みたいにいい。
さてスキー。私のスキーレベルはパラレル一歩手前という感じだった。そこからは特に特別なことはせず、先生に言われた通りの動きを実践していく。練習あるのみ。滑り滑る。そして3日目終わり、ついにパラレルの動きができた。まだ不恰好だけど、板がちゃんと平行になった。ものすごい達成感だった。
4日目、最後までスキー尽くし。私のパラレルにもお墨付きをもらった。その後帰宅。私はこの合宿で、忘れていた自分自身に気づくことができた。私は大きな自信を手に入れた。授業後に提出したレポートにはこんなことを書いた。
〈昔から私は目標に向かって努力することが好きでした。しかし受験の失敗以降、全てを諦めていました。自分の将来に対して適当でした。しかし、本当の自分は、そんな人ではなかったのです。目標に向かって一心に努力する力を、それを達成する力を持っていました。これが私だったんだと、スキー合宿を通じて思い出すことができました。これこそが、今回の合宿の一番の成果です。得られた自信は、一生の財産です。この自信を胸に、私はきっと、自分のなりたい未来を掴んでいきます〉
充実のスキー合宿、完。
以下蛇足。
帰り、上田駅で合宿の責任者の先生とお話しした。身体運動の先生は、一年生の頃に全学科必修の身体運動を教えるので、全学科のカラーが見えて面白いそうな。日本文学科の印象は、真面目でいい子たち。レポートの出来が全学科で一番いいらしく、文章を書かせると敵わないと言っていただけた。しかし!とんでもないことを聞いた。
「「日本文学科の子たちは体力テストの結果が毎年全学科中最下位なんだよな〜」」
ええ……。
確かにそんな気はするが。
しかし私も心当たりはある。私は先生に、「私も運動が得意ってこと、この合宿で思い出しました〜」と言った。自分は昔からスポーツをやってきていたが、高校、大学と文学に専念したため、すっかり自分は文学少女だと思い込んで、スポーツを忘れていたと。すると先生は、「それだ!!」と言った。先生曰く、日本文学科は体力テストの結果こそ悪いものの、授業をしてみると普通にスポーツはできるので不思議だったそうな。きっと、自分は文学少女だ、と思い込んでスポーツはできないと思っているからじゃないか!と先生は妙に納得していた。
来年、日本文学科に来る諸君。
春の体力テストでも、そしてこれからの学生生活でも、思い切って自分自身を出して、損はない。