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【第11回JWCSラジオ リンク記事】野生動物を捕獲して動物園で展示することの問題点

*2022年8月25日、大分市商工労働観光部観光課はニホンザル寄贈事業の中止を発表しました。
「本日、ウルグアイドゥラスノ県から、技術的、経済的等の理由により、ニホンザル寄贈を辞退する旨の書簡が届きました。
本市といたしましてはニホンザル寄贈を、中止することといたします。」

6月16日に配信されたJWCSラジオ《生きもの地球ツアー》の第11回放送、
『野生のサルを捕まえて外国の動物園に送ってもいいの?』のリンク記事です。(以下からお聞きになれます)

 JWCSの会員さんから次のようなメールが届き、今回の番組を急遽作成しました。そのメールには大分市が野生のニホンザルを捕まえてウルグアイの動物園に寄贈する計画があり、2022年3月の市議会でそのための予算が可決したと書かれていました。大分市には高崎山自然動物園があり、そこでは野生のニホンザルの餌付けをしています。
 その野生のニホンザルを捕獲し外国に寄贈することについて、動物福祉上の問題を、NPO法人動物実験の廃止を求める会(JAVA)が指摘し、それが報道されています [1]。

 JWCSが指摘したい問題は、野生動物を捕獲して動物園で飼育する点です。
札幌市が世界基準の動物園を目指した条例を成立させた一方で、大分市はもはや世界では行われていない、国際親善目的の野生動物の寄贈をしようとしています。

この寄贈事業について、まず法律的に問題はないのかから見てみましょう。

関連する法律・条約

1)鳥獣保護管理法(鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律)
 この法律の対象になるのは野生の鳥類と哺乳類(2条1項)、原則として鳥獣の捕獲等を禁止(8条)しています。学術研究のために許可を得た場合(9条)や生息数が増えすぎた場合は、都道府県知事が生息状況を元に捕獲の計画を立てる、第二種特定鳥獣管理計画を定めることができます(7条2項)
 ニホンザルは狩猟鳥獣ではないため、捕獲できるのは農林水産業への被害がある場合で、有害鳥獣捕獲(個体数調整を含む)として、市町村に鳥獣の捕獲許可申請が必要です。
 大分県にはニホンザルを科学的、計画的に捕獲するための第二種特定鳥獣管理計画はありません[2]。

 一方、大分県第13次鳥獣保護管理計画事業には展示目的で「博物館、動物園等の公共施設の飼育・研究者又はこれらの者から依頼を受けた者」にも捕獲が許可されるとあります[3]。捕獲には大分県知事の許可が必要です。

2)文化財保護法
 「高崎山のサル生息地」は1953年に史跡名勝天然記念物に指定されています。
 「史跡名勝天然記念物に関しその現状を変更し、又はその保存に影響を及ぼす行為をしようとするときは、文化庁長官の許可を受けなければならない。(第125条)」とあります。
 大分市議会の質問の中に「天然記念物指定区域内の猿ではない」との言葉がありました。
 

 高崎山自然動物園とは、動物園と名が付いていますが檻に入れての展示ではなく、定期的に餌を撒くことで、野生のニホンザルを近くで見られる場です。そしてニホンザルに名前を付けて群れの行動を研究したことで世界的に有名になりました。その「高崎山ブランドのサル」として寄贈しようとしているように見えますが、計画では捕獲可能な「天然記念物指定区域外のサル」のようです。また野生のニホンザルの行動が観察できることがブランドになっているにもかかわらず捕獲・飼育する事業です。現在の計画では法律は守れたとしても、これでは天然記念物の意味はどうでもよいように見えます。

3)ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物種の国際取引に関する条約)
 ワシントン条約 の対象となる種は附属書に掲載されています。附属書Ⅰ(絶滅のリスクが高い)以外のサル目(霊長目)全種は附属書Ⅱに掲載されています。ニホンザルは附属書Ⅱです。
 附属書Ⅱ掲載種の国際取引(寄贈も含む)には、ワシントン条約4条2項により、日本からの輸出許可書が必要です。輸出許可書の発給には以下の条件が付けられています。

(a)  輸出国の科学当局(日本の場合は環境省)が、標本の輸出が当該標本に係る種の存続を脅かすこととならないと助言したこと。
(b)  輸出国の管理当局(日本の場合経産省)が、標本の動植物の保護に関する自国の法令に違反して入手されたものでないと認めること。
(c)  生きている標本の場合には、輸出国の管理当局が、傷を受け、健康を損ね若しくは生育を害し又は虐待される危険性をできる限り小さくするように準備され、かつ、輸送されると認めること。

ワシントン条約本文

 またワシントン条約では、附属書で使われている[4]「適切で許容可能な目的地」という用語の定義を2019年に決定しました。この用語は、「輸入国の管理・科学当局が、生きた標本の受領予定者がそれを持続的に収容し世話をする適切な設備を有しており、輸入国及び輸出国の管理・科学当局がその取引により域内保全が促進されると納得する目的地」を意味します。そして同時に適切な受け入れ先のガイダンスも採択しました。

 また生きた動植物の輸送については国際航空運送協会(IATA)の規則、航空輸送以外のCITESガイドラインがあります[5]。

 適切な受け入れ先のガイダンスや輸送のガイドラインに法的拘束力はありませんが、締約国が、国内法や措置に反映すべきルール(規範)として
確立したと言えるでしょう。

4) 感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)第54条
 日本への輸入の場合、サルの輸入は一部の国(ウルグアイは対象外)からの試験・研究用または動物園展示用だけが、感染症を人に感染させるおそれがない施設であることを証明してから輸入ができます。
 受け入れ側のウルグアイの法律は不明です。3月22日の大分市議会では大使館を通じて確認中との答弁がされていました。

動物園での展示

 これらの法律・条約で定められた許可が得られたとしても、動物園の展示にはルールがあります。
 世界各国の動物園や水族館が加盟している「世界動物園水族館協会(WAZA)」は2015年に展示のための動物を野生から調達しないことを宣言しました。

『野生生物への配慮 世界動物園水族館動物福祉戦略』(2015)p48
「野生から個体を収集する意図が、明白かつ保証された保全目的のためであることは、動物園・水族館の中核であり、また、所轄の行政機関と協力する場合は、定めた目標が教育や研究、あるいは、野生個体群の長期にわたる持続可能性を促進させるプログラムのための個体収集(例えば、野生にもどすための繁殖における手始めとして)でなければなりません。」

野生生物への配慮 世界動物園水族館動物福祉戦略

 ちなみに日本での現在のジャイアントパンダの飼育は、「日中共同繁育研究」であり、昔の国際親善のための寄贈とは異なります。アドベンチャーワールドは中国成都ジャイアントパンダ繁育研究基地と、ブリーディングローン制度(動物園・水族館同士で動物を貸し借りする制度)を使って共同研究を行っています。

札幌市の動物園条例

 2022年6月6日、札幌市議会では日本で初めての「札幌市動物園条例」が可決・成立しました。この条例は動物園の飼育動物の、種の保全と良好な動物福祉の確保の両方を目指しています。
 これまで述べた世界の動物園の変化を反映したものといえるでしょう。

【最後に】
 大分市とウルグアイの国際親善は、ニホンザルの寄贈ではなく、世界の変化に対応した事業に考え直してもらいたいものです。

【引用】
[1]  テレビ大分「友好の証で野生のサルをウルグアイへ…動物愛護団体が「待った!」サルの負担懸念 大分」2022年6月8日
西日本新聞 「高崎山のサル、ウルグアイへの寄贈は「過酷」 愛護団体が撤回求める」2022年6月15日 等
[2]  大分県ウェブサイト 鳥獣保護管理事業
[
3] 『大分県第13次鳥獣保護管理計画事業(令和4年4月1日~令和9年3月31日まで)』(3-4 その他特別の事由の場合 p20)
[4] エスワティニと南アフリカのシロサイと、ボツワナ とジンバブエのアフリカゾウについての記述
[5] 生きた動植物の輸送についてガイドライン(英語)
https://cites.org/eng/prog/imp/Transport_of_live_specimens


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