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ガザからの声

【パレスチナ事業30周年 ウェブ記事・第十弾】

今回は、JVC会報誌「Trial&Error(通称TE)の中から、2008年12月から翌年の1月まで23日間にわたって続いたイスラエルのガザに対する軍事攻撃に関する記事「ガザからの声」をお届けします。
 
みなさんは”テロリスト”と聞くとどんな人たちをイメージするでしょうか?
私たちJVCはいかなる暴力に対しても反対します。しかし、”テロリスト”と称されている人々が次々に生み出されている背景について考えなければいけません。そしてその背景にある問題を解決しない限り、テロ行為は繰り返されていくのです。

ガザ地区を統治するハマスという政党やその他の武装組織も、世界で”テロリスト集団”の一つとして認識されています。

パレスチナ・ガザ地区は、イスラエルによって陸海空を完全に封鎖された2007年から15年の間に、5回ほど大きな紛争状態またはイスラエルによる侵攻を受けてきました。道路や上下水道、発電所などのインフラや、一般人が居住する建物、商業施設などが破壊され、限られた資金と資材で復旧に励む最中にまた空爆を受け、人々の経済状況や生活環境は年々悪化しています。

直近では昨年8月に3日間にわたる攻撃がありました。これまでにこのような大規模な軍事攻撃によって亡くなったパレスチナ人は約4,000人に上ります。


2014年に空爆を受けた家


パレスチナの中でも、特にガザ地区が空爆の対象となるのには、イスラエル対パレスチナだけでなく、パレスチナ内の複雑な政治的理由も大きく絡んでいます。

詳細については、以下のリンクの「3.封鎖」の章をご参照ください。
https://note.com/jvcpalestine/n/ncdafe8a8b5cd

ハマスはイスラエルの占領に対し、武力をもって抵抗してきました。その結果、パレスチナの公式の選挙(2006年1月)で勝利したにも関わらず、イスラエルや米国などからテロ集団と認定され、ガザ地区自体が封鎖されるに至っています。

ガザ地区の一般の人々は、ハマスの拠点があるガザ地区に居住しているというだけで、40km×10kmという地域に閉じ込められ、逃げる場もない中でたびたび空爆の恐怖にさらされているのです。

ニュースでは、「ガザ側からの攻撃に対してイスラエルが防衛のために空爆を実施した」といった説明がなされることがありますが、そもそもイスラエルがパレスチナを軍事的に占領・封鎖しているというとても不均衡な力関係の中で起こっているという背景は、あまり伝えられることがありません。

これまで、20年にわたってガザ地区で活動してきたJVCには、空爆の最中にガザからさまざまなメッセージが送られてきました。その中には、恐怖やイスラエルに対する怒りだけでなく、「なぜこんなにガザの命は安いのか?」「ガザの子どもたちには恐怖や痛みなくしては、幸せに平和に生きる権利がないのか?」といった言葉もありました。

ガザでリハビリ病院と身寄りのない高齢者や障がいを持つ人々を受け入れる施設を経営しているバスマン院長は、昨年8月の軍事攻撃の際にこのように言っていました。

「私が最も心配しているのは、ガザの人々は死んで良くて、ウクライナの人々は死んではいけないかのように、世界が私たちから目を背けていることです。」

これは、私たち一人一人を含む国際社会に対する重たいメッセージです。現地にいると、パレスチナの人々からはイスラエルに対してだけでなく、それを傍観している国際社会への憤りが感じられます。

誤解のないように補足しておくと、パレスチナの多くの人々がウクライナで起きていることに自分たちを重ね、胸を痛めています。決して自分たちを優先してほしいという意味で言っているわけではありません。ただ、自分たちのことも忘れないでほしいということです。

今回添付した記事の中でガザの医師が語っている「ガザの人々は、世界中から『どんな目にあっても我慢して、強く生きなければならない』と要求されているのさ」という言葉からも、外の人々への憤りのような諦めのような感情が感じられます。

「戦争中は北部にある病院で外科治療を続けていた。24時間のシフト制で、病院勤務が終わると、AEI(※)に来て診療にあたったり、緊急支援を配りに出かけたりした。寝る時間は1日2-3時間。30日目を過ぎたころ、何かが自分の中で崩れ去っていくような気がした。疲れているのに、眠れないんだ。人が助けてとすがってくる夢を見る。怪我をした患者の家族は、医者が神様の様な存在だと思っていて、もう死んでいる家族のために『何かしてくれ』って叫びながらすがってくるんだ。そんな人々に来る日も来る日も囲まれた。自分は懸命に働いていたけど、そういった人々にかける言葉が無くて、ヒーローなんて言葉は何の意味もないと思った。」

この医師だけでなく、何百人、何千人というガザの医療職者が同じ気持ちになったことでしょう。

(※)AEI:Ard El Insan アル・デル・インサーン、ガザで活動する現地NGO「人間の大地」。JVCは2006年からAEIといっしょにガザで子どもたちの栄養改善事業を行っています

イスラエルがパレスチナの占領を開始してから70年以上が経ち、政治的な状況の変化や、世界のいたるところで次々に起こる新しい問題によって、パレスチナの問題は人々の意識の中から薄れ、報道も減っています。しかし、パレスチナの人々の苦悩はいま、この瞬間にも続いているのです。

そんなパレスチナの人々に対して何ができるか?

パレスチナの人々は、支援も必要だけど、現状を多くの人に知ってほしいと言います。政治的な問題の解決に関わることはとても難しいですが、パレスチナの人々が置かれている状況を知り、寄り添うことは誰にでもできます。

この記事のシリーズがそのきっかけになれば幸いです。

2009年2月発行「Trial&Error」272号より抜粋


JVCのパレスチナ事業では、現地に暮らす人びとの意思を応援する形での支援を行なっています。また、パレスチナの問題を日本社会にも伝えることで、一人ひとりが取り組むための橋渡し役を担うことも試みています。 サポートしていただいた分は全額、JVCのパレスチナ事業に寄付いたします。