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さあ


ぬめりの中にあなたの手がある

細い肉のそがれた右手はあなたの手で

それがわかり

手を伸ばそうかどうか迷い

まあ人道主義ととりあえず手を入れて

咥え込まれる感覚が

なんとも不快で

あんたのため も嫌で嫌で

けれど人道主義

されど

だから

と腕を押し込む

あんたの手は遠く

見えているのに届かず

腕を最大限伸ばしても

やっぱり届かず

あきらめても

ばちはあたらないはずで

人道主義は尽くした

と納得を行う

あんたの手は

どんどんぬめりの中に

めりめりもりもりと入っていき

もうほとんど目視できなくなり

消え入った

わたしは失ったつもりなどぜんぜんないけれど

消え入るシーンはふと思い出され

じゃっかん食欲もないのはそのせいかしら

忘れるも忘れないも自然にまかせることに決め

安い安いトラウマか

少し高めの嫌な思い出か

けれどまた同じ場面にでくわしたら

わたしは意地になって

手を引こうとするかしら

あっ

あそこで

ぬめりの中に手が

さあ  あ


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