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踊りのためのノート3:Milestoneー身体のシェルター

贔屓にしているスタジオに、
メンテ直後でも、チューニングがどんどんずれていってしまう古いアップライトピアノがある。

この曲はそのピアノの一番艶やかな音階を使い、
その艶を慈しむようにして描いた。

アルバムのための録音の時はさすがに
チューニングがあっているピアノを使わざるを得なかったが、
それでも、声を重ねたりミックスをする段階で、
どうにかあのピアノの、音程が少しだけずれているからこそ、重なりがあたたかくふくよかな音響を再現できないか、工夫を重ねた。

ずれ、こそがやわらかな質感を生む。不思議だ。
調律が不完全で、よかった。ピアノもわたしも。
そうして作った音は、きっといつか誰かの夜を救う。

曲を録る行為は、情念との遭遇を恐れ、曲の陰で身体を1秒先に逃す行為なのかもしれないと思う時がある。

どうにも、表現する術がない瞬間の隙間は
きっと微細な不協和が担保してくれる。
ここはシェルターだ。

調律の狂ったピアノとともにいて、
わたしは初めて、安心することができる。


直面した途端に、すべて砕け散ってしまうものがある。
だが、何かを乗り越えるためには、
"今"の言葉として一度歌わなければならないのだ。いつかどこかの時点において。

逃げ続けることができない痛苦に身体が追いつく瞬間と、
そのタイミングの定点観測として、この曲をMilestoneと名付けた。

なぜ我々は現在に留まり、
その上であらゆる苦楚に直面し続ける"べき"なのか。
それは心身も結局は日常に還るからだ。

心身をずらさず、逃れず。
それこそが人間の社会における義務であり、
どれほど自由を欲したところで、いつもそんなふうにして生きるわけにはいかないでしょ、と
わたしはもしかして心の奥底で感じているのかもしれない。

でもそんな詭弁はもう不要だと、
この曲は慰めてくれているように感じる。

如何せん、往生際が悪いのだ。
だから自分が必要とする曲を書き続けている。

“Milestone"
https://music.apple.com/jp/artist/jutta-rainn/1454065839

You're free from your lie
We're free from our lives

Talking about thousands of ways you can move (on)towards the endless sea
Call me now thousands of times we can talk about the endless sea

"Fake it, till we make it"

You're free from your life
We're free from our lives
We're free from our lives
You're free

いつまでも罪悪感に縛られる必要はない
私たちは人生より自由だ

終わりのない海にどんどん入っていくための
千の方法について語ろう
いくつもの言葉を重ねて
果てのない海の物語を紡ごう

本物になるまでは、ふりをしていればいい

あなたは人生より自由で
私たちは人生より自由だ

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