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Jの獄中大麻手記(2. 大麻の薬学的解説)

 薬学的な話は、物質(多くが有機化合物)と身体(生理学)との関係を、物質の目線に比重を置いて論じることだと思います。尚、私が「身体」と言う時には、一般的に言う「心(精神)」も含みます。心というのは神経であり、神経は身体の器官の一つで、それは他の器官から独立したものではなく、私は「心と身体」と分けて考えることは不適切だと思うからです。

 先ず、「薬物」とは、物質の中でも、身体の生化学システムに何かしらの影響を与えるもののことで、そのことを「生理活性作用」と言います。つまり、水だって薬物だし、杉花粉だって薬物だし、サリンだって薬物です。逆にガラスは薬物ではないし、健康診断で飲むバリウムも薬物ではないからこそあの用途で使われています。

 ちょっと脱線しますが、私の尊敬する医師であり友人の一人が、「こんなことをして一体何が分かるのかと思いながら、健康診断とかの検査業務をしている。」と語っていたことがあります。聞いた当時は今ほど正確に理解できていなかったのですが、私も同意見です。あなたと隣の人とでは身体の「生き方」があまりにも違います。しかも常時あなたの認知や活動と合わせてトラッキングしているならまだしも、年に一回やそこら、あなたのことを何も知らない人がいきなり検査したところで…的なところもあります。もちろん統計学的な意義や、経済でいうマクロ経済学的な政策アプローチに於ける意義を否定するものではないが、あまりにも盲目的に信仰されているように、私には思えてなりません。「メタボ」という新しい病気を発明した医師というよりはビジネスマンの某氏は、「皆が健康で儲らないなら、新しい病気を作ってしまえば良い」ということを言っていましたが、そういう意図を感じずにはいられません。

 因みに、常時あなたのバイオマーカー(検診の項目)をトラッキングするバイオトラッキングのテクノロジーはどんどん成長しているし、遺伝子医療も実用化まできているので、健康管理の在り方はパーソナライズされた個人対応のトレンドになってきていて、当然このトレンドは保険会社の資本が後押ししています。医療とは何かという哲学は、近い将来パラダイムシフトを迎えると思いますし、それで医学の学問的トレンドも大きく変わると私は予想しています。この辺のテーマはまた別の機会に詳しく語りたいな。

 さて、本題に戻りますが、大麻の生理活用制作用を担保している特徴的な成分は「カンナビノイド」というものです。カンナビノイドは、大麻草(学名カンナビス・サティバ)が固有に持つテルペノイド(テルペン)郡のことで、たしか130種類くらいあることが分かっています。

 私は有機化学が今は苦手なので、テルペンとは何かということを化学式で説明することができないのが悔しいですが、少なくとも分子中に窒素を含んでいないので、毒性の高い物質(生理活性が強く、低用量で不可逆的なところまで作用する物質)の宝庫であるアルカロイドではないというのは確かです。

 「テルペン?なにそれ?大麻の成分ってことは危険なものなんだろう」とあなたは思ったかも知れません。しかし、テルペンは、肝臓を使わずに色々な細胞がそれぞれ処理できる、身体に負担があまりかからないタイプの、自然(基本的に植物)由来の有効成分で、匂いとして感知できることから「香り成分」と言われることが多いです。あなたがコスメ好きなら、クリームなどの成分表に「リモネン」という成分を見たことがあるかも知れません。リモネンは柑橘類に多く含まれるテルペンです。あなたが料理や栄養学に興味がある人なら、コショウの有効成分で「βーカリオフィレン」というのを聞いたことがあるかも知れませんが、これもテルペンです。他にも桃やマンゴーのミルキーな香りは「ミルセン」というテルペンの香りだし、ラベンダーの香りにリラックス効果があるのは「リナロール」というテルペンの作用です。

 テルペンは脂溶性なので、料理で「油に香りを移す」という表現があるのは理に適っています。アロマセラピーはテルペンの作用を駆使したセラピーです。またワインの世界で、ワインの評価をソムリエの文学ではなくテルペンのバランスや量で論じようという動きもあるようです。

 このように、実は身近なテルペン。基本的にはすべての植物が産生しているのだから、身近であって当然ですよね。

 大麻を大麻たらしめているカンナビノイドは身近な成分のテルペンだよ、という話でしたが、テルペンが、というよりもカンナビノイドが更に身近に感じられる事実があります。カンナビノイドをカンナビノイドたらしめる化学構造(もちろんそれはテルペンならしめる骨格の上にあります)と同じ構造を持つ生化学物質を、なんと我々の身体は自ら作って利用しています。しかもそれは人間だけでなく、分かっている限り虫以外の殆んどの動物に共通しています。

 この、あなたや私が身体で作っている大麻成分を「エンドカンナビノイド(内因性カンナビノイド)」と言います。人間のエンドカンナビノイドでは、アナンダミドや2-AGなど色々見つかっています。

 「だから何だ」と思ったかも知れないですが、このことは大麻の安全性を担保する重要な事実です。エンドカンナビノイドを分泌しているということは、その受容体があり(レセプター。人だとCB1やCB2など)、それを再取り込みする酵素(分解酵素。オートレセプター。人だとFAAHなど)と三つ巴でエコシステムを形成しているということで、このエコシステムを「エンドカンナビノイド・システム(ECS)」と言う。こういう生化学物質のシステムは生理的に一般的で、セロトニン・システムとかヒスタミン・システムとかも同じ三つ巴の仕組みです。

 このことが、前述の「肝臓を使わず~」という所に関係していて、要するにカンナビノイド(テルペン)を摂取しても、身体中にあるシステムのオートレセプターで対処できるから、肝臓や腎臓に負担がかからないよってことなのです。一方、多くの化学合成で作られた不自然な薬が「肝臓に悪い」とよく言われるのは、その薬物が作用しているシステム内で対処ができないために、肝臓や腎臓で解毒しないといけないからという事情によります。合成医薬品の効き目がピーキーで切れ味が良く副作用が多く出るのに対して、漢方薬の効き目がマイルドで副作用が少ないことにも、この事情が大きく寄与しています。

 大麻の薬理と言うよりは、大麻とは何かということの説明が長くなってしまっていますが、これは私が、大麻について最も重要な認識は、その有効性・有用性よりも、その安全性にあると考えているからです。今ある非科学的で差別的な大麻の管理システムと、それに培われた文化を見直すに当たって、「大麻はこんなにも有用な作物なんだ!だから解放すべきだ!」という熱い目線や論調はセンセーショナルで、政治的に必要だとは思いますが、実際に感情的な保守派と論を闘わせるなら、もっと本質的なところで、「大麻の様なあらゆる意味でほぼノーリスクな取るに足らない植物に過剰反応して使うエネルギーは、他の適切なことに投資した方が良いだろ」というクールな前提を持っておくことが大切だと思います。

 とはいえ、これからお話する大麻の薬理や医療的なポテンシャルに、あなたは目ン玉が飛び出るほど衝撃を受けると思います。「有効性」目線の情報はかなり豊富にあるので、私としてはアウトラインをペロリとしてみるに留めたいと思いますが、是非色々な人と話題にしたり、詳しく調べたりしてみて欲しいです。


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