好奇心の海にドボーン!(後編)
文科省の海外自費研修制度が
始まったという。
これだ!
40歳を目の前にして、迷わずカナダに飛んだ。
行けば何かが見つかるという予感に導かれて。
バンクーバー生活は発見の連続だった。
研修予定の10ヶ月はあっという間に終わり、
帰国を前にし、カナダに残ることに決めた。
まだこの国で吸収することがある
という直感をたよりに、周囲の反対の中、
まずは跳べ!
とバンジージャンプの勢いで退職届を出した。
すると意気揚々と辞めたものの、
ビザがなかなか降りず、働けない。
毎日暇なので、カメラをぶらさげて、
街や森を歩き、島を旅した。
陽を浴びてきらめく山々。
湖をゆったりと泳ぐカナダグースの家族。
そのまんまの自分を生きる
人々の飾らない笑顔。
美しいものはそこかしこにあった。
無我夢中になって
毎日シャッターを切っては、
日本の友人たちへブログでシェアした。
読む人が元気になるものをと、
毎日何かしらおもしろいものを
探す習慣がついた。
そういう視線で外に出ると、
おもしろい何かに遭遇する。
自分の心臓の鼓動と
世界が同じリズムを刻み始めた。
気がつけば、
18年間チョークを握っていた手には、
カメラが馴染み、
出逢いの連鎖の中、
写真の師匠にも恵まれ、
「撮って書く」が生業となっていた。
5年が過ぎ、
日本に恩返しがしたいと思い立ち
拠点を故郷長崎に移した。
初個展の知らせを聞き、
駆けつけてくれたのは、
成長した教え子たち。
18年間で出逢った彼らが、
世代や出身校を超え、
助け合い、陰で支えてくれた。
その後、さまざまな国を
旅しながら撮影している。
フィンランドでは友人の姉の友人の家を
数軒泊まりながら旅した。
初対面ながら、みな暖かく歓迎してくれた。
ある日森へ撮影へという時、
モデルとなる4歳の女の子が、
突然しゃがみこみ地面を
じっと見て動かない。
同行していた父親も
黙ってその子を見ている。
不思議に思っていると、
「彼女は蟻を見ているんだよ」と言う。
おおお!
なんて素敵!
この子の好奇心も見守る父親の心のゆとり!
静かに心の中で拍手した。
こんなふうに、写真や旅を通して、
本当の豊かさを感じる瞬間は本当にギフトだ。
旅の中、おっちょこちょいの私は
時々ヘマをやらかす。
空港でチェックインするとき、
パスポートが切れていることに
気づくなんてことも。
そんなときも心の真ん中には
いつもアンがいて、
旅や人生で迷子になりそうになると、
「どんな状況も楽しめばいい」
と笑いかけてくれる。
そんなこんなで、
直感と想像力とユーモアとともに、
今もこども時代と変わらず、
好奇心の海にドボーンと飛び込んでいる。
(長崎ほいくだより 2019.3月号)
追記
5年後にパスポート事件を超える
ことになろうとは。笑
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