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雨宿りのアンパン


遠くで雷の音がした。
重たい雲の下、シールドに雨粒を感じながら高山市から41号線を下がり、下呂温泉の看板が見えた頃にとうとう空が号泣し始めた。
せっかくの下呂温泉だが雨宿りできそうなところもわからないし、夜になる前に関西のアパートに着きたい。
走りながらカッパを着られそうなスペースを探していると、前に大きな橋が見えて、なんとかパンツまで濡らす前に橋の下に滑り込んだ。

橋の下には先客がいた。カワサキのゼファー。40代後半風の男性だった。
ヘルメットを脱ぐと、どちらからですか?と声をかけてきたので、帰省先からアパートまで帰ると伝えると、「それじゃあ1日がかりですね。」と驚いていた。男性は名古屋の人で、「ここからなら2時間あれば帰れちゃうんですけどカッパ持ってないから少し待とうかと思って。」と空を見上げながら言った。

雨雲は当分居座りそうだが、こちらは先を急ぐのでカッパを引っ張り出して支度をしていると、彼が缶コーヒーをくれた。
「さっき自販機で当たりが出たんスよ。アレって当たるモンなんスね。」
ちょっと気のいい人だなと思った。
「ありがとうございます。アンパン食います?」と途中の道の駅で買ったアンパンを差し出した。
「御縁ってことで」
そうして、大人の男が二人して雨空を見上げながらアンパン食って雨宿り。
「ごちそうさまでした」「こちらこそ」「気をつけて」「ええ、そちらも」「あ、缶捨てときますよ」「いえ、これは途中で捨てますから」と一通りの儀式を済ませたあとに、
「郡上方面でしょ?多分向こうは晴れてますよ。256のトンネル抜ければ。」と彼は片手を上げて見送ってくれた。

たしかにトンネルを抜けると嘘のように晴れていて、雨など降った形跡もなかった。
道の駅にオートバイを停めて、ギラギラの太陽の下でカッパを脱いだ。
スマホを見ると、雨宿りした橋のところはまだ真っ赤だった。

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