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ゲストハウス 2:43AM 


人のイビキで夜中に目を覚ますなんていつ以来だろうか。
イビキの主は衝立の向こう側の年配の男性。昼間に見かけたときは頭にタオルを巻いていた人だ。
距離で言えば1mと離れていないところに音源があるので仕方がない。ここはそういう宿だ。

今までに泊まったゲストハウスはどこもベッドだったのだが、ここは違う。
六畳の和室が衝立で4つに区切られていて、それぞれに布団を敷いて寝る。2段ベッドのようにカーテンを閉めれば個室感覚と言う感じではない。貴重品は抱いて寝るか階下のコインロッカーにいれるか隣人を信じてバッグに入れたまま寝るかだ。

ボーっと薄暗い天井を見つめながら、20年ぐらい前に泊まった秋田の大湯のユースホステルを思い出した。
石巻から雨の高速を車で走り、途中の岩手山SAの公衆電話から当日の予約をして泊まった。温泉付きで食事も用意してくれた。
その日の客は自分の他は若い男性で、たしか運動の指導員の試験か何かで青森へ行き、そこで立ち泳ぎの実技試験を受けるのだという。そんな話を六畳間に並んで敷いた布団の中でした。
あの翌日は10月だと言うのに朝起きたら雪で真っ白だった。トヨタのカリブで八甲田を超えて行くと言っていた彼はあの後どうしただろうか。試験は受かったんだろうか。

その時の彼がイビキを掻いたかどうかは覚えていないけれど、隣のイビキはまだ止みそうにない。
まだ夜明けまで時間がある。今朝もアラームで目が覚めるんだろうか。
もしかしたら他の泊り客が起きて家が軋む音で目が覚めるかもな。
起きたら散歩に出かけよう。そんなことを考えているうちにまた眠ってしまった。

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