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【小説】放課後の美術室 Ⅱ


 修策の絵を最初に見つけたのは綾香だった。

 もうすぐ、関東三大祭といわれる佐原の大祭が始まる7月。学校のポプラ並木がいっせいに白い花を咲かせ、校庭に雪のような綿毛がちらつく頃、近くにある諏訪神社から佐原ばやしの篠笛の音が流れてくる。

リズムが中心のテンポある賑やかな他の地域の祭ばやしとは違って、心が揺れ動くような切ないメロディーが私は好きだった。

 “回る時計の針でさえ きっと一度は逢うものを

 あなたとわたしはなぜ逢えぬ同じ佐原に住みながら”          

 修策がいなくなった今でも、美術室の向こう側の景色までよく見渡せる二棟の校舎の屋上が私と綾香のランチの特等席だった。 あの頃はこの場所から修策の一部始終が覗き見られた。私は大好きな彼を目で追った。                                                                                          

                                                                             「本当に修策の絵だったの?」                                   「うん。あれは絶対にそうだよ。間違いない。美穂が大好きだったあの、ラベンダー畑の絵だよ」

千葉のローカルテレビ番組で偶然に修策の絵を見たのだという。                           「わたしってスゴくない?」そう言って、綾香は私のお弁当からミートボールをつまんで口の中へ放り込んだ。代わりにおばあちゃん特製のイチゴジャムのサンドイッチをくれた。

 嬉しくて私のテンションはMaxになった。もう、訳の解らないメチャクチャな小躍りをする。                                      

 それは、修策が私の卒業式の日にプレゼントしてくれると約束してくれた大切な絵だったけれど、いつの間にか美術室から消てしまっていた。                      

 ずっと探していた修策の絵が見つかるだなんて!                                                           

今すぐ、絵のある場所へ行ってみよう。行って本当に修策のラベンダーの絵なのか、この目で確かめてみよう!                                

「ねぇ、綾香、場所はどこなの?」 

「千葉港のポートタワーの県立美術館の近くの『K』って画廊っだった」

「行く!」

「はぁ?」

「修策の絵なのか確かめてくる」                  「えっ?今から?午後の授業どうすんの?」         「早退するに決まってる。県立美術館ならここから電車で1時間で着く。住所は電車に乗ってからGoogleで調べるから」                            「美穂はまだ、修策のこと本気で好きだったんだね」                    綾香は弁当箱をランチバッグに詰め込んで帰り支度を始めた。 「私たち授業抜け出すなんて、これが初めてじゃないんだからさ、今までだって色々あったじゃない?いいよ。一緒に行ってあげる」                                    「ありがとう。綾香!」     

私たちは早退届けを担任の机の上に置いて、学校から逃げ出した。

 つづく💖        

          

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