ケーキとこうちゃ

体の傷に無頓着になった、

バイト先には、でっかいオーブンがある。
ピザやパンなどと焼くための、300度ぐらいある本格的なオーブンだ。
すこし触れるだけで、跡がつくぐらい、火力は強い。

キッチンに入るようになってから、たまにやけどをする。
初めてオーブンでやけどをしたとき、先輩や社員さんはびっくりしていた。

「わっ、大丈夫!?」
「すぐ冷やしていいよ!」
「ごめんね、傷が残らないようにちゃんと薬塗ってね」

はい、と言いつつ、私はなんだかどうでもよくて、とりあえずひりひりしていたから水で冷やしながら、傷を見た。

そのとき、体に傷が残ることに、なんの戸惑いも持ってない自分に気がついた。

どうして戸惑いを持たないのか、すぐにわかった。
リストカットの跡があるからだ。
痛いことを我慢することには慣れていた。
辛いことに耐えることには慣れていた。
そんな自分は「普通」とは違うのだと、なんとなく突きつけられた気分だった。

やけどの跡なんかより、リストカットの跡を見られないかどうかひやひやしていた。
そう思ったとき、

「あぁ、私はまだ、リストカットから逃れられてなんかいない」

と、漠然と思った。

毎日のコーヒー代に。