マガジンのカバー画像

ポエトリー

93
運営しているクリエイター

2016年5月の記事一覧

しごと

家をつくる仕事や

パンを焼く仕事は

目に見えるからわかりやすい

詩人の仕事はそうはいかないけれど

今日も、この空の下

誰かが詩を書いているかもしれない

広告の裏紙に

引き出しの奥深くにしまわれたノートの中に

あるいは 文字に残らないやり方で

いつか書こうと思っているうちに忘れられるものは

書いて残されるものよりもずっと多い

今日は雨

大工さんの仕事はお休み

雨の日には雨の

もっとみる

朝焼けD

背後には夜明けが

目の前にはまだ闇があった

スピードがすべるように増す

光が角度を変えて

水を張った田の面を打つ

鏡に昇る球体をみとめる頃には

窓が開いてつめたい空気が流れ込む

色を得ていく世界に向かって車は走る

昇りくる太陽の光を背に浴びて

母の日

夕食後、暗くなってから娘をおんぶして近所の公園へ。

なんでこんな時を持たなかったんだろう。

「ダメ」も「早く」もない世界。

いつのまにか背中の重みが増して、娘が眠ったのがわかる。

一日のうち9割心が泡立っていても、この20分を持つことは可能。

すくわれたおもい。

おぶわれた記憶。

今日が私の母の日。

緑の中へ、光の中へ、物語のはじまり(五月)

緑の中へと歩いていった

満ちてゆく

満たされてゆく感覚が

器の記憶をよびさました

わたしはずっと待っていたのだ

この器が満たされて

静かにあふれだす音を聞くのを

緑はわたしを充たすだけ満たすと

あとは

まわりとのちがいがわからなくなるくらい

緑なのだった

深く底に沈みこんで

足元が目の高さになると

いくつものヘビイチゴが目に入った

また別の日

図書館の裏の大きなカシワ

もっとみる

ガーデン(詩誌『夏至』より)

東向きの窓をあけてオレンジをかじる

裏口から庭へ出て

もやの中に足をひたしていると

草花たちが呼吸の仕方を変えてゆくのがわかる

西の空にはダイコンの薄切りみたいな月がはりついている*1

(Sometimes the sun and the moon can be seen at the same time)

いちばんあたらしい日曜日の記憶

一匹の蠅が唸りながら出口を探す

窓はあいて

もっとみる

声は、声になる前は。

おぼえている?

声は、声になる前は息だったこと。

いま、あなたは生きているよね。

声がでなくても。

てことは、

からだのすみずみまで息はゆきわたっているけど、いま、ちょっと声が出るとこに息が使われてないってだけ。