ガーデン(詩誌『夏至』より)

東向きの窓をあけてオレンジをかじる

裏口から庭へ出て

もやの中に足をひたしていると

草花たちが呼吸の仕方を変えてゆくのがわかる

西の空にはダイコンの薄切りみたいな月がはりついている*1

(Sometimes the sun and the moon can be seen at the same time)

いちばんあたらしい日曜日の記憶

一匹の蠅が唸りながら出口を探す

窓はあいている

誰もみていないテレビ

ぼやけた後頭部

われたガラスで指を切った

吸っても吸っても

あかいビーズのようにもりあがって

ほうっておくと つー、とながれる

いちばん下の妹は今にも側転しそうな勢いの鏡文字で手紙を書く

頭をかゆがるのは真ん中の妹

掻く手をぶつ手

かつて 同じ手でおかあさんは共犯者を手に入れた

それから何年もたって 彼を失ったことに気づく

(長い長いシロツメクサの首飾りをイワナガミクはグミを噛みながら編んでいる)

勉強机の引き出しには板チョコレイトが入っている

食べ尽くす頃、夜はもう来ない

(首飾りはまだまだ長くなってゆく)

青い敷布を庭の奥まで引っ張ってゆき

満開のドクダミを下敷きにして横たわる

ここには妹たちも同級生も来ない

(シロツメクサの首飾りはちぎれて道に ぱらっ ぱらっ と落ちている)

すべてのキッチンは東を向いているわけではなく

玉子の添えられた朝食ばかりがすばらしいわけでもない

じきにまた夜は長くなりはじめる

楽しいことをしていきます。ご一緒できたら、ほんとにうれしいです!