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特別なんかじゃないわたし

わたしがはじめて部屋を借りたのは18歳の時だ。 ひとり暮らし開始年齢の1番のボリューム層らしい。 大学進学のために上京した。 地方出身のわたしからすると東京は何といっても憧れの場所で、 東京に行きたい、ただその一心で勉強をしていた記憶がある。

 つまり、ありがちな話だ。 みんなと同じように東京に憧れて、 みんなと同じように上京してきた。

 はじめて借りた部屋は、何とも狭いワンルームだった。 母が駅からの道やセキュリティー、階数など、心配に心配を重ねていく度に どんどんどんどん部屋が狭くなっていき、 いよいよ当初予定していた広さの半分以下になったところで、やっと決着がついた。  

とはいえわたしはあの頃の生活をとても気に入っていて、自分がまるで映画の主人公になったかのように、毎日わくわくしていた。 狭いキッチンでも美味しいカレーを煮込めたし、 ユニットバスでも一切水を撥ね散らかさなかった。 あとこれは本当に些細な出来事だが、初めて自分でトイレットペーパーを買った時には大人になったような気がしたことを覚えている。  

自分だけが特別だと思っていた。 田舎から上京してきて、都会で寝起きしている、 数えきれない人たちが経験しているただそれだけのことを、なぜかわたし一人だけのものだと思い込んでいた。  

今なら分かる。この生活も、そして わたし自身もごくごくありふれたもので、特別なんかじゃない。 それでもわたしが今もこうして東京で暮らし、 みんなと同じように泣いたり笑ったりしながら過ごしていられるのは、 あの頃のどうしようもない自信とやる気であふれたスタートダッシュのお陰だと思う。 止まることなく流れ続ける人混みの中で、わたしだけはわたしを見つけ出し、特別という名をつけてあげたい。

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