記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

僕たちはもうすぐ会えるはず:日向坂46四期生「新参者」感想

答えが見つからない
出口はどっちだろう
僕ならここにいるよ

日向坂46「見たことない魔物」

2023年は日向坂46にとって苦しい一年だった。これからグループをけん引するエンジンになり得た影山優佳が卒業し、W-KEYAKI FES.の発展的解消や「ひなくり」の開催見送りによりグループがステージに立つ機会は減少。シングル・アルバムのリリース頻度は上がったものの、残念ながらMV再生回数やサブスク配信の指標は右肩下がりだった。雑誌やテレビの出演回数は増えつつあり、けっして露出が少ないわけではないのだが、年末の「紅白歌合戦」の落選がファンの心にとどめを刺したように思う。この一年間抱えてきた不安や悶々とした感情が、ここにきて爆発してしまったようだ。「君は0から1になれ」のMVのYouTubeコメント欄にはネガティブな言葉が飛び交い、紅白落選後にはメンバーたちがその落胆や悔しさをありのままブログやメッセージに吐露した。すこし大袈裟かもしれないけど、恐れていたことが起きてしまった、と思った。

コロナ禍で全盛期を迎えたグループはいま岐路に立っている。ひたすら楽しい未来が見えていた駆け出しの時期はもう終わって、東京ドーム公演後の新しいゴールを見つけて更なる飛躍を目指すのか、もしくは現時点の足場を固めて安定成長を狙うのか、方向性を模索する時期に来ている。しかし、とても大切な一年だったはずなのに、グループをマネジメントする制作陣も、それを形にするメンバーも、追いかけるファンも、どこに向かえばいいんだろう?と迷子になってしまった。上村ひなのが表題曲センターに選ばれるのは果たしてこのタイミングなのか。もっと早くあの場に立たせてあげるべきではなかったのか。カンフル剤として期待されている四期生をなぜ本体に合流させないのか。「全員選抜」を崩すことに二の足を踏んでいないか。コンセプト不明瞭のまま、取ってつけたように「ライブ」をテーマに掲げ、新曲を削ってライブ音源を収録した「脈打つ感情」は、東京ドーム公演以降の迷走をそのまま閉じ込めたような完成度で、ある意味、この数年間の歩みを正しく落とし込めていると言えるかもしれない。Seed & Flowerは欅坂46というアイドル史に残るプロジェクトを成功させながら、平手友梨奈の脱退とともにグループごと崩壊させてしまった前科があるので、正直、日向坂46をきちんとこの先も育ててくれるのか、心配な気持ちが強くなっている。

しかし、そんなモヤモヤした気持ちを吹き飛ばしてくれたのが日向坂46 四期生「新参者」だった。

※ このnoteには日向坂46「新参者」の公演内容に関する記載があります

「おもてなし会」から「新参者」への進化

僕が見に行ったのは11月18日のお昼に行われた第7回公演。前から四列目という絶好の席で楽しむことができた。ステージに近い座席を引いたら自ずとライブの評価は上がってしまうものだろうけど、それでも、日向坂にハマってライブに通いはじめた2021年以降、いちばん楽しくて感動した公演だった。最初から最後までずっと熱くて、何度も終わらないでほしいと思った。恥ずかしくてこれまで声出しなんて出来なかったけど、ミラノ座全体を包む空気におされて、夢中になって叫んでしまった。この線を越えたらもう戻って来れないだろうな、なんて思いながら。

どうして僕はここまで「新参者」に心奪われてしまったのだろう。それはやはり四期生のパフォーマンスに「ここで絶対客の心を掴んでやる」という気迫を感じたからだ。ことしの二月に開催された「おもてなし会」はほんとうに荒削りで、先輩メンバーのような完成度を楽しむたぐいのものではなかったけど、とにかく全てをさらけ出す、この会場にいる観客全員に心と体を委ね、揺さぶってやるというある意味で非常に乱暴なライブだった。それはそれでとても感動的だったし見事に食らってしまったわけだけど、一回しか切れないカードだ。新人アイドルにしか許されない反則技と言っていい。

今回の「新参者」は、もうひとつ上のステージで戦っていた。どうやったら客の心を掴めるのか、人の心を揺さぶるパフォーマンスとは何なのか。きっとそんなことまで考える余裕を持った上で、この場に挑んでいるのではないかと思った。歌やダンスのそろい方も全然レベルが違っていたし、曲の合間の煽りや小さな遊びも、とても進化している。これまでの6公演の中で磨かれたのだろう。「ブルーベリー&ラズベリー」なんて、去年のツアーで見たときと比べると見違えるぐらい良かった。「青春の馬」だって「四回目のひな誕祭」からの成長を感じた。いまあの時の映像を見てもたぶん物足りなく感じるだろう。

そして、とにかくセットリストが素晴らしかった。四期生がけやき坂46から日向坂46への歴史の流れを再演する、言いかえれば、四期生が日向坂になるための通過儀礼的な構成は、「新参者」というライブの位置付けをクリアなものにしている。せっかくなのでその一部を振り返っていこう。

「デビュー曲」

まず、オープニングから、「ブルーベリー&ラズベリー」、「キュン」、「ひらがなけやき」と、それぞれ四期生、日向坂46、けやき坂46の「デビュー曲」を遡るようにして披露していく。「ブルーベリー&ラズベリー」の落ちサビ前には「永遠の白線」オマージュで各メンバーがポーズをキメるパートがあるけど、これを目の前で見られて感無量だった。「おもてなし会」アンコール後の全体力を注ぎ込むようなパフォーマンスもすばらしかったけど、本当に堂々としてきたなあと、それだけで感動してしまった。「キュン」は先輩メンバーとは異なる初々しさがあったし、何よりセンター藤嶌果歩のナチュラルボーンアイドルな佇まいには、将来の表題曲のセンターは約束されていると思わされた。このあとの「アザトカワイイ」でもセンターを務めており、ダンスはまだ成長の余地があると思ったものの、歌声はとても安定しているし、ここぞのキメ顔は全然先輩メンバーに負けていない。意外とこれまでのメンバーとは違うタイプで、自然と目線が向いてしまう華がある。

そこから、最初のMCを挟み、「ドレミソラシド」「ソンナコトナイヨ」「アザトカワイイ」と日向坂46の表題曲を辿っていく。特筆すべきは石塚瑶季センターの「ソンナコトナイヨ」だろう。とにかく暑苦しい!そして音を外そうが構わず元気に歌う。彼女のセンターは公演中この一曲のみだが、ここで自分の最高を見せるんだという気概に溢れていた。サビのチョキチョキダンスも迫力があった。小さい身体でもこんなに存在感を示せるんだと感動した。今回のセトリの中でも屈指の名采配だと思った。

日向坂46が歩んだ道の再演

さらにもう一回MCを挟むと、今度はけやき坂46の楽曲のゾーンに入り、「それでも歩いてる(C:平尾)」、「イマニミテイロ(C:小西)、「僕たちは付き合っている(C:竹内)」、「ひらがなで恋したい(C:宮地)」、「ハッピーオーラ(C:山下)」「ときめき草(C:小西)」と続いていく。「それでも歩いている」で平尾帆夏に任せたのは少し意外だった。イスが12個並べられ、岸帆夏の不在を否が応でも感じさせる演出。そういえば、けやき坂46の立ち上げメンバーも12人だった。四期生をけやき坂46の歴史に重ねようという「新参者」の意図がここではっきりとしてくる。

小西夏菜実センターの「イマニミテイロ」は、グループに加入しながらも殻を破り切れていない四期生の現状とオーバーラップする。がむしゃらに居場所を掴んだ一期生たちの戦いを、四期生もまた背負わされているのだ。小西夏菜実は、「こんなに好きになっちゃっていいの?」や「抱きしめてやる」で小坂菜緒が表現する「静」の部分をさらに昇華して表現できる可能性があるメンバーだと思う。個人PVの「絵になる人」はそんな彼女の魅力を凝縮した作品になっていた。

「ハッピーオーラ」のセンターの人選にも唸る。山下葉留花のキャラクターにぴったりだと思った。松田好花が「日向坂高校放送部」で四期生のことを「外から見た日向坂」のイメージの子たちが集まったと語っていた(つまり「外から見た日向坂」と「内から見た日向坂」は少なからず異なることを示唆している)けど、おそらくきっと彼女はその「外から見た日向坂」のひとりなのだろう。たしかに一期生や二期生はよくよく話を聞いてみると奥手だったり案外一人が好きだったりと、個々はグループ全体のカラーと違う面もある一方、四期生はみんな社交性が高そうだし、主役になってこそ輝くタイプの子が多いと思う。四期生による「ハッピーオーラ」は、けやき坂46の欅っぽさがすこし脱色されて、より日向坂46らしさが前面に出てきていたように思える。

そんな流れの中でパフォーマンスされる「ときめき草」は、デビュー曲候補に上がりながらも最終的にはカップリン曲になった経緯もふまえると、まるで日向坂46のifを見ているようで面白かった。そして、いまの日向坂の「日向坂らしさ」、すなわち、明るさの根っこに流れるひらがなけやきイズムの雑草感は、ほとんど一期生が担っているのではないかと思わされた。四期生に「日向坂らしさ」がないと言っているのではない。日向坂46として初めての単独オーディションを通して「外から見た日向坂」を取り込んだ、最初から輝く場所にいる屈託のなさみたいなものが四期生にあって、それこそが彼女たちの持ち味なのである。四期生が先輩メンバーの歌を受け継ぐことでそこに「あるもの」と「ないもの」が見えてくる気がした。

四期生が体現する「日向坂らしさ」

最終幕の一曲目は「シーラカンス」。MV衣装に身を包んでのパフォーマンスだ。2023年の日向坂46の楽曲の中でも屈指の両曲だと思うので、生で見られてうれしかった。正源司陽子は将来の表題曲センターと目されており、今年のツアーでも「One Choice」の代理センターを任されるなど、すでにハッキリと「育成モード」に入っているように見える。ゾーンに入るとすごく良いんだけど、まだ全体的に固さは残る気がする。しかしスターになれるポテンシャルは間違いなく先輩メンバーを含めてトップクラスだと思うから、今後の成長がとても楽しみだ。

そして小西夏菜実センターの「キツネ」、平岡海月センターの「誰よりも高く跳べ!」のライブ定番の盛り上げ曲へと繋がっていく。キャパ900人と決して大きな箱ではないが、だからこそ観客との距離感を大事に、ていねいにレスを返したり客席を見回したりしながら、ミラノ座全体のボルテージを上げていく。ここからが本当に楽しかった。ふだんライブでは恥ずかしくて声出しなんてしないんだけど、今回は思わず乗せられてしまった。煽りもとても良いし、「誰よりも高く跳べ!」の間奏にダンストラックが入るのもカッコいい。11人という限られた人数だからこその組み立てで、演出家のこだわりも感じられる。私たちが「いま・ここ」で観客の心を掴んで離さないんだという気迫がステージから伝わってきた。この「がむしゃら感」こそ、「新参者」ライブのセットリストが示唆するように、ひらがなけやきイズムと、そこから育まれた「日向坂らしさ」の体現なのだと思う。

最後は清水理央センター「青春の馬」、そしてトリに「見たことない魔物」と続く。ふだんのライブはわりと最後にしっとりとした曲を持ってきて、感動的なムードで締めるけれど、今回は熱量を上げに上げまくって、最高潮に達したところで終わる。

「青春の馬」は、濱岸ひよりの休業と復帰、小坂菜緒が長期離脱した際の金村美玖代理センター(「3年目のデビュー」で描かれたように、この曲の代理センターで評価をあげたことが、のちの彼女の活躍に繋がっている)、「2020FNS歌謡祭」における休養中の松田好花に向けられたソロダンスパート…など、さまざまな文脈の中で育てられた楽曲だ。四期生にとっても、合宿の課題曲として向き合い、「四回目のひな誕祭」では先輩メンバーに替わってパフォーマンスした大切な楽曲である。ここにきて「青春の馬」は、一期生・二期生たちの手を離れて、四期生たちが育てていく楽曲としてバトンタッチされたように思う。今回のパフォーマンスで清水理央は改めてステージの上で輝く人なのだと気付かされた。つまらない言い方になるけど、本当に華がある。歌もダンスも四期生のなかではトップクラスに安定していて、12人の要になっていると言っていいだろう。そして僕は彼女が表題曲のセンターに戻ってきた時の日向坂46はこれまでで一番面白くなっているだろうと確信している。

「見たことない魔物」と「ロッククライミング」が示す四期生の現在地

本編トリは「見たことない魔物」。ツアーを経て練度を上げたパフォーマンスは、会場の熱気もあって、今回のライブでもっとも完成度が高く、見応えがあったと思う。藤嶌果歩もまた未来の表題曲センター候補だが、歌唱力はとても安定していて、ゆくゆくはグループを支える柱になってくれそうだ。「見たことない魔物」は振り付けも「四期生ならでは」を追求している。サビ最後の決めポーズはCRE8BOYらしいキャッチーさがあるし、個人的には落ちサビ前の前進するような腕振りダンスがとても好きだ。野村陽一郎作曲の疾走感あるメロディーも手伝って、ライブ向けキラーチューンとなり得る、いや、すでにそうなっている作品と言っていいかもしれない。

冒頭でふれたように日向坂46というグループは岐路に立っている。そして四期生もまた「自分たちはグループに貢献できているのか」という葛藤を抱えながら日々活動をしている。このことはさまざまな媒体でメンバーが語っている。そんな中で開かれた「新参者」は四期生にとっての勝負の場所であり、またとないチャレンジの機会であったはずだ。「見たことない魔物」は、先の見えない不安の中を彷徨う「僕」の感情をうたっている。「答えが見つからない 出口はどっちだろう?」と戸惑いながら、暗闇を進む二人。「この街を見下ろす丘で会おう」という「僕」と「君」の約束は、四期生どうし、あるいは、四期生とファンの関係を重ねたくなる。歌詞だけ追うと根拠のない、空元気みたいな応援ソングなんだけど、その無邪気さゆえに響くものがある。しかしそのイノセンスはいまの四期生にしか表現でき得ないものだ。そして、だからこそ「そう僕を信じてくれないか?」という希望に満ち溢れたセリフでアウトロなく終わるこの曲をライブの最後に持ってくる構成には痺れてしまった。その問いかけに余韻は必要ないのだ。高まったテンションが最高潮に止まったまま「新参者」の本編は終わる。正直、この後のアンコールもMCも要らない。そう思ってしまうぐらい美しい締め方だった。


アンコールは四期生曲の最新曲「ロッククライミング」と、いつもの定番曲「JOYFUL LOVE」。たまには「JOYFUL LOVE」に頼らないセットリストも見てみたいものだが、「ロッククライミング」は本編トリの「見たことない魔物」とストーリーが連続しており、見逃せない。この曲もまた「目の前に高い壁がある 君は乗り越えられるか?」という、いかにも秋元康っぽい問いかけから始まるわけだが、明らかに四期生のグループにおける今の立ち位置を示している。そんな楽曲のサビに「天を見上げ さあ ワクワクしろ」というフレーズを持ってくるのはとても面白い。「見たことない魔物」の先にある苦味を描きつつ、高い壁をのぼる挑戦そのものに喜びを覚える「ロッククライマー」であれと、背中を押すのだ。正直「JOYFUL LOVE」と順番を入れ替えるか、アンコール後はこれ一曲でも良かったと思う。「見たことない魔物」と並んで「新参者」のために書かれたのではと思えるぐらいぴったりの楽曲だった。

最後のピース

「新参者」は素晴らしいライブだったけど、一つだけ忘れてはならないことがある。それは、四期生はまだ完全体ではないということ。休業中の岸帆夏が加わってはじめて日向坂46の四期生は完成するのだ。残念ながら彼女の参加は叶わなかったけど、いつか必ず帰ってくる。その時の日向坂46はとても強くなっているだろうし、そんな日が一日も早く来るのを願っている。

それでも愛してるか
もちろん愛している
僕たちはもうすぐ会えるはず

日向坂46「見たことない魔物」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?