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エピソード大喜利#99 お題:マッチングアプリで出会って3秒で帰宅、どうして?

幸子は家路を急いでいた。
いつもは履かないヒールの高い靴に慣れていない事もあり、歩きづらさを感じながらも足を、右、左と交互に前へ、前へと急いで出す。

当初の予定ではこの時間はまだ食事をしているはずだった。
だけど相手の姿を見た瞬間、コレは無理だと感じ丁重にデートを断り、来た道を戻る選択をした。その選択に間違いはない。

相手は38歳独身。
アプリ上にアップしている写真は面長の顔で、爽やかに見える白いシャツを着ている。
仕事は有名企業ではないが、メールをやり取りする中で文面から仕事にやり甲斐を感じていて、日々が充実している事は伝わってきた。
趣味はアウトドアで休日に1人キャンプをしたり、ドライブに行ったりと、アクティブに過ごしているそうだ。
結果出会って3秒で帰宅する事になるのだが、メールのやり取りをしている時は不安を感じることはなく、むしろ好感を抱いていた。
よく見るテレビ番組は時代劇、という項目にも少し笑ってしまった。

一方の私は34歳。結婚に焦りを感じた時には「既に時遅し感」もあったが、何とか少し値段の張るマッチングアプリに登録し、ポチポチと仕事の合間に行動を起こしていた。
彼が私のプロフィールを見て「いいね」を押してくれ、それに私が返信をして2人のやり取りはスタートした。

徐々に徐々にお互いのパーソナルゾーンに入っていく、懐かしさや実際に会ったことのない相手とのやり取りに楽しさとこそばゆさを感じながらも実際に会う事になったのは、やり取りがスタートしてから3週間が経った頃だった。

私も学生時代は体育会系の部活に入っていて、アウトドアは嫌いじゃないし、何より年収が他の男性よりも頭ひとつ抜けている事に引っ掛からなかったと言えば嘘になる。
やっぱり収入は結婚相手に求める重要な要素のひとつだ。
なんでこんな人がまだ残っているのか?その事にこの時点で気づけばよかったのだが、マッチングアプリ初心者の私には無理だった。
とりあえず話を聞くだけでも、という軽い気持ちを正当化して、実際に会おうという向こうの提案に「はい」と返信をした。

きょうの為に美容院に行き、服も新調。自然体の自分を見せるべきと何かの雑誌には書いてあったが、自分の自然体がどれなのかもよく分からないぐらい恋愛と無縁の日々を何年も送っていた。

待ち合わせ場所は、2人の家の中間点にあるターミナル駅。
ターミナル駅だけあって待ち合わせ場所としてお馴染みのスポットがいくつかあるが、最も有名な場所は避け、3番目にお馴染みぐらいの場所で待ち合わせる事になった。
当日は早めに起きたのに結局焦って電車に乗る事になり、約束した場所に着いたのは5分前。
ふぅ〜と一息ついて周りを見渡すと、多くの人がいて、上手く会えるか不安がよぎったがその心配は杞憂に終わった。

彼が来たことはすぐに分かった。
彼は颯爽と馬で登場したのだった。
馬上の彼が「こんにちは」と挨拶をしてきたが、そんな彼と馬が合うとは思えず、私は丁重にデートを断り、家路を急いだ。

ひとり~の小さな手~♬なにもできないけど~♬それでもみんなの手と手を合わせれば♬何かできる♪何かできる♪