2020. 10. 18. ゆくえしれずつれづれ Overdestrudo Tour 大阪 心斎橋火影 ライブレポ







「おいおいおいおいお前ら!!!


こぉ〜んないい箱でこんなに近いのに動けないなんて、かぁ〜わいそうだなぁ????」














(すみません今回は前フリちょっと長いです)

どうも


このnoteでもすでに何度か取り上げています、ゆくえしれずつれづれ 『Overdestrudo Tour 2020』も、残すところあと1公演となりました(10/30(金)渋谷CYCLONE・バンドセット公演)。


今回ご紹介するのは、その一つ前、本ツアーのセミファイナルとも言える、10/18(日)大阪公演。


しかして、その戦場となるべく選ばれたのは

泣く子も黙るアメ村のアンダーグラウンド、心斎橋 火影

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大阪は心斎橋、ストリートの地下にひっそりと息づく、キャパ80〜120の極めて小さなライブハウス。

この箱の最大の特徴は何と言っても、客席との段差はゼロ、絨毯やモニタースピーカーがある以外これといった境目がほぼ皆無の、フロアライブスタイルのステージ。

TIGER、PALM、Roar、NUMBERNINE、SUGGESTIONS等、大阪の名うての厳格・極悪ハードコア/メタルコアバンドがこの場所をホームとしており、

過去にはJesus Piece、XIBALBA、Forced Order等の世界基準ハードコアバンドも来日公演でこのステージに立っています。

創立2006年、老舗という古さではないながらも、ハードコアやEMOなどを主とした轟音・爆音のアーティストによって極めて純度の高い歴史の作られる空間であり、そのアンダーグラウンドな空気感はフロアやバーカウンターはおろか、入場前の階段からでさえすぐに伝わってきます。

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・地下1階:ステージ/フロア

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・地下2階:バーカウンター

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開演前、スタッフ高木さんのアナウンスでは、例によって情勢を踏まえた観賞スタイルを守るよう釘を刺す旨の内容。

にもかかわらず、一方で「皆さんを煽るようなセトリにはしました」との説明が。

そして映像スタッフ関上さんの、本ツアーのブッキングに関するツイート。

ついでに冒頭のセリフも思い出してみましょう(後ほど説明します)。


...



わかりますよね。


ああ、間違いなく、今回は全員本気なんだな、と。

いつにもまして、気合の入れ方がまるで違う。


もちろん彼女達/彼達はどの公演にも力を入れているわけですが、某ウイルスの社会的弊害がいまだ尾を引く中、この公演においては特に、そんな中でも戦闘態勢と闘争本能を剥き出しにしている、と始まる前から確信しました。そして、事実、そうだったのです。



ハードコアの聖地たるこの場所で、彼女たちの楽曲・ステージング・精神性etc.全てひっくるめた「作品」が初めて刻まれることに、どれほどの意味があったのか。

当日の空気感なども踏まえつつ、今回はそれをお伝えできたらと思います。






まずはセトリから。

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2020. 10. 18. ゆくえしれずつれづれ 『Overdestrudo Tour』@心斎橋 火影

1. ポストカタストロフ

2. MISS SINS

3. 白と黒と嘘

4. ニーチェとの戯曲

5. REDERA

6. illCocytus

7. 我我

8. Ways to Die

MC

9. 凶葬詩壱鳴り

10.  Karmaloop

11. 逝キ死ニ概論

12. howling hollow

13. memento

14. Wish/

15. 九落叫

16. Loud Asymmetry

17. Doppelgänger

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ライブ定番のリードトラックから激情的なカップリング曲までこれでもかと詰め合わせ、静と動をあの手この手で使い分けつつも激しいバンドサウンドで一貫し、決して最後の一音まで攻撃の手を緩めない圧巻のセットリスト。

彼女たちをよくご存知の方なら、このセトリを見ただけでとんでもない日だと驚くことでしょう。

このセトリの上、重ね重ねですが静止での観賞が求められます。

言うなれば生殺しでしょう。


そう、そんな状態で繰り広げられたのが、1曲目「ポストカタストロフ」、そしてそのイントロから始まる、メンバーの特攻隊的存在たかりたからの煽り。

それがまさに冒頭のセリフだったわけです。


「おいおいおいおいお前ら!!!こぉ〜んないい箱でこんなに近いのに動けないなんて、かぁ〜わいそうだなぁ????」


この、文字通りの「煽り」で、会場全体の高揚感ともわだかまりともつかない感情に一斉に火がついたこと、そしてその行き場が、各々の心の中だけでは収まらず、ただただ静止状態の全員の拳を掲げさせるに至ったことは想像に難くありません。


まだ1曲目ですからねこれ。

フロアを温めるとかそんなレベルの話ではなかったんです。



そしてその熱量はメンバー全体にも一瞬にして飛び火します。


今までの彼女たちのライブを振り返っても、「1曲目」からの飛ばし方、狂い方の瞬発力としてはかなりズバ抜けたものがあったと思います。

冒頭のセリフからもパフォーマンスからもわかる通り、彼女たちもこの箱で演ることにものすごく燃えているんだとすぐに気付きました。




楽曲が後半に差し掛かると、バンドサウンド主体のオケに、激しくも悲痛なスクリームとメロディの応酬から成るボーカルパート、繊細かつ爆音なピアノサウンドが乗り、凄まじい低音とともに彼女たちの「だつりょく系・げきじょう系」の世界観がキャパ100前後の極小スペースであふれんばかりに鳴り響きます。




この景色を目と耳で浴びて、確信にも似た強い感情に胸を打たれました。



これ以上のものはいらない、と。


セトリがどうとかハードコアの聖地だとか、そういう個人的な思い入れを抜きにしても、

心斎橋火影の厳格な気風溢れるステージに、彼女たちの激しく美しい世界観が、なんの誇張も虚栄もなく、ただいつも通りに、真正面から描かれた。


その様子を目の当たりにしただけで、

開演までの一切の期待やら何やらを飛び越えた、もはやその数倍じゃきかないくらいの価値があった。1曲目にして、あの瞬間だけで、確かにそう思わせてくれました。



次は「MISS SINS」「白と黒と嘘」と続きます。

繊細な世界観を披露しつつも、メタリックなサウンドにベースドロップと、サウンドの凶悪性も駆使してグイグイと攻めていきます。



その次の瞬間、まさに次の瞬間披露されたのが、フロア大歓喜必至のキラーチューン「ニーチェとの戯曲」。


「白と黒と嘘」のアウトロが終わったその瞬間「あの」イントロが。

この曲間のインターバルが通常よりもかなり短く取られていました。まさしくアウトロが終わった瞬間にイントロが流れていたと記憶しています(通常通り音源を連続再生すると曲間は数秒空きます)。

フロアを白熱させる楽曲が考える間もなく連続で叩き込まれたこの瞬間のボルテージの高まりは今でも強く印象に残っています。


そして「REDERA」へ続きます。

1曲目からの狂気を携えての「REDERA」は、中盤のスクリームパートでの吹っきれ具合がとにかく印象的で、今までとは一味違う迫力がありました。

時に爆音に合わせて、時には感情のままに動いたり叫んだりする様子は、まさに「楽しく狂っていた」とでも言いましょうか。

タイトル通りの「赤い」イメージの世界観に、赤い照明も手伝って彼女たちのハードコア的側面が剥き出しになった1曲でした。その様子は火影のステージと本当に強い調和があったと思います。
そしてリーダーのメイユイメイが、「赤い」毛先と睫毛、そしてなにより凶悪なスクリームとパフォーマンスで己を知らしめんとし、全員の中でも特に爪跡を強く残した曲でもありました。


そして...

新譜『paradox soar』が発売され、この時期に「REDERA」が披露されたとくれば、次の曲の予想がつく方もいらっしゃるでしょう。


(ですが、ここまで盛り上がっている時にはそんなことを考える暇もありません。)


「REDERA」の次の曲はお察しの通り

illCocytus」。



『paradox soar』の収録の通り、曲間ゼロで即イントロ


直前までの盛り上がりで頭がいっぱいだったフロアは、この瞬間、思い出したようにその熱量がさらに上昇します。



これでも十分すぎるくらいの盛り上がりです。

しかし、あろうことか、彼女たちはまだまだ攻撃の手を緩めません。


次に披露されたのは

なんと「我我」。



いっぱい騒げる彼女たちの定番曲ですが...

「なんと」なのです。


というのも、

このツアー中、もしくはそれ以前から(おそらくライブの自粛や規制が始まって以降?)、ライブハウスはおろか配信ライブでさえ、この曲はずっと演奏されずにいました。

ライブの観賞スタイルが規制されてから、この状態では存分にこの曲の良さを発揮できないということで、封印されていたのかもしれません。

筆者自身、このツアー中はもう聴けないのかな、と思っていましたが、

今回満を辞して披露されました。


序盤の猛攻撃に続いての「我我」解禁。

ここまでのセトリからも、「今日はいつもと何かが違う」という様子が伝わってきて、冒頭にも書いたような全員が背負っている気合をここで再び感じ取らずにはいられませんでした。


100%規制以前のようにはいかないものの、この日なりの最大限の楽しみ方で、長らく封印されていた十八番を全員で共有し、ステージとフロアはともに盛り上がりで溢れていきました。


そして更に続くは「Ways to Die」。こちらもフロアを一気に湧き立てるライブ定番曲です。

この曲はやはりモッシュがあってこそ真骨頂を発揮するのですが、それがなくともボルテージは最高潮。

モッシュが解禁されたあかつきにはどんな光景が待っているのだろう、と期待に胸を膨らませつつ、MCとともに前半戦は幕を閉じます。





後半戦の幕開けは、荒削りな衝動感を打ち出した「凶葬詩壱鳴り」。

envyなどのポストハードコア、叙情系ハードコアからの影響をモロに打ち出した、ある意味「直球」な楽曲。

そこに彼女たちのプリミティヴなパフォーマンスやスクリーム、コーラス、ポエトリーetc...

それがこの心斎橋火影で演奏されたということ。

バンド演奏でなかろうと、何であろうと、この空間で鳴っていた・表現されていたのは紛れもなく、ゆくえしれずつれづれ流のハードコア、YxTxHxCxだったのです

(註: YxTxHxCx = Yukueshirezu Tsurezure Hard Core の略。ゆくえしれずつれづれ の歌詞やグッズなどでたびたび用いられる。NYHC = New York Hard Coreを筆頭にかつてのハードコアバンドが用いた表記をもじったもの)


〜〜(あ、あともう一個与太話)〜〜

今回の公演の開演前にBGMで流れていたのが、downy下弦の月」。

envyの話とも関連して...ということで。

ハードコアどころかジャンル一括りではなんとも形容し難い独創性溢れるサウンドなのですが、envyと世代や界隈を同じくしており、対バンも度々しています。両者とも複雑な世界観や楽曲、轟音での演奏など、多くの面で共通点があります。


おそらく火影のスタッフさんが流していたのだと思いますが...

この場所で、envyに強い影響を受けた側面のあるゆくえしれずつれづれの開演を待つBGMを聴いた時、そして「壱鳴り」が演奏された時、筆者はこれらのパズルのピースにどこか強い繋がりを感じてやみませんでした。

サブスクのほかYouTubeにもたくさん曲があるので、ぜひ聴いてみてください。

〜〜〜〜

はいすみません本編に戻ります


こうして、聴かせ方を変えながらセトリは進んでいきます。


次に披露されたのは「Karmaloop」と「逝キ死ニ概論」。


ゆくえしれずつれづれの中でも、両者ともまさしく叙情系ハードコア、激情系ハードコア、SKRAMZの精神性を体現したような、激しさと重苦しさを凄まじい密度でアウトプットした組み合わせです。


筆者自身、「Karmaloop」はゆくえしれずつれづれの中でも本当に好きな曲です。普段はなかなか披露されない曲なので、1ヶ月も経たないうちにまた聴けるとは思わず...

(前回の千葉編のライブレポでこの曲がどれだけ良いかというのをやたらと書いているので曲解説は以下の記事に委ねます)


しかし、この心斎橋火影というハードコアの箱でこの曲が演奏されることは、限りなく「自然」かつ「間違いない」ことのように思えたのです。

日にちをあけずに観たことも手伝ったのかもしれませんが、そういった意味では、目の前の景色に「驚き」は存外ありませんでした。

心斎橋火影のアンダーグラウンドな空間、そこに彼女たちの緊迫した繊細なパフォーマンスは、運命付けられたかのように共存していたのです。

「Karmaloop」、もしやるなら火影と相性が良くない訳がないことはわかっていましたが、これほどまでとは思わず...

そこに対峙するだけの心持ちすら問われているかのようでした。

「逝キ死ニ概論」で、この緊迫感はさらに増していきました。

フロアライブならではの、パフォーマンスの熱量が直接伝わる臨場感。その真髄をこの2曲で存分に叩きつけられたように感じます。


続くは「howling hollow」。

『paradox soar』収録の新曲ですが、こちら筆者はライブハウスで観るのは初めてでした。個人的にアルバムの中でも一際好きな曲なので、今回この場所で聴けたのは本当に感慨深かったです。


楽曲もパフォーマンスも、とにかく繊細でエモーショナル。この曲の激しさはあくまで曲の世界観を表現するための手段なのだと思います。

振り付けや歌の中では、遠くを見つめたようなおぼろげな視線や、その横顔が印象的なのですが、時折その視線がこちらに食いついたり、歌にも訴えかけるような声色が生まれたりします。

一辺倒でもなく、計算ずくでもない、あくまで自然な表情・感情の移り変わりが、儚くも愛おしい。そう強く思わせてくれる1曲でした。


この切なさが、続く「memento」へとバトンを渡します。

一聴するとキャッチーさが際立つ曲なのですが、振り付けもメロディラインも繊細さが強い印象です。

曲を聴けば聴くほど...というよりも、ライブで一目観ればこの意味がお分かりいただけるのではないでしょうか。

普段は涼しげな顔で流麗にステージングをこなす个喆や小町も、この曲にかかればその嫋やかさが更にきらめいて映ります。

楽曲への感情移入によって、より人間的に映るともいえるかもしれません。個人的にはそんな気がします。

そうして終盤へと向けた切なさが醸成されていきます。



そして、今の彼女たちの代名詞的な楽曲「Wish/」と、今までの彼女たちを示す1曲「九落叫」を立て続けに披露。


激情的に煽り立てるセトリから徐々に切なさを増し、それが最高潮に達したこの領域は、もはやハードコアの表面的な受け売りではありません。


音楽性がどうであれ、激しくてもキャッチーでも、彼女たちのパフォーマンスに宿った精神性や繊細な世界観は、どんな時も一貫しているのだと思います。

激しさと切なさ、繊細さ。「だつりょく系・げきじょう系」。それがいつまでもブレない。それこそが、彼女たちがYxTxHxCxたる所以なのかもしれません。


終盤も終盤、そんな繊細さ際立つ流れの中、尻すぼみすることなく、定番の「Loud Asymmetry」で一気に勢いを取り戻します。

モッシュが定番のこの曲も、規制された観賞スタイルでまた違った一面を見せています(過去のライブレポでも取り上げているのでよろしければぜひご覧ください!)。


いつも(というかここ最近)なら「Loud Asymmetry」で終わりです。


が、ここで最後にダメ押しの「Doppelgänger」!!


こちらも彼女たちの超代表曲。

終盤や締めの1曲として代表的ですが、筆者はここ最近ではかなり久々に聴いたように思います。

代表的と言っても、「定番」というよりは「真打ち」と言ったほうがしっくりくるかもしれません。締め曲として、大切な場面・セトリで披露されることが多いような気がします。


キャッチーでありながら、TakenやSaosinなどの叙情系ハードコア、スクリーモ/ポストハードコアのサウンドと世界観に影響をダイレクトに受けた楽曲。激しく叙情的でノスタルジック、それでいて、彼女たちらしく、最後にはフロアを前向きで多幸感のある空気に包んでくれる、そんな楽曲です。



苦しさをストレートに歌うのも、ゆくえしれずつれづれの持ち味であり、それは彼女たちの世界観の中でも重要な本質の一つです。

しかし、そうした不安定さの根底には、

どんなに吐き気のするような「生」があっても、その存在を否定しきらず、心のどこかに、人が人を想い、関わろうとする気持ちが、いつも残り続けているのかもしれません。


逆説的ですが、

「我我」などにしろ、こんな多幸感のあるフロアを作れる彼女たちが、その一方で苦しさや衝動をあらわにして表現している。その二つの側面はきっと表裏一体なのではないか...ここまでの激動のセトリを経ての「Doppelgänger」には、そう思わせる何かがありました。


今回の締め括りが「Doppelgänger」で本当に良かった、そう心から噛み締めながら、ライブは終幕となるのでした。


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心斎橋火影での、ゆくえしれずつれづれ。

期待を裏切らないと同時に想像を大きく上回る、最高の空間がそこにありました。


過去にゆくえしれずつれづれが対バンした(!!!)SUGGESTIONSが心斎橋火影をホームとしていることを知って、ここにゆくえしれずつれづれが出たら絶対最高なのにな〜なんて1年以上前から思ってたんですが、まさか実現するとは思っていませんでした。先の予定なんて見ず発表された瞬間に予約しましたね。

本当に行って良かったです。



スタッフもメンバーも、誰もが今まで以上の気概に溢れていて、群青(ファン)もこの場所が発表されるや否やその雰囲気やフロアの様子を知り、期待に胸を膨らませていました。実際、それだけの高まり、そしてもちろん火影という空間の圧も相まって、ゆくえしれずつれづれの攻撃性や叙情性・激情性が存分に発揮された1日だったのではないでしょうか。

『Overdestrudo Tour』セミファイナルともいえるこの公演で、ハードコアの聖地たるこの場所をゆくえしれずつれづれが選んでくれたことにはものすごく大きな意味があったと思います。


願わくば、ゆくえしれずつれづれが心斎橋火影との出会いを、これからも長い間大切にしていってもらえたらな...と、少なくとも筆者自身は、切に切に、そう願っています。あの場にいた一人でも多くの人が筆者と同じ気持ちだったら嬉しいです。あの時いなかった方も、彼女たちの楽曲やセットリスト、火影の写真、あわよくばこのライブレポなんかを見たりしながら、想いを馳せていただければな、と思います。







はいっ



じゃあそんな感じで


次のライブレポはいつになるやら




またお会いしましょう


あっ良かったら過去のライブレポも見ていただけたら嬉しいです!






それでは

また







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