金継ぎの精神を世界へ

私は福島で生まれ福島で育った。ただ、とても悲しいことに自分の愛する福島は東日本大震災によってバラバラに壊れたしまったように感じる。福島第一原発事故の廃炉作業だけではなく、本来、日本の20年30年先の未来の課題であった少子高齢化、様々な風評被害、過疎、限界集落から消滅集落へ、コミュニティの崩壊、政府への不信などが震災により時計の針が急速に進み、明日どうすればいい?といったような状態で日々噴出している状態だ。
皆さんは「金継ぎ」という言葉を知っているだろうか?金継ぎとは金繕いとも呼ばれ、割れたり、かけたり、ヒビの入ってしまった陶磁器を天然の接着剤である漆で接着し、接着部分を金で美しく装飾し仕上げる日本古来の修復技術であり、金粉を施すのには蒔絵と同じ技法が使われている。修復された器の継ぎ目は景色と呼ばれ、割れてしまった欠片をつなぎ合わせることで割れる異なる趣を鑑賞することができ、茶の湯の世界でも、とても大事に扱われ愛でられている器としてより価値のあるものとされることが多い。16世紀後半から会津地域では漆文化が発展してきたため、街の飲食店で出される器がよく見ると金継ぎしてあったり、個人でもお気に入りの器が壊れてしまった時は、捨てたりせず職人さんに直していただたり、自分で金継ぎして愛する器を一生かけて使い続ける人も多い。恥ずかしながらそういう事が当たり前の文化的にも恵まれた土地である福島、会津に生まれ育ったため今まで特別意識したことはなかったが、会津の漆文化の育成に携わる尊敬する会津の先輩に「金継ぎ」のコンセプトを東日本大震災以降にあらためて聞く機会があり、その美しいコンセプトにとても強く心を打たれた。震災でバラバラになってしまった今の福島に必要なのはまさしく「金継ぎ」の精神ではないだろうか?
現在、自分のプロジェクトであるスマートシティ向けの自転車のIoT であるる”FUKUSHIMA Wheel” (URL: http://fukushimawheeel.org/ )というプロジェクトをやっており、今年の5月には神戸で開催された広める価値のあるアイデアをお話しする場所であるTEDxKobeでもお話しさせて頂いた。先月から今月にかけては北京、台湾、そしてシリコンバレー、サンフランシスコをまわっている。そもそもこのプロジェクトは震災以降に被災地に、より人が戻ってきてほしいという思いから始まっており、環境センサーやLED、スマートフォンがつけられたハイテクな自転車はその思いを伝えるため、フレームや車輪を会津の漆でわざわざ塗ってもらい金継ぎのモチーフを入れてもらっている。バラバラになってしまい西洋的な価値観では無価値になってしまったものを、東洋的な感性で職人が丁寧に手を加え、より価値のあるものに昇華していくというプロセスやコンセプトは海外の人々の心をも強く打つようだ。イギリスの詩人のオスカー・ワイルドはこのように言っている。「悲しみの奥には聖地がある。」福島はその聖地に違いない。サンフランシスコのダウンタウンを見下ろす21階のホテルより。

*2015年の福島民報の民報サロンに掲載された記事です。

追記:”All my life, I have been in love with the sky. Even when everything was falling apart around me, the sky was always there for me. The sky was the only constant factor in my life, which kept changing with the speed of light and lightening. As I told myself then, I could never give up on life as long as the sky was there. “ — Yoko Ono

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