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奥野じゅん
2021年4月9日 08:28
柵のないまっすぐな橋が、片道切符しか受け付けていないのは明らかだ。 犯人の思うつぼなのは理解しているけれど、僕に与えられた選択肢は、相手の要求どおり、あの小屋の中で『待っている』とされる枕辺さんのもとに行くしかない。 別にすごい使命感とか、絶対に助けるみたいな空回りのうぬぼれもなく、単純にGo or Go、自動的なものだ。
2021年4月8日 07:35
朝焼けの水鏡が、彼の位置からどう見えていたのかは分からない。 離れて眺める僕の距離があってこその神秘だったのか。 それとも何だ、ぜひここへ飛び込みたいという魔力に吸い込またとか?
2021年4月7日 08:07
そう考えると、アリバイの証拠を集めるよりも、まずは犯人の動機の部分を考えた方がいい気がした。 ……この犯人にとって殺人は、気を払うことすらない、軽いものなのではないかという気がしてくる。 たとえば、まっすぐ道を歩いていて小枝をパキッと踏んでも、特に気にしないような感覚。
2021年4月6日 07:42
きょうほど、自分の職業が探偵助手であることを後悔したことはない。 通れば必ず気が触れるという穴に、わざわざ入らないといけないなんて! 見た目には何ともない穴が、ぽっかりと、何の変哲もない向こうの景色を見せている。
2021年4月5日 07:23
お天気に心情を映し出したりするほど乙女的ではないはずだけど、この……この濃霧はまずくないか……? 嫌な予感しかしない。 枕辺さんはどうかと思ってちょこっと横を盗み見ると、彼はあまり見ない神妙な表情で、橋の向こうを見つめていた。
2021年4月4日 13:42
経験上、新しいことを始めた日はやる気に満ちあふれ、夢を描き、綿密な計画を立て……そして一週間後にはなあなあになって遠ざかる。 中学のお年玉でギターを買ったときもそうだった。 家族は全員やめておけと言ったけど、じいちゃんだけが僕の気持ちを考えてくれたと喜んで、じいちゃんもきっと、甘やかしてるとか言われても気にせず、孫の好きなことをやらせることに決めたことに満足していたに違いない。
2021年4月3日 10:17
スキー、だなんて、聞くだけでおそろしい。 あんな選民意識の塊みたいなレジャー、僕みたいな劣等感まみれの人間が好き好んでやるわけなかろうに。 どうせ大した意図もないであろう適当な質問を寄越してきた枕辺さんに、ストンとチョップをくらわす。
2021年4月2日 12:46
どうして僕は、こういうときに限って初恋の女の子を思い出してしまうような、センチメンタルロマンチック野郎なんだろう。 強めのまばたきを二度三度、ふうっと息を吐いて気を引き締める。 意を決して、僕は扉をノックした。
2021年4月1日 02:45
僕は調査に来ただけだ。 ……と、必死に自分に言い聞かせているけれど、女性のひとり暮らしのマンションに来て、なんだかいい匂いのする紅茶を出されて? 枕辺さんごめんなさい。あなたがいつも褒めてくれる『正直さ』が、こんなところで出てしまいそうです。
2021年3月31日 02:06
こんな風に孤独に迷ってしまっても、顔が良ければ、森に住む少数民族の少女に助けてもらえただろうか? 平凡な両親の顔が思い浮かんでようやく、自分が『死ぬのかもしれない』という考えに思い至ったのだと気づいた。 きつい日差しの割に、土は湿り気を帯びて冷たく、しかし僕ののどは渇きっている。