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内省の三行

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ランダム生成された写真をお題に、地の文の心理描写3行を書く練習をします。写真は https://picsum.photos さんから。
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2023年3月の記事一覧

3/31

3/31

 放課後、通り雨が過ぎるのを待つ昇降口で、友達と大喧嘩してしまった。
 ビアンカフローラ戦争だ。
「独身介護まっしぐらの幼馴染みを見捨てて、ふらっと立ち寄った街のよく知らない金持ちの女と結婚するのか」と憤る僕に対して、友達は「1回レヌール城を探検しただけの仲を幼馴染みと呼び、他人の金で結婚式を挙げるのか?」と呆れる。
 雨はとっくに止んで、曇り空は太陽光を帯び、くすんだ黄色になっていた。

3/30

3/30

 海の表面と海底が同じものだなんて、ちょっと信じられないな。
 波はささくれの往来だし、海中はうねりだし、海底は静そのもののように思う。
 ぴたりとして動かない、空気のない、全てが水に満たされた場所?

3/29

3/29

 連帯感は、人の思考を麻痺させることがあると思う。
 大勢の人たちと一斉に同じ旗を掲げて大声を上げているとき、本当に自分の考えを言っているとな思えない。
 こんなこと言いたかったわけじゃなかったかもと思うのはたいてい、その様子をおさめた写真なんかをもらったときである。

3/28

3/28

 子供のころ、遊園地のタイルを指でなぞっていたら止まらなくなり、いつの間にか迷子になっていたことがある。
 終わりのない幾何学模様を、おそらく500メートルくらいはなぞり続けていたのではないだろうか。
 大泣きしているところを母が見つけ、僕を抱き上げたところでようやく、指が離れたのだった。

3/27

3/27

 花粉死ね、と泣き怒りながら君は顔を近づけてきて、僕は素直にキスをした。
 散々なファーストキスだった、もっと美しい感じでしたかった、春ではない季節にもう一度やり直したい等々、飲みすぎた日の終わりに君はいつも、くだを巻いていた。
 その人工呼吸器が取れてくれないとやり直せないので、目を覚ましておくれ。

3/26

3/26

 廃線の、あえて線路の中を歩いて進む。
 土からもりもりと顔を出す雑草や、覆いかぶさるように生え襲いかかる青々とした木々は、食ってやるぞと言わんばかりに線路に向かって伸び、そのまま時を止めている。
 僕は、絶対に電車が来ないという余裕とか、本当はいけないことをしても誰にも咎められない面白さを味わった。

3/25

3/25

 要するにイマジナリーフレンドみたいなもので、頭の中の彼と話すことが、幼い僕にとっての安寧だった。
 いつの間にか消えていた。
 いつの間にか、話さなくても大丈夫になっていた。

3/23

3/23

 古い橋脚を見上げながら、ありもしないノスタルジーに思いを馳せていた。
 子供のころに出会っていたら、きっと夢中になっていたかもしれない。
 そして、大人になったいまをかみ締める。

3/22

3/22

 そのトンネルは、猛々しくそびえる山にぼつりと鉛筆を挿して穴を開けたような、突拍子の無い存在に見えた。
 最後に対向車とすれ違ったのは二十分以上前だ。
 眠気もあいまって、トンネルに吸い込まれたらそのまま崖の向こうに放り出されるんじゃないかというぼんやりとした妄想が――要するに眠たいわけだ。

3/21

3/21

 ついてこいと言われたからついてきた。
 景色の良い場所か、僕のためになるところに連れて行ってくれると思っていた。
 そして混沌があった。

3/20

3/20

 本格的なカメラで撮られるのが苦手だ。
 スマホのカメラなら、単に記録の意味合いが強いから、撮られる方も特段意識しないが、本格的なカメラを構える人は、撮影すること=「作品」を作ることなのだ。
 僕が作品の一部として固定されることが、面はゆいような、僕のあずかり知らぬところで彼の著作物として好き勝手されるのが嫌なのか……とにかく苦手だ。

3/19

3/19

 子供のころは余裕で飛び降りられたブロック塀や、結構な高さまで漕げたブランコ。
 あの当時のことを大人の身長に換算すると、信じられない高さまで体を浮かせたり落下させたりしていたということだ。
 いまやったら死んじゃうだろうな、筋肉のバネも度胸もきっと、デカい体を支えきれない。

3/18

3/18

 夏の蜃気楼を育て上げたら、このビル群ができたのだろうか?
 太陽光がジリジリとアスファルトを焼き、立ち上った揺らめきがにょきにょきと伸びて、まるで雲の上まで――
 そこで僕の記憶は飛んで、気づけばいま、この病室である。熱中症で倒れたらしい。

3/17

3/17

 さあ決戦だとか、いざ出陣だとか、そういう格好のつく言葉を思いつければよかったけれど、僕はそういう感じじゃないタイプの男だったことに気づく。
 脳内ではほぼ振り上げかけていた拳を、恥ずかしく思いながら、デニムの後ろポケットに突っ込む。
 不必要なほどもじもじしてしまう。