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エンタメ最速伝説エリ ACT.1 坂崎奈々

 あらすじ
 東京で歌手活動をしていた少女・宇喜多依里、レコード会社との契約が切れて岡山に帰ってきた。
 明石あきらはファンである彼女と岡山国際サーキットのクラブハウスで遭遇し、歌を聞く。
 ある日、依里はレコード会社の職員からエンターテイナー・レーシング・エクストリーム、略してE.R.Eへの参加を勧められるのだった。

「E.R.E? 参加した方がいいです」

「へぇ!? 私レプリキットの免許を持っていないし、クルマの運転の経験はないよ!?」

 レプリキットというクルマの操縦には免許が必要だ。
 今のクルマと違って、ドライバーの力で動く仕組みとなっている。
 だから免許を必要としている。

「メールの人も言っていますが、レプリキットの免許は親の同意があれば18歳未満でも取れますよ。あたしだってそれを持っております」

 あきちゃんは自分の免許を見せてくれた。
 彼女は16歳だが、親の同意を得ていたので取得していた。

「これです。あたしはこれがあるから、レプリキットというクルマを運転できるんです
。参加するなら親の同意を得た上で取った方がいいです」

「わたしの親は同意をしてくれるのかな……」

 話はE.R.Eに変わる。

「他にもE.R.Eで活躍できるのかな……? 複合競技だし」

 その大会は芸能人によるレプリキットのカーレースだ。
 サーキットのみならず、封鎖した公道で行われている。
 先にゴールした者が1位になるグリップ競技のみならず、走りの美しさを競うドリフト競技、直線で速さを競うドラッグなどといった複合競技になっている。

「レコード会社から契約を破棄されたなら、E.R.Eに参加すれは復帰できる可能性だってあります。勝てばの話ですが」

 スマホを起動させ、男女5人と5台のクルマが写った画像を見せる。
 彼らを性別で分けると女:4男:1という割合だ。

「このグループは岡山最速のチーム、INFINITE SPEEDです。今は岡山最速のアイドルチームですが、かつては全く売れないグループでした。しかし、E.R.Eで最速になったことでブレイクしました。依里先輩も参加すればチャンスがあります」

「本当なの?」

「本当に売れます。戦いはキツイですが」

 あきちゃんに強く背中を押される。

「なら、参戦する! 勝って、再デビューと同時にブレイクしてみせる!」

 こうして、私はE.R.Eへの参加を表明した。

「その前にレプリキット免許を取るために、親を説得してみる。道案内するから、私の家に連れていって!」

「了解です!」

 あきちゃんのクルマに乗り込み、目的の場所へ向かう。

 
 私の家へ着くと、そこに入る。

「ただいま、お母さん、お父さん」

「依里、友達を連れてきたの?」

 迎えてくれた両親にあきちゃんを紹介する。

「いや、この子はファンの明石あきらちゃん。あきちゃんだよ。いつも曲を聞いてくれているよ」

「依里のファンね、音楽を聴いてくれてありがとう」

「いえいえ、この曲で励まされましたから」

 両親をリビングに呼び寄せる。
 あきちゃんも含む4人全員でテーブルに座ると、重い口を開かせる

「お母さん、お父さん、実は……話があるんだけど」

「何……依里?」

「私……E.R.Eに出るためにレプリキットの免許を取りたい」

 お母さんが口をゆっくり開かせた。
 

「依里……それって本当なの!?」

「本当だよ、歌手活動に復帰するため、そしてブレイクするためにE.R.Eに出たいの。そのためにレプリキットの免許を取りたい」

 返ってきた言葉は予想していた。
 雰囲気は重く包まれる

「レプリキットを使うE.R.Eっていうのはキツい上に、危険な世界だよ。レプリキットは安全性が元となったクルマより優れているとはいえ、今のクルマより危険だから事故って怪我したり、中には命を落とした人だっているの」

 さらに、私の知らない昔の話もする

「いつ話そうか考えたけど、今話すね。依里がお母さんのお腹の中にいた頃、お父さんはレプリキットを運転して事故を起こしたの。それで自分で歩けない身体となったの」

 実は私のお父さん、自分の力では歩けない身体となっている。
 物心ついた時から疑問を感じていたが、まさかそれが原因だったとは。

 お父さんも口を開く。

「依里、お父さんみたいな身体になってもいいのか? レプリキットを運転して事故ったら、この家族で歩けない人が2人になってしまうかもしれない。反対だ」

「歌手活動の再開には反対しないけど、そんな風にならないためにレプリキットの免許は取ってほしくないよ」

 両親に反対される私。
 ここで、あきちゃんが家族の会話に乱入する。

「なんで反対するんですか? 改めて言いますが、あたしは依里さんの曲で励まされた一人です。もっと売れてほしいから、E.R.Eに参加し、そのためにレプリキットの免許を取ってほしいんです!」

「けど、これは家族の会話……」

「家族の話じゃあありません、依里先輩の話です! 事務所から解雇された彼女に光が当たる日を願い、E.R.Eに参加させ、レプリキットの免許を取らせて下さい! 彼女がブレイクすれば、あなたたち両親の生活も楽になります! 娘さんが有名になれば嬉しいと思いませんか?」

 席から降りて、土下座する。

「どうか、お願いします! 娘さんに免許を取らせてください!」

 彼女の土下座を見た両親は心に光が走った。

「分かった、娘にレプリキットを取らせることを許可します。依里、事故には気をつけてね。歩けない人を2人にしないために」

 あきちゃんの土下座は効果があった。

「お母さん、ありがとう」

 私は両親に感謝した。

「昔のあなたに似てきたね。彼女の瞳が」

「いやいや、新しいことに決心してきた顔だよ」

 この件は両親よりあきちゃんに感謝しないと。

 翌日から教習所に通いはじめ、それから3週間後に私は仮免許を取得した。

 5月3日金曜日の祝日。
 世間でいうゴールデンウィークと呼ばれる大型連休に入った。

 9時に岡山国際サーキットへ向かうと、後からあきちゃんに乗せてもらった黄色いスポーツカーがやってくる。
 ただし運転席から降りてきたのは彼女ではなく、別の少女だった。

 彼女は、白のカチューシャを纏めた茶髪のストレートロングヘアーに垂れ目な顔つきで、クリーム色のカーディガンを羽織ったセーラー服に下は黒のタイツを着用していた。

「あなたが宇喜多依里ちゃんだね? あたしは坂崎奈々……あきらの友達だよ」

 奈々さんという人は、自身とあきちゃんと写ったスマホの写真を見せた。

「E.R.Eに出るんだよね? 協力するよ! 友達が好きな子を応援してあげたいからね。さてと、クルマの運転席に乗ってね。君の腕が見たいんだ」

 その前に「仮免練習中」と書かれた紙をクルマの前後に貼り付ける。
 作業を終えると、私は運転席、奈々さんは助手席に座る。
 E.R.Eの競技について解説して貰った。

「E.R.Eの競技は複合型であり、先に周回した方が勝ちのグリップ競技や走りの美しさを競うドリフト競技、平均速度を競うスピード競技とかがあるんだよ。複数極めないと戦えないのが辛いことなんだよね……また軽度の接触が許されているから、ツーリングカーレースみたいな喧嘩レースも見られるよ」

 さらにはこのレプリキットについて、語って貰った。

「このレプリキットは私の所有物なんだ。たまにあきらにも貸すけど。この子はSW20型MR2、元となったのはおじいちゃんやおばあちゃんが生まれた頃に作られたクルマなんだ」

「そうなんだ」

「燃料はガソリンでは植物由来のバイオ燃料を使っているんだ」

 電気自動車の時代に、レプリキットも環境にも配慮されているとは、地球も助かる。

「そろそろ走ってみない? コースインしててね」

 SW20のアクセルを踏み込み、ハンドルを握りながら岡山国際サーキットのコースに入った。

 
 メインストレートを通って、右に曲がっている第1コーナーに入る。
 ブレーキのタイミングが速すぎると同時に外側に膨らんでいく。

「あらら」

 この後の短い直線ではアクセルを強く踏めず、後ろから来たクルマに抜かれてしまう。

 直後の左中速コーナーのウィリアムズコーナーも、外側にふらつきながら抜けていく。

 左側のS字区間のモスエスもジグザグに曲がりながら走っていく。。

 助手席の奈々さんは私の運転をこう評した。

「やっぱ仮免の時点で予想してたけど、本当に運転は素人なんだな……ずっと走っても伸びなかったら現実を見て諦めてもらおうかな?」

 
 そう思われたのか……ダメだな、私

 
 外にふらつきながらアトウッドカーブを抜け、バックストレートに入る。

 ここで奈々さんからアドバイスを受ける。
 

「エリーと呼んでもいいかな? エリー、もうちょっとアクセル全開にしてみない? 強く踏める!?」

「やってみる」

 アクセルを強く踏むと、クルマは200km/hを越える速度で加速しだす。
 今までにない感触を感じた。

「速い……まるで風のようだ……!」

 クルマってこんなに速く走れるんだ。
 何だか怖い。
 けど、気持ちいい。

「エリー、ヘアピンコーナーだよ! ブレーキを徐々に詰めていって、外側から入って!」

 指示通りに、右U字コーナーであるヘアピンコーナーを攻めていく。

「外側から内側を通って、外側で出る走り、アウト・イン・アウトって言うんだよ。速く走るための基本だからね」

 走りのテクニックを1つ覚えた。

「すぐコーナーが来る! 外側に寄りすぎない程度に短い直線をS字に蛇行して、コーナーが来たら外側から内側を抑えながらスピードを落とさず走って!」

 左90度コーナー、リボルバーコーナー。
 ここも奈々さんの指示通りに攻めていく

 すぐ、さっきと同じ形をしたコーナーであるパイパーコーナーに差し掛かる。
「外側から入って脱出を重視して」という指示を聞きながら抜けていき、直線へ入っていく。

 そこを抜けると、Wヘアピンこと左U字のレッドマンコーナーと右U字のポップスコーナーに入っていく。

「外側から入って、内側をデッドに攻めて! 立ち上がりではS字に蛇行して外側に移動して!」

 奈々さんのアドバイス通りに攻めていき、左高速のマイクナットコーナーは内側をつめて抜けていく。

 いよいよ最終コーナー。
 形は右高速となっている。

「ここは外側から内側に入って、遅すぎず速すぎず突っ込んで!」

 ここも指示通りに突入し、メインストレートを突っ走っていく。
 時速はバックストレートの時と同様、200km/hを越えていく。

「エリー、次の周も行こう!」

 練習走行は2周目に入っていく。
 その後も、日が暮れるまでサーキットを走り続けた。

 午後7時頃、SW20はコースを出て駐車場に入っていく。
 あたしとエリーはクルマから降りていく。

「じゃあ、ありがと。またね」

「こちらこそ、またね」

 エリーはバス停へ向かい、自動運転のバスに乗りこむ。
 現在、家族と共に県外へ旅行中のあきらにスマホで電話をかける。

「もしもし、あきら? 実は今日、宇喜多依里ちゃんという子とサーキットで練習走行するね」

「本当なの? ゴールデンウィークが終わり、旅行から帰ったら、依里先輩と走ろうかな?」

「その時はよろしくね」

 あたしは会話を終えると電話を切り、家までクルマを走らせる。

 GWが終わって、5月7日の火曜日。
 あたし、エリー、あきらの3人がついに集まった。

「こんにちは、あきちゃん、なっちゃん!」

「こんにちは、依里先輩」

「こんにちは、エリー」

「あっ、来たね」

 自動運転の箱バンが2台来る。
 銀髪の男女11人が降りてきた。
 エリーに彼らを紹介した。

 
「この人たちはメカニックロボと言われいて、レプリキットのメンテナンスは彼らが行うからね。今日からサポートしてくれるよ」

「あ、初めまして。よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」

 11人は挨拶を返した。

 3人のドライバーと11人のメカニック。
 彼らが集合してから初めての練習が行われる。

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